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元奴隷(敵国の騎士)×捕えられた小貴族
小話①
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「只今戻りました、陛下」
「おぉルシウス!我が息子よ、よくぞ生きて戻ってくれた」
現国王マルツとルシウスは父子と呼ぶより祖父と孫に近いほど年が離れていた。
二五年以上も前だ。若い女に目がない王が開いた夜会で一夜の相手として見染めた田舎貴族の娘、それがルシウスの母であった。
「しかし療養が必要だな。とにかく傷を癒す事に専念するといい」
「ありがたき幸せ」
跪き父王に忠誠を誓う姿。
―――――しかし腹の内は違う。
父王は息子ルシウスを労う声をかけはしたが、今回の争いが息子ルシウスの奪還戦だった為の恰好だと知っていた。
王位継承権を捨てたルシウスだが騎士として数々の功績を残してきた。
雄々しく気高い騎士の鏡のような存在。その活躍を直に見てきた騎士だけではなく、民衆からの信頼も厚く非常に評価が高かった。
死んだと聞かされていたのに―――。
ある日、そのルシウスが、実は隣国ゼノンに掴まり生かされていると噂が立った。
【きっと酷い目に遭ってるに違いない】
【国王様は何故ルシウス様を助けない?】、【これほど国の為に働いてきたあの方を見捨てるのか】。
噓の情報かもしれないがルシウスの死体が見つかってない事実もある。
真実を明らかにしない王政に民衆からの強い反発があったらしく、これ以上民からの評価が下がる事を恐れたマルツ王は動かざる得なかった。
すべては、王座にしがみつく為に。
(まぁ、俺にとっては有り難い王命だ)
期限のない療養―――とは有り難い。
連れて帰ったウィルを長時間一人にしておくのは心配で心が痛む。
* * *
【どうすれば陛下はもう一度、わたくしを見てくださるの?】
母親の口癖だった。
なんて儚く、かわいい貴族のお嬢様だろう。生まれたばかりのルシウスは母と共に城へと召し上げられたが、既に王位継承権の座は埋まっていた。
あの男に最初から恋だの愛だのあったはずもなく、あったのは精力だけだ。
それでも王を恋しく想い、嘆き喚いた母親は【ルシウスが立派に成長すれば関心を得られるのではないのか】と考え、躍起になったのだった。
病で亡くなるその日まで…
「燃やした屋敷の末息子とは、実に妙な戦利品だな」
「兄上」
正妃の息子であり、第一継承権のある兄には若い頃の父王によく面影がある。
ニヤリと笑った下品な口元など特に…、と冷笑を隠すような愛想笑いだが、兄はそれにすら気づかない。
「珍しいですね、騎士舎などに用事がありましたか?」
「すっとぼける気か?先日お前の屋敷へ送られた物資、それも全てゼノン産ばかりだ。あの奴隷の為か?」
「はい?」
「奴隷に堕とされ、変な情でも芽生えたか?もしも唆されている様ならば目を覚まさせてやらねばなぁ?」
小さく貧しい国の領主は死んだ。
しかしその末息子であるウィルを、ルシウスが望んで奴隷にしたことは一部の人間しか知らないことだった。
「心配ご無用です。それに彼には、まだ生かす価値があります」
「ほう?なんだそれは?」
「兄上。あの男は語ったのです、”彼らは黄金を育るためアティスの剣を鞘に納めた”。と」
「なんだ、それは?」
ふん?と首を傾げるが、それでも騎士道を齧ったというのだからお笑い草だ。
”ルタ”と”ゼノン”に別たれた国だが、元々は一つの大国だった。そして言葉の意味は廃れつつあるものでも忘れられるものではない。
彼らは領民。
黄金は、金そのままの意味ではなく畑やそれに該当する宝。
アティスは守護と慈愛の神であり、今では騎士の象徴。
守護の剣を鞘に納めたということは、この土地の民達らには争う意志などないということだ。
そして、その言葉の中に領主自身は含まれていない―――――……
『”明日もこの地は鳥が歌う。”……おや。やはり私は、何も間違えていなかった』
きっと騎士全員が、その声に聞き惚れていた。
後ろには燃える屋敷、そばには虫の息である長男の体。
それでも前を向き、誰をも魅了する穏やかな声。
領主は、――――黙って首を差し出した。
「自分の命と引き換えに領民らの命乞いか。よくあるお涙頂戴な話だろ?」
「えぇ。しかし我が国の騎士は高潔です。目的が略奪でない限り、無暗に土地を荒らしたりはしません」
―――――――そして忘れない。
その高潔を謳う騎士(仲間)に裏切られ、ルシウスがゼノンの奴隷に堕とされた事も。
「あの男の首は、私が落とすと決めていたのに……」
彼は、ただの身代わりだ。
どうか、これ以上触れないように―――と 頭を下げて王城を立ち去った。
* * *
「ウィル様」
小さな寝息を立て、ウィルは監獄に近い簡素な部屋のベッドで寝ていた。
最初は何も食べずに困ったが、ゼノン産の食材で作ったものならばようやく口をつけてくれた。
それでも全然足りない。
こっそりルタ国の栄養素や薬も混ぜているが、どんどんやせ細っている。
「ウィル様」
食べてくれるなら、今はそれだけでいい。
けれど、食べてくれなければ――――…
「・しうす・…?ないて、るの?」
「えぇ。また、怖い夢を見たのです」
寝ぼけている。
ぼーっと虚ろな目をしたウィルは、ルシウスを… あの屋敷にいた頃のルシウスを見ている。
「そんな大きな体なのに、臆病なんだよなぁ」
「………はい」
よしよしと撫でてくれる温かな手。
こんな時のウィルは、口移しでなら食事をとってくれた。多くは吐き戻してしまうのだが…
「ルシウス。今日は寒いから、一緒に寝よ…」
「……ウィル様。私は許されません、許されないのです…」
「俺が、許してあげる…。だいじょうぶ、大丈夫・… 父上が、助けてくれるからね」
――――――――――――――
おれが守ってあげるから
【貴方を守るために 私が殺したかった】。
「只今戻りました、陛下」
「おぉルシウス!我が息子よ、よくぞ生きて戻ってくれた」
現国王マルツとルシウスは父子と呼ぶより祖父と孫に近いほど年が離れていた。
二五年以上も前だ。若い女に目がない王が開いた夜会で一夜の相手として見染めた田舎貴族の娘、それがルシウスの母であった。
「しかし療養が必要だな。とにかく傷を癒す事に専念するといい」
「ありがたき幸せ」
跪き父王に忠誠を誓う姿。
―――――しかし腹の内は違う。
父王は息子ルシウスを労う声をかけはしたが、今回の争いが息子ルシウスの奪還戦だった為の恰好だと知っていた。
王位継承権を捨てたルシウスだが騎士として数々の功績を残してきた。
雄々しく気高い騎士の鏡のような存在。その活躍を直に見てきた騎士だけではなく、民衆からの信頼も厚く非常に評価が高かった。
死んだと聞かされていたのに―――。
ある日、そのルシウスが、実は隣国ゼノンに掴まり生かされていると噂が立った。
【きっと酷い目に遭ってるに違いない】
【国王様は何故ルシウス様を助けない?】、【これほど国の為に働いてきたあの方を見捨てるのか】。
噓の情報かもしれないがルシウスの死体が見つかってない事実もある。
真実を明らかにしない王政に民衆からの強い反発があったらしく、これ以上民からの評価が下がる事を恐れたマルツ王は動かざる得なかった。
すべては、王座にしがみつく為に。
(まぁ、俺にとっては有り難い王命だ)
期限のない療養―――とは有り難い。
連れて帰ったウィルを長時間一人にしておくのは心配で心が痛む。
* * *
【どうすれば陛下はもう一度、わたくしを見てくださるの?】
母親の口癖だった。
なんて儚く、かわいい貴族のお嬢様だろう。生まれたばかりのルシウスは母と共に城へと召し上げられたが、既に王位継承権の座は埋まっていた。
あの男に最初から恋だの愛だのあったはずもなく、あったのは精力だけだ。
それでも王を恋しく想い、嘆き喚いた母親は【ルシウスが立派に成長すれば関心を得られるのではないのか】と考え、躍起になったのだった。
病で亡くなるその日まで…
「燃やした屋敷の末息子とは、実に妙な戦利品だな」
「兄上」
正妃の息子であり、第一継承権のある兄には若い頃の父王によく面影がある。
ニヤリと笑った下品な口元など特に…、と冷笑を隠すような愛想笑いだが、兄はそれにすら気づかない。
「珍しいですね、騎士舎などに用事がありましたか?」
「すっとぼける気か?先日お前の屋敷へ送られた物資、それも全てゼノン産ばかりだ。あの奴隷の為か?」
「はい?」
「奴隷に堕とされ、変な情でも芽生えたか?もしも唆されている様ならば目を覚まさせてやらねばなぁ?」
小さく貧しい国の領主は死んだ。
しかしその末息子であるウィルを、ルシウスが望んで奴隷にしたことは一部の人間しか知らないことだった。
「心配ご無用です。それに彼には、まだ生かす価値があります」
「ほう?なんだそれは?」
「兄上。あの男は語ったのです、”彼らは黄金を育るためアティスの剣を鞘に納めた”。と」
「なんだ、それは?」
ふん?と首を傾げるが、それでも騎士道を齧ったというのだからお笑い草だ。
”ルタ”と”ゼノン”に別たれた国だが、元々は一つの大国だった。そして言葉の意味は廃れつつあるものでも忘れられるものではない。
彼らは領民。
黄金は、金そのままの意味ではなく畑やそれに該当する宝。
アティスは守護と慈愛の神であり、今では騎士の象徴。
守護の剣を鞘に納めたということは、この土地の民達らには争う意志などないということだ。
そして、その言葉の中に領主自身は含まれていない―――――……
『”明日もこの地は鳥が歌う。”……おや。やはり私は、何も間違えていなかった』
きっと騎士全員が、その声に聞き惚れていた。
後ろには燃える屋敷、そばには虫の息である長男の体。
それでも前を向き、誰をも魅了する穏やかな声。
領主は、――――黙って首を差し出した。
「自分の命と引き換えに領民らの命乞いか。よくあるお涙頂戴な話だろ?」
「えぇ。しかし我が国の騎士は高潔です。目的が略奪でない限り、無暗に土地を荒らしたりはしません」
―――――――そして忘れない。
その高潔を謳う騎士(仲間)に裏切られ、ルシウスがゼノンの奴隷に堕とされた事も。
「あの男の首は、私が落とすと決めていたのに……」
彼は、ただの身代わりだ。
どうか、これ以上触れないように―――と 頭を下げて王城を立ち去った。
* * *
「ウィル様」
小さな寝息を立て、ウィルは監獄に近い簡素な部屋のベッドで寝ていた。
最初は何も食べずに困ったが、ゼノン産の食材で作ったものならばようやく口をつけてくれた。
それでも全然足りない。
こっそりルタ国の栄養素や薬も混ぜているが、どんどんやせ細っている。
「ウィル様」
食べてくれるなら、今はそれだけでいい。
けれど、食べてくれなければ――――…
「・しうす・…?ないて、るの?」
「えぇ。また、怖い夢を見たのです」
寝ぼけている。
ぼーっと虚ろな目をしたウィルは、ルシウスを… あの屋敷にいた頃のルシウスを見ている。
「そんな大きな体なのに、臆病なんだよなぁ」
「………はい」
よしよしと撫でてくれる温かな手。
こんな時のウィルは、口移しでなら食事をとってくれた。多くは吐き戻してしまうのだが…
「ルシウス。今日は寒いから、一緒に寝よ…」
「……ウィル様。私は許されません、許されないのです…」
「俺が、許してあげる…。だいじょうぶ、大丈夫・… 父上が、助けてくれるからね」
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おれが守ってあげるから
【貴方を守るために 私が殺したかった】。
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