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元奴隷(敵国の騎士)×捕えられた小貴族
小話②
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まだ鮮明に思い出せる、生まれ育った屋敷の間取り.
両親と兄の顔に、それと……
(かっこいいなぁ…)。
ルシウスが新しい服を着るたびにドキドキしていた。
だって父上の古着を仕立て直したものだけどルシウスは何を着ても着こなすんだ。
「ウィル様?隠れてどうしました?」
「……ひゃ!?いつの間に!?」
こそこそ隠れて様子を見ていたウィルに気がついたルシウスは、いつの間にか背後にいた。
視線に鋭いのは騎士で備わったスキルなのだろうか…。
「べ、別に…」
「?(隠れん坊でもしてたのか?)」
「その服、袖がちょっと余ってる。寒くないの?」
「はい、とても上質な布で出来てますので寒くなどありません」
「ならいいけど…、一応これ手袋。いつも父さんが世話になってるし、風邪引いてほしくないからさ」
……って、なんで固まってんだよ!!
ちゃんと雑貨屋で買ったものだし!いいじゃん、俺だってウィルを着飾っても!べつに変じゃないだろ!?
「ありがとうございます。ウィル様はお優しいですね」
それは……まるで太陽のように明るい笑顔だった。
恥ずかしくて素直に言えなかったけど、俺は見惚れていた。
それが脳裏に焼きつくほどに…
(そんな事も、あったっけ…)
ルシウスに囚えられてからはそれも無反応だ。死んだ心は動かない。
だって父上が与えていた服よりずっとサマになっているのだ。
「見てください、金剛蚕のシルクです。これで貴方に似合う寝衣を仕立てましょうね」
――――金剛蚕のシルク。
その十センチに満たない面積で鳥肉が何キロ、あの領地では毎日四人家族が一カ月以上食べてもまだお釣りがくるだろうよ。
「……欲しくない」
「そう言わないでください。それにこの蚕は今、貴方の故郷で育てられているのです」
「は?」
なんでも金剛蚕を育てるのに土地の気候が大変適してきたらしい。金剛蚕はかつて屋敷のあった、あの領地の新たな資源になるべく活躍しているのだとルシウスは嬉々として語った。
「…… 帰りたい」
帰らせて。
家族のいる土地で眠りたい。
奴隷は主人の所有物だ。いま死んだところでウィルの亡骸がゼノンの故郷に戻されることはない。
「貴方は私と同じ墓で眠る運命です。ですが、故郷を想う気持ちまでを無碍にしたくありません」
「………望み通りにすれば、満足してくれるの?」
「きっと似合います。貴方の愛した土地のものは、貴方によく馴染む」
この部屋に仕立て屋が呼ばれることなどない。
ウィルの採寸は全て、ルシウスがおこなった。
「色はどうしましょう?ウィル様には」
「黒がいい…」
黒は喪服にも使われる色だ。
ウィルは他の色も刺繍もいらない。真っ暗がいいと言った。
「貴方は可愛いだけでなく、私の機嫌を損ねる発言がお上手ですね」
「………」
「それでも、そんな貴方を私は愛して止まないのです」
「愛」.
昔の俺なら顔を真っ赤にして揶揄うな!と怒ることもできたのかもしれない。
「そういえば先日ようやくゼノンが降伏しました。ですがご安心を。貴方に保証しましょう、領民達の暮らしを」
誰にもあの土地を犯させはしない。と。
「………うん」
「その代わり貴方は一生私の慰み者です。これから貴方が反抗した罰は、貴方の故郷に返ると思ってください」
あぁ、そうまでして俺が憎いのかな…
ならもう辱めず殺せばいいのに…
いいよ、俺なんて… もうあの土地の為にできるのはないのだ。
それでもお前が、俺の
心の宿らない、空っぽの言葉を望むんなら… いくらでも与えよう。
「愛してる、ルシウス」
二度と燃えることのない心、揺れることのない瞳で… ルシウスを見た。
「えぇ、私もです」
あぁ、…やっぱり
泣きそうになった 。
まだ鮮明に思い出せる、生まれ育った屋敷の間取り.
両親と兄の顔に、それと……
(かっこいいなぁ…)。
ルシウスが新しい服を着るたびにドキドキしていた。
だって父上の古着を仕立て直したものだけどルシウスは何を着ても着こなすんだ。
「ウィル様?隠れてどうしました?」
「……ひゃ!?いつの間に!?」
こそこそ隠れて様子を見ていたウィルに気がついたルシウスは、いつの間にか背後にいた。
視線に鋭いのは騎士で備わったスキルなのだろうか…。
「べ、別に…」
「?(隠れん坊でもしてたのか?)」
「その服、袖がちょっと余ってる。寒くないの?」
「はい、とても上質な布で出来てますので寒くなどありません」
「ならいいけど…、一応これ手袋。いつも父さんが世話になってるし、風邪引いてほしくないからさ」
……って、なんで固まってんだよ!!
ちゃんと雑貨屋で買ったものだし!いいじゃん、俺だってウィルを着飾っても!べつに変じゃないだろ!?
「ありがとうございます。ウィル様はお優しいですね」
それは……まるで太陽のように明るい笑顔だった。
恥ずかしくて素直に言えなかったけど、俺は見惚れていた。
それが脳裏に焼きつくほどに…
(そんな事も、あったっけ…)
ルシウスに囚えられてからはそれも無反応だ。死んだ心は動かない。
だって父上が与えていた服よりずっとサマになっているのだ。
「見てください、金剛蚕のシルクです。これで貴方に似合う寝衣を仕立てましょうね」
――――金剛蚕のシルク。
その十センチに満たない面積で鳥肉が何キロ、あの領地では毎日四人家族が一カ月以上食べてもまだお釣りがくるだろうよ。
「……欲しくない」
「そう言わないでください。それにこの蚕は今、貴方の故郷で育てられているのです」
「は?」
なんでも金剛蚕を育てるのに土地の気候が大変適してきたらしい。金剛蚕はかつて屋敷のあった、あの領地の新たな資源になるべく活躍しているのだとルシウスは嬉々として語った。
「…… 帰りたい」
帰らせて。
家族のいる土地で眠りたい。
奴隷は主人の所有物だ。いま死んだところでウィルの亡骸がゼノンの故郷に戻されることはない。
「貴方は私と同じ墓で眠る運命です。ですが、故郷を想う気持ちまでを無碍にしたくありません」
「………望み通りにすれば、満足してくれるの?」
「きっと似合います。貴方の愛した土地のものは、貴方によく馴染む」
この部屋に仕立て屋が呼ばれることなどない。
ウィルの採寸は全て、ルシウスがおこなった。
「色はどうしましょう?ウィル様には」
「黒がいい…」
黒は喪服にも使われる色だ。
ウィルは他の色も刺繍もいらない。真っ暗がいいと言った。
「貴方は可愛いだけでなく、私の機嫌を損ねる発言がお上手ですね」
「………」
「それでも、そんな貴方を私は愛して止まないのです」
「愛」.
昔の俺なら顔を真っ赤にして揶揄うな!と怒ることもできたのかもしれない。
「そういえば先日ようやくゼノンが降伏しました。ですがご安心を。貴方に保証しましょう、領民達の暮らしを」
誰にもあの土地を犯させはしない。と。
「………うん」
「その代わり貴方は一生私の慰み者です。これから貴方が反抗した罰は、貴方の故郷に返ると思ってください」
あぁ、そうまでして俺が憎いのかな…
ならもう辱めず殺せばいいのに…
いいよ、俺なんて… もうあの土地の為にできるのはないのだ。
それでもお前が、俺の
心の宿らない、空っぽの言葉を望むんなら… いくらでも与えよう。
「愛してる、ルシウス」
二度と燃えることのない心、揺れることのない瞳で… ルシウスを見た。
「えぇ、私もです」
あぁ、…やっぱり
泣きそうになった 。
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