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元奴隷(敵国の騎士)×捕えられた小貴族
終わり 前半
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超がつくほどの特注品。
金剛蚕の糸で作った寝間着は軽く、とても素肌に馴染んだ。
(着ている主人が俺で、ごめんな…)
これを着るためではなく、抱きしめて眠りたかった。
ルシウスが、なぜ俺を生かしたのか…
金剛蚕の話を聞いた時から、薄々気付いてしまった。
元々あの土地では、"宝石蚕"と呼ばれる他の土地では育てにくい珍しい蚕種を育てていた。
翡翠蚕に琥珀蚕――― 先代の功績は新たな品種、金剛蚕を誕生させたことだった。
『これは、まさに黄金と同じ価値のある宝だ』。
諸国の貴族らはこぞって金剛蚕が生み出すシルクを求め、おかげで土地も国も潤った。
当時の国王様から認められ、領地を授かった。
――― 何十年も前、馬鹿みたいな法律の改定で蚕の産地から外されるまでは。
腐敗しきった王都貴族と、それに媚を売った連中にだけが蚕を育てていい。
”特権”化されてしまったのだ。
祖父も父上も、さぞかし無念だっただろ…。そして酪農や農業でしか生きられなくなり、土地は一気に廃れていった。
「特に、ご老人の方々は嬉々として蚕を育てています。まるで水を得た魚のようです」
「…………」
「ただ、餌が良くないのでしょうか。蚕の育ちがよくないようです」
「………なんで、金剛蚕なの?」
ルシウスが、分からない。
最初からそれを狙っていたのか、それとも……。
「知らない、なんて言い訳なんてしないよな?」
「元々、我が軍はルタにとって国益になる領地には目星をつけていました。その中で偶然、私は旦那様に拾われただけです」
「……」
「美しいと思ったのです。領主が至福を肥やすことのみを良しとせず、家族と領民を想う。そして民も土地と生活の為に働く。自然を壊すこともなく、すべての時間が穏やかな――理想郷でした」
また美しいと寂し気に笑うルシウスだけど、俺は騙されない。
それもお前が、すべてを壊したくせに、褒め称えるのか。
「ウィル様。貴方は自分に才能はないとおっしゃっていましたが、領地を想う気持ちはお兄様にも負けてなかったはずです」
「………」
「確かに屋敷は燃えてしまいました。けれど貴方は覚えているはずです、金剛蚕の育て方を」
そう、黄金蚕は他の土地ではうまく育たなかった。
失われつつある今でも尚、貴族の連中が愛してやまないその価値。
「ルシ・…・、」
ルシウスは領民達を大事にしてくれると約束してくれた。彼の手厚い支援があればきっと、ゼノンにいた頃より良い待遇が待っている。
少なくとも、彼らが路頭に迷うことはないのだろう。
けれど、お前を憎いと想う気持ちが、反発する。
ルシウスは、そんな俺の心を見透かしているというのに…。
「ウィル様。こんな時ですが、私は間もなく結婚します」
「……そう。おめでとう」
「相手は、ノルンです」
のるん…?
彼女は屋敷のメイド。そして兄上の恋人だった。
金剛蚕の糸で作った寝間着は軽く、とても素肌に馴染んだ。
(着ている主人が俺で、ごめんな…)
これを着るためではなく、抱きしめて眠りたかった。
ルシウスが、なぜ俺を生かしたのか…
金剛蚕の話を聞いた時から、薄々気付いてしまった。
元々あの土地では、"宝石蚕"と呼ばれる他の土地では育てにくい珍しい蚕種を育てていた。
翡翠蚕に琥珀蚕――― 先代の功績は新たな品種、金剛蚕を誕生させたことだった。
『これは、まさに黄金と同じ価値のある宝だ』。
諸国の貴族らはこぞって金剛蚕が生み出すシルクを求め、おかげで土地も国も潤った。
当時の国王様から認められ、領地を授かった。
――― 何十年も前、馬鹿みたいな法律の改定で蚕の産地から外されるまでは。
腐敗しきった王都貴族と、それに媚を売った連中にだけが蚕を育てていい。
”特権”化されてしまったのだ。
祖父も父上も、さぞかし無念だっただろ…。そして酪農や農業でしか生きられなくなり、土地は一気に廃れていった。
「特に、ご老人の方々は嬉々として蚕を育てています。まるで水を得た魚のようです」
「…………」
「ただ、餌が良くないのでしょうか。蚕の育ちがよくないようです」
「………なんで、金剛蚕なの?」
ルシウスが、分からない。
最初からそれを狙っていたのか、それとも……。
「知らない、なんて言い訳なんてしないよな?」
「元々、我が軍はルタにとって国益になる領地には目星をつけていました。その中で偶然、私は旦那様に拾われただけです」
「……」
「美しいと思ったのです。領主が至福を肥やすことのみを良しとせず、家族と領民を想う。そして民も土地と生活の為に働く。自然を壊すこともなく、すべての時間が穏やかな――理想郷でした」
また美しいと寂し気に笑うルシウスだけど、俺は騙されない。
それもお前が、すべてを壊したくせに、褒め称えるのか。
「ウィル様。貴方は自分に才能はないとおっしゃっていましたが、領地を想う気持ちはお兄様にも負けてなかったはずです」
「………」
「確かに屋敷は燃えてしまいました。けれど貴方は覚えているはずです、金剛蚕の育て方を」
そう、黄金蚕は他の土地ではうまく育たなかった。
失われつつある今でも尚、貴族の連中が愛してやまないその価値。
「ルシ・…・、」
ルシウスは領民達を大事にしてくれると約束してくれた。彼の手厚い支援があればきっと、ゼノンにいた頃より良い待遇が待っている。
少なくとも、彼らが路頭に迷うことはないのだろう。
けれど、お前を憎いと想う気持ちが、反発する。
ルシウスは、そんな俺の心を見透かしているというのに…。
「ウィル様。こんな時ですが、私は間もなく結婚します」
「……そう。おめでとう」
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