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【グルルルルル―――……】
喉の奥を震わせるような、獣じみた低い声。
その岩のような巨体が、ゆっくりと起き上がる。
ーーーーー 竜だ。
それとリオは、目が合った。
「……っ、」
月夜に照らされる竜の姿に、リオは息を呑んだ。
片目は潰れ、鱗は剥がれ、深い傷跡が無数に走っている。
血の乾いた匂いと、治りきらない痛みが、空気に染み付いていた。
「な、ナガレ様…、ですよね?」
「酷い怪我をっ、一体なにが…!」
竜は何も答えない。
じっと黙ったまま、リオを睨みつけていた。
——離れて二年だった。
美しかったあの方の、見る影もない姿が
痛々しくて、
胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。
(それでも)
片目しかなくとも、
太陽に照らされた麦畑のように、美しいその瞳。
心がこんなにも—— 貴方だと、叫んでいる。
だからこそ、
彼がナガレ様だと、リオは疑わなかった。
「ナガレ様、オレは、」
おそるおそる踏み出した一歩。
また一歩と近づくが、
いつも肌身離さず持っていた、兄竜の鱗の存在を――忘れていた。
【――――――!!】
咆哮が轟き、地面が揺れた。
「…… うっ!!」
逃げなければ。
分かっているのに、足が動かない。
そして目の前で竜の爪が振り上げられる。
一撃で、人間など塵になる。
(ああ……そうでした)
分かっていた。
オレは竜人――ナガレ様の怒りに触れたんだ。
いつか、この日が来るかもしれないと、覚悟していた。
それなのに。
思っていたより、
ずっと―――怖くはなかった。
だって、貴方を、ずっと――
「……ナガレ様」
最期まで、
貴方の本心を聞くことは叶わなかったけれど。
―――リオは、微笑んだ。
そのとき、振り下ろされるはずだった爪が、
ぴたりと止まる。
* * *
(……なぜだ)
地上の気は竜人の体質に合わない。
大地に満ちる濃い気は、竜の本能を刺激し、理性を削り取るように働く。
地上に長く留まれば留まるほど、竜人は“竜”へと引き戻されていく。
それでも、ナガレは地上を彷徨った。
再び番を探すために。
リオに、会うために……。
だが、竜化した姿は人間たちに恐怖を与え、「討伐」の名のもとに、何度も刃を向けられた。
傷が増えるたび、
怒りと本能が、理性を喰らっていく。
――今夜もそうだ。
巨大な鱗を持つ、得体の知れない“何か”が、ナガレの前に現れた。
目の前に現れた人間を、
ナガレは「リオ」だと認識できなかった。
しかし、
(……なぜだ)
確かに、敵だと思った。
それなのに――爪を動かせない。
動かしたくないと叫ぶ。
(……なぜ)
残った片目に映るのは、
ぼんやりとしか見えないが、人間の男だ。
その形が、ひどく懐かしいと思わせる。
竜は、低く唸った。
殺意でも、躊躇でもない。
何かを――必死に探しているかのように。
「……なが、」
リオの、かすれた声。
地面に倒れていた腰を上げ、
彼に、ゆっくりと近づこうとした、その瞬間――
亀裂が走った。
先ほどの咆哮で深まった地割れが、
ついに耐えきれず、鈍い音を立てて裂けた。
とたん、リオの足元が、崩れた。
「……あっ!」
身体が宙に放り出され、
真っ暗な闇が大きく口を開けた。
しかし
――――― リオ!!
「……っ! な、ナガレ様!?」
闇に飲まれるよりも先に、
巨大な竜の爪が、リオをしっかりと掴んでいた。
喉の奥を震わせるような、獣じみた低い声。
その岩のような巨体が、ゆっくりと起き上がる。
ーーーーー 竜だ。
それとリオは、目が合った。
「……っ、」
月夜に照らされる竜の姿に、リオは息を呑んだ。
片目は潰れ、鱗は剥がれ、深い傷跡が無数に走っている。
血の乾いた匂いと、治りきらない痛みが、空気に染み付いていた。
「な、ナガレ様…、ですよね?」
「酷い怪我をっ、一体なにが…!」
竜は何も答えない。
じっと黙ったまま、リオを睨みつけていた。
——離れて二年だった。
美しかったあの方の、見る影もない姿が
痛々しくて、
胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。
(それでも)
片目しかなくとも、
太陽に照らされた麦畑のように、美しいその瞳。
心がこんなにも—— 貴方だと、叫んでいる。
だからこそ、
彼がナガレ様だと、リオは疑わなかった。
「ナガレ様、オレは、」
おそるおそる踏み出した一歩。
また一歩と近づくが、
いつも肌身離さず持っていた、兄竜の鱗の存在を――忘れていた。
【――――――!!】
咆哮が轟き、地面が揺れた。
「…… うっ!!」
逃げなければ。
分かっているのに、足が動かない。
そして目の前で竜の爪が振り上げられる。
一撃で、人間など塵になる。
(ああ……そうでした)
分かっていた。
オレは竜人――ナガレ様の怒りに触れたんだ。
いつか、この日が来るかもしれないと、覚悟していた。
それなのに。
思っていたより、
ずっと―――怖くはなかった。
だって、貴方を、ずっと――
「……ナガレ様」
最期まで、
貴方の本心を聞くことは叶わなかったけれど。
―――リオは、微笑んだ。
そのとき、振り下ろされるはずだった爪が、
ぴたりと止まる。
* * *
(……なぜだ)
地上の気は竜人の体質に合わない。
大地に満ちる濃い気は、竜の本能を刺激し、理性を削り取るように働く。
地上に長く留まれば留まるほど、竜人は“竜”へと引き戻されていく。
それでも、ナガレは地上を彷徨った。
再び番を探すために。
リオに、会うために……。
だが、竜化した姿は人間たちに恐怖を与え、「討伐」の名のもとに、何度も刃を向けられた。
傷が増えるたび、
怒りと本能が、理性を喰らっていく。
――今夜もそうだ。
巨大な鱗を持つ、得体の知れない“何か”が、ナガレの前に現れた。
目の前に現れた人間を、
ナガレは「リオ」だと認識できなかった。
しかし、
(……なぜだ)
確かに、敵だと思った。
それなのに――爪を動かせない。
動かしたくないと叫ぶ。
(……なぜ)
残った片目に映るのは、
ぼんやりとしか見えないが、人間の男だ。
その形が、ひどく懐かしいと思わせる。
竜は、低く唸った。
殺意でも、躊躇でもない。
何かを――必死に探しているかのように。
「……なが、」
リオの、かすれた声。
地面に倒れていた腰を上げ、
彼に、ゆっくりと近づこうとした、その瞬間――
亀裂が走った。
先ほどの咆哮で深まった地割れが、
ついに耐えきれず、鈍い音を立てて裂けた。
とたん、リオの足元が、崩れた。
「……あっ!」
身体が宙に放り出され、
真っ暗な闇が大きく口を開けた。
しかし
――――― リオ!!
「……っ! な、ナガレ様!?」
闇に飲まれるよりも先に、
巨大な竜の爪が、リオをしっかりと掴んでいた。
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