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最終話 生まれ変わっても
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――――――――すごく長い夢を見ていた、そんな気がする。
カーテンの隙間から差し込んでくる朝日の光。白く肌触りのいいシーツにクィーンサイズのベッド。
先に目覚めてもベッドから降りることを許されていない俺は横たわったまま、隣でまだすやすやと眠っている… おそろしく顔の整った美しい男を見つめていた。
(リアルな宗教画みたいだ…)
モデルでも芸能人でもなく、人の上に立つ神様のような人間。
この男の正体は大手製薬企業の若き社長様。そして俺、有田満はなんでもない―――元はブラック工場に勤める限界社畜の一人だった。
工場の経営は赤字続きでこのやり手社長に買収されたが、引き続き旧社員たちの面倒もみるということで皆がこの人に感謝している。
最初の頃の俺も、そんな人間の一人だった。
常に誰かがボディーガードのように付き添い、社長が会社の通路を歩けばわざわざ立ち止まってお辞儀をする社員まで…
社長の為ならなんでもしたいと願う社員、溢れんばかりのカリスマ性を崇める信者みたいな社員は多い。
『有田満くん、やっと会えたね』
ある日、面談があると上司から呼ばれた俺を応接室で待ち構えていたのは久瀬社長だった。
やっと会えたね、の発言に俺は首を傾げるのではなく、何故か感じた不穏な気配に足が下がりそうになった。
「君が辞めるなんて勿体無い。働き方改革でずっといい職場になったのに何故だい?不満でもあった?」
緊張感と圧迫感、それに頭の中によく響く声。
怖い…。俺は、はじめて久瀬社長を見た時から言い知れぬ恐怖を感じていた。だから、トップが変わったのだから俺はいい機会だと辞表を出したんだ。
一身上の都合ですと、やっとの思いで声を絞り出した。
「そうか、残念だ。ところでA工場の件で悪いんだけど改革にあたりコスト削減もしなくちゃでね、この内の何人かには辞めてもらおうと思うんだけど君なら誰がいいと思う?」
デスクには何人かの写真、誰もが見知った顔だ。
最近子供がうまれた愛妻家の先輩、まもなく定年を迎える社員、持病で再就職が困難な社員だっている。
そんなの俺に選べるわけないじゃないか
けど久瀬社長の目が、早く俺に選べと命令してくる…
「さ、サイトウさんはテキパキしてていつも時間内に仕事を終わらせてました。ミギタさんは最年長だけど知識は豊富で、」
辞めさせていい社員なんていない。みんな苦楽を共にした大事な仲間だった…
社長の気が変わることを期待して俺はみんなの長所を教えた。
「なるほど、満君はとても心優しいんだね。是非私の秘書になってもらいたいな」
社長の秘書なんて畏れ多い!と断ったんだ。
だけど大切な秘書の頼みなら無碍にできないこともあるよね、と微笑まれたら…
じぃっと俺を見つめる圧に首を絞められている気分だった。
「まって…!く、くぜしゃちょ…、やだ、っ、離してください!」
はじめて社長の家に連れ込まれた日。
俺は玄関で激しい口付けをされ、抵抗も許されないまま寝室のベッドに押し倒された。
「満、満、満…!あぁ、ずっとこうしたかった。君の匂いを嗅ぎたかった全身を舐めたい、君を味わって感じたい。これからどんな声で喘ぐのか、楽しみだなぁ」
恐怖のあまり、声が出なかった。
それからは毎日毎日ロクに仕事を与えられない。名ばかりの秘書として社長の家に閉じ込められ、夜になると抱かれる。
社長が休みの日は朝から晩まで一緒だ。
「ん、あっ、きもちいい…っ、あ、あぁ…!」
「はは、満の体も穴もすっかり女の子だね。こんなにセックスが気持ちいいなんて、知らなかった」
口答えや抵抗は許されない。
下手なことを口にすれば誰かの首が飛ぶ。秘書になって二週間後に辞表を出したら、ずっと俺の面倒をよく見てくれていた先輩が…、俺が反抗した罰だと会社を追い出された。
俺のせいだ、俺のせいで…っ…。
喘ぎながらボロボロと泣く俺を舐めまわし、社長は笑う。
「相変わらず、他人を守ろうとする姿が腹立たしくて可愛いな」
こんな惨めな姿に高揚するなんて社長は生粋のサドだろ。
「ん…満、起きてたの?」
「……は、はい、おはようございます」
「おはよう。今日はいい天気だね」
ふにゃっと笑う社長の笑顔は、色気だけじゃなくドキッとさせる不思議な魅力がある。
けれど好きか嫌いのどちらかでいうと、俺は……
「……ひぁ!?ぁっ、んん、っ、い゛っ」
「後ろの穴、まだ柔らかい。昨日いっぱいしたから少し腫れたか?」
「や、やめ、…っ、しゃちょ、遅刻します…!」
「あぁ、でも君のイイ声を聞いてたらシたくなったな」
――――――――っ!
唯一纏っていた布団をはぎ取られると、明るい部屋にお互いの裸体が晒される。
芸術家が見れば銅像か速攻絵に描きたいと願うだろう、美しい男の裸体と…その傍らには似合わない貧相な俺の体。
……俺を押し倒して見下ろす顔は、笑ってるのに怖くて体が固まる。犯される恐怖というより、まるで本能に組み込まれた別の感情だ。
「満、愛してる」
「…っ、俺も、愛してます……」
「はは。嬉しいなぁ。私たちはずっと一緒なんだ。傷ついた君を、これからも俺だけが拾い上げて大事に愛してあげる」
一体、この人が俺の何にここまで執着しているのか分からない。
だけど心、…具体的にどこがと言えないけど『この存在から逃げること』を諦めている。
運命なんてロマンチックなもんじゃない。
この落ち着かない騒めきは、…… 消えることのない恐怖だ。
「満、――― 魂だけになっても逃がさないからね」
――――――――――――――――――――
あとがき
その後を少し追加してみました。
神様の執着からは逃げられない…
お付き合いありがとうございました。
――――――――すごく長い夢を見ていた、そんな気がする。
カーテンの隙間から差し込んでくる朝日の光。白く肌触りのいいシーツにクィーンサイズのベッド。
先に目覚めてもベッドから降りることを許されていない俺は横たわったまま、隣でまだすやすやと眠っている… おそろしく顔の整った美しい男を見つめていた。
(リアルな宗教画みたいだ…)
モデルでも芸能人でもなく、人の上に立つ神様のような人間。
この男の正体は大手製薬企業の若き社長様。そして俺、有田満はなんでもない―――元はブラック工場に勤める限界社畜の一人だった。
工場の経営は赤字続きでこのやり手社長に買収されたが、引き続き旧社員たちの面倒もみるということで皆がこの人に感謝している。
最初の頃の俺も、そんな人間の一人だった。
常に誰かがボディーガードのように付き添い、社長が会社の通路を歩けばわざわざ立ち止まってお辞儀をする社員まで…
社長の為ならなんでもしたいと願う社員、溢れんばかりのカリスマ性を崇める信者みたいな社員は多い。
『有田満くん、やっと会えたね』
ある日、面談があると上司から呼ばれた俺を応接室で待ち構えていたのは久瀬社長だった。
やっと会えたね、の発言に俺は首を傾げるのではなく、何故か感じた不穏な気配に足が下がりそうになった。
「君が辞めるなんて勿体無い。働き方改革でずっといい職場になったのに何故だい?不満でもあった?」
緊張感と圧迫感、それに頭の中によく響く声。
怖い…。俺は、はじめて久瀬社長を見た時から言い知れぬ恐怖を感じていた。だから、トップが変わったのだから俺はいい機会だと辞表を出したんだ。
一身上の都合ですと、やっとの思いで声を絞り出した。
「そうか、残念だ。ところでA工場の件で悪いんだけど改革にあたりコスト削減もしなくちゃでね、この内の何人かには辞めてもらおうと思うんだけど君なら誰がいいと思う?」
デスクには何人かの写真、誰もが見知った顔だ。
最近子供がうまれた愛妻家の先輩、まもなく定年を迎える社員、持病で再就職が困難な社員だっている。
そんなの俺に選べるわけないじゃないか
けど久瀬社長の目が、早く俺に選べと命令してくる…
「さ、サイトウさんはテキパキしてていつも時間内に仕事を終わらせてました。ミギタさんは最年長だけど知識は豊富で、」
辞めさせていい社員なんていない。みんな苦楽を共にした大事な仲間だった…
社長の気が変わることを期待して俺はみんなの長所を教えた。
「なるほど、満君はとても心優しいんだね。是非私の秘書になってもらいたいな」
社長の秘書なんて畏れ多い!と断ったんだ。
だけど大切な秘書の頼みなら無碍にできないこともあるよね、と微笑まれたら…
じぃっと俺を見つめる圧に首を絞められている気分だった。
「まって…!く、くぜしゃちょ…、やだ、っ、離してください!」
はじめて社長の家に連れ込まれた日。
俺は玄関で激しい口付けをされ、抵抗も許されないまま寝室のベッドに押し倒された。
「満、満、満…!あぁ、ずっとこうしたかった。君の匂いを嗅ぎたかった全身を舐めたい、君を味わって感じたい。これからどんな声で喘ぐのか、楽しみだなぁ」
恐怖のあまり、声が出なかった。
それからは毎日毎日ロクに仕事を与えられない。名ばかりの秘書として社長の家に閉じ込められ、夜になると抱かれる。
社長が休みの日は朝から晩まで一緒だ。
「ん、あっ、きもちいい…っ、あ、あぁ…!」
「はは、満の体も穴もすっかり女の子だね。こんなにセックスが気持ちいいなんて、知らなかった」
口答えや抵抗は許されない。
下手なことを口にすれば誰かの首が飛ぶ。秘書になって二週間後に辞表を出したら、ずっと俺の面倒をよく見てくれていた先輩が…、俺が反抗した罰だと会社を追い出された。
俺のせいだ、俺のせいで…っ…。
喘ぎながらボロボロと泣く俺を舐めまわし、社長は笑う。
「相変わらず、他人を守ろうとする姿が腹立たしくて可愛いな」
こんな惨めな姿に高揚するなんて社長は生粋のサドだろ。
「ん…満、起きてたの?」
「……は、はい、おはようございます」
「おはよう。今日はいい天気だね」
ふにゃっと笑う社長の笑顔は、色気だけじゃなくドキッとさせる不思議な魅力がある。
けれど好きか嫌いのどちらかでいうと、俺は……
「……ひぁ!?ぁっ、んん、っ、い゛っ」
「後ろの穴、まだ柔らかい。昨日いっぱいしたから少し腫れたか?」
「や、やめ、…っ、しゃちょ、遅刻します…!」
「あぁ、でも君のイイ声を聞いてたらシたくなったな」
――――――――っ!
唯一纏っていた布団をはぎ取られると、明るい部屋にお互いの裸体が晒される。
芸術家が見れば銅像か速攻絵に描きたいと願うだろう、美しい男の裸体と…その傍らには似合わない貧相な俺の体。
……俺を押し倒して見下ろす顔は、笑ってるのに怖くて体が固まる。犯される恐怖というより、まるで本能に組み込まれた別の感情だ。
「満、愛してる」
「…っ、俺も、愛してます……」
「はは。嬉しいなぁ。私たちはずっと一緒なんだ。傷ついた君を、これからも俺だけが拾い上げて大事に愛してあげる」
一体、この人が俺の何にここまで執着しているのか分からない。
だけど心、…具体的にどこがと言えないけど『この存在から逃げること』を諦めている。
運命なんてロマンチックなもんじゃない。
この落ち着かない騒めきは、…… 消えることのない恐怖だ。
「満、――― 魂だけになっても逃がさないからね」
――――――――――――――――――――
あとがき
その後を少し追加してみました。
神様の執着からは逃げられない…
お付き合いありがとうございました。
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みんなの感想(1件)
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