北国の王は運命のうさぎが愛おしい

田舎

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 リュトの寝床

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小ネタ:リュトが北の国の城にきた日の話。

―――――――――――――――


「さぁ、リュト様。今日からこちらが、貴方様の部屋です」

白狐のハイン・ヴェリミルは、セーヴェル王の側近であり相談役でもある。
彼に案内され、城の長い回廊を歩いたリュトは、最後に訪れた部屋を見て首を傾げた。

「……?」
「どうかしましたか?何か不備でも?」
「い、いえ!とても広くて素敵なお部屋です! でも……」

―――オレは、馬小屋で暮らすんじゃないの…?

その疑問を必死で飲み込んだ。
だって、よくない噂話ばかりだった。戦時中に北の国にさらわれたΩたちの悲惨な話が頭をよぎる。
狭くて汚い、豚か馬小屋に押し込まれるくらいならまだマシなほうで、もっと酷い扱いを受ける者もいたという……。
いくら、セーヴェル様とハイン様が優しい人でも……ある程度の扱いは覚悟していた。

「リュト様」
「は、はい!」

低く響く声に、リュトの耳がぴくりと反応する。
青ざめたリュトに気づいたのか、ハインは小さく咳払いをした。

「確かに、黄金の国と我が国は長く戦争をしてきました。貴方がアイノースを恐れるのも無理はありません」
「あぅ」
「しかし、ここでの生活が一日でも早く穏やかになるよう、セーヴェル王も、私達も願っております」

なぜ、と聞くまでもなかった。

リュトを見つめるハインの表情は、慈愛に満ちていた。


* * *


その夜。
長旅で疲れたリュトのために、王は部屋食を用意してくれた。
初めて目にする北の国の料理は、肉が中心で味も絶品。その中でも、ひときわ優しい味わいのシロツメクサの粥は、リュトのお気に入りとなった。

だが、寝静まった深夜――。


(――広すぎて、落ち着かない…)

ひとりになった孤独と、不安が寄せてくる。
待遇の良さには驚いたものの、与えられた環境にリュトは慣れなかった。
ベッドから起き上がると部屋の中をウロウロして、

「あ、」

カチャリと、開けたクローゼットの扉。
中は天井も高く、横になっても余裕のある空間だった。

「ちょうどいいかも…!」

リュトはベッドから布団や毛布を移し、クローゼットの中を自分だけの寝床に作り上げた。
寒くない、やわらかく暖かい、まるで故郷の家を思い出すような居心地の良さに、安心と眠気が訪れる。

「きもちいいなぁ……」

旅の疲れもあり、リュトはそこで眠ってしまった。



――――そして、迎えた翌朝。

「……ん」

バタバタと廊下から聞こえる騒がしい足音で、リュトは目を覚ます。
――なにかあったのかな?

恐る恐る部屋の扉を開けると、一人のメイドと目が合った。
彼女は驚きに満ちた顔で、声を弾ませる。

「――リュト様!? 中にいらしたのですか!?」
「え、あ…。はい」
「よかった! 本当に!」

リュトが不思議そうに顔を上げると、部屋の外にはさらに多くの人々が集まり、信じられないような表情でこちらを見つめていた。

「リュト」
「あ、王様……えっと…」

リュトは慌てて一歩後ろに下がる。
朝日を受けて銀色に輝く長髪と、氷のように透き通る瞳のセーヴェル王が、静かに問いかけた。

「ベッドから消えていると探していたぞ。どこにいたんだ?」
「……く、クローゼットの中です…」
「は?」

さすがに恥ずかしくて、耳をぺちゃんと伏せるリュト。
――部屋が広すぎて、落ち着かなかったのだ。
そんな素直に縮こまる兎を前に、王は目を丸くして見つめていた。

「そう、だったのか」

王は微かに口角を上げ、リュトの頭にそっと手を置く。
その手は大きく、でも乱暴ではなく、包み込むように温かかった。

「すまない。配慮が足りなかったな。あの部屋では休めなかったか?」
「い、いえ! お布団も気持ちよくて、さっきまでぐっすりでした」
「そうか」

リュトの元気そうな様子に、王も安心した表情を浮かべた。



――――



「しかし、リュト。クローゼットは不便すぎないか?」
「え。オレにとっては快適です! あそこに住みたいです!」
「ははっ、そうか」

なにが嬉しいのだろう?
よほど住みたいの返しが面白かったのか、機嫌よく笑うセーヴェル。

(でも、やっぱり全然怖くないや)

実際、見てみて分かった。

この国の人たちは、みんな優しいのだ。


リュトは少しだけ、心を開くことができた。
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