飴玉でハーレム作ろうとしたら男しか寄ってこない

高槻桂

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飴玉でハーレム作ろうとしたら男しか寄ってこない3(初夜編)

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 ヒロエがおっきくなった。え、どうしよう。
 とりあえず、めちゃくちゃ美形である。銀の短い髪に紫の瞳。透けるような白い肌にニカッと笑うと覗く尖った八重歯はたしかにヒロエだ。
 人間の姿をしたペルルカさんも美形だがあれは渋みのある甘いマスクだ。これはまた正統派の美青年だった。でもとりあえず、服がきつそうだ。
「おっきくなったからコウにいちゃんの恋人になれるね!」
 にこにこの上機嫌なヒロエにアワワとなっているとあれ、と思う間に小さくなり始めた。
「あれれ?」
 ヒロエも己の両手を見て身体も見下ろしてきょとんとしている。
「どういうこと?」
 俺がペルルカさんを見ると、ペルルカさんも難しい顔をして私も詳しくは分からないが、と前置いて見解を述べてくれる。
「ヒロエは魔力のコントロールが下手なのではないか?だからせっかく魔力を取り込んでもすぐに放出してしまう。それが今までヒロエが小さかった理由では?」
「あー、なーるほど」
「俺、へたくそなの?」
「鬼族は親からそういうのは習うと聞いているのだが……」
「かあちゃん、俺が小さいときから寝たきりだったから俺、ご飯の獲り方しか知らない……」
 しょんぼりしてしまったヒロエにそういうことか、と思う。
「じゃあさ、オレンジドロップスで練習したらどうかな。俺のドロップスなら効果高いから効率よく練習できるんじゃないかな」
 オレンジドロップスには魔力回復の効果がある。だが問題は、根本的な魔力不足であるヒロエにドロップスが効くかどうかだ。
 元々体力のない人に体力回復のパインドロップスを舐めさせても元々の体力以上の回復は見込めない。イチゴドロップスで身体強化をしている場合は例外だが。しかしそれもイチゴドロップスを舐めきってしまえば終わりだ。
「うーん、魔力強化のレモンドロップスを舐めながらオレンジを舐めて魔力の底上げをしてひとまず大人の姿になって、レモンを舐めきるまで魔力操作の練習をする、とかどうだろう?」
 俺の提案にペルルカさんもうむ、と考え込む。
「そういう使い方はしたことがないが……」
「試しにやってみようよ」
 ドロップス持ってくるね、とカウチを立って一階の作業部屋に行く。
 俺は、この左の手のひらからドロップスを無限に出すことができる。けれど二人にはまだ俺のこの手のひらのことは話していないのだ。
 だから予め出しておいたレモンとオレンジのドロップスの小瓶を手に戻ってくる。
 二人はなにか話していた。
「だって俺もコウにいちゃんの恋人になりたい」
「それはコウ次第だ。お前には戸籍がないから結婚することはできないぞ」
「愛人でいいよ、俺」
「当人抜きで何話してるの」
 俺は呆れ半分で小瓶を手にカウチに座るとラグの上に座っているヒロエがだってさあと唇を尖らせる。
「俺だってコウにいちゃんのこと好きなんだもん」
 うーん、と俺は小瓶の蓋を開けながら首を傾げる。
「この国ではさ、多重婚とか愛人とか妾とか普通なんだろうけどさ、俺の育った国では二人でするものなのよ。だから俺にはペルルカさんって相手がいるからヒロエまで恋愛の気持ちで愛せるか自信がないんだ」
 けれどヒロエはそんなのなんてことないよ、と反論する。
「コウにいちゃんは俺のこと好き?」
「好きだよ」
「好きなら、俺が頑張るから俺がコウにいちゃんのことちゃんと好きってこと覚えていて。意識して。そうしたらきっと俺のことも好きになってくれるって俺、信じてる」
 うっ、真っ直ぐな瞳で言われるとそうかも、なんて気になってしまう。
「ペ、ペルルカさんはどうなんですか?俺がヒロエとも付き合うっていうのはだめですよね?」
 ペルルカさんに助けを求めるように言うと意外にもペルルカさんは否定はしない、と言った。
「コウの言う通り、この国では多重婚や愛人は一般的だ。だから俺はコウとヒロエが恋人同士になることは否定しない。ただ、嫉妬はするがな」
 そうだった。ペルルカさんだってこの国の人なんだからそういう考え方なんだった。
 以前にペルルカさんが言っていた。この国では独占欲の強い男は嫌われるのだそうだ。心が狭いのだと。
 誰にも優しくて愛を振りまく。そんな人のほうが愛されるのだと。
 俺にはまだちょっとよくわからない価値観だがこういうときはアレだ。
 郷に入っては郷に従え。である。
「わかった。考えておく」
「やったー!」
「……」
 両手を上げて喜ぶヒロエと腕を組んでむすっとするペルルカさん。嫌なんじゃん。嫌なんじゃんペルルカさん。難儀なことだなあ。
 それはさておき。
「ほら、まずレモン舐めて」
 レモンドロップスを渡すとヒロエはころんとその粒を口の中に放り込む。
「お次はオレンジ」
 オレンジを渡してヒロエがそれもころんと口の中に放り込む。
 すると見る間にヒロエが育っていき、先程の美青年へと変わっていく。やってから服を替えてからやるべきだったかな、と思った。ぴっちぴちである。
「……コウにいちゃん」
「なに?」
「ズボンが股に食い込んでちんちん痛い」
「そうだね、ドロップス噛んで飲んじゃいな」
「うん」
 がりがりと噛む音が聞こえてごくりと飲み込むのがわかった。
 レモンは舐めている間だけの効果なのでレモンの魔力強化が収まればオレンジは問題ない。
 思った通りしゅううとまたヒロエの身体が小さくなる。便利なんだか不便なんだかわからない体だ。
「痛かった……」
 涙目のヒロエに俺も男だから気持ちはわかる、と思う。
「今度から服を着替えてからやろうね。俺の服貸してあげるよ」
「わかった」
「今日はとりあえずご飯食べようか」
 キッチンで出番を待っている料理たちを思い出して俺はそう提案した。


 三人とも風呂から上がって、ペルルカさんに髪を乾かしてもらう。
 髪を乾かす魔法は火属性の魔法の応用したものらしい。風属性でも似たようなことができるらしいがそちらだと余り温かさがないらしくて濡れ髪を乾かすなら火属性でやるべきだそうだ。
 ちなみに俺は火属性の適性があるので使おうと思えば使えるそうだが加減がわからないうちは髪を焦がすことがあるそうなので今はまだペルルカさんに甘えている。
 そういえばヒロエは属性の適性はどうなんだろう。また次に教会に行ったときに調べてもらおう。
「コウ」
「はーい」
 俺はペルルカさんのたてがみお手入れセットを取り出すとブラシで丁寧に梳き始める。
 少しだけ椿油を伸ばして艶を出してつやつやさらさらのたてがみが出来上がりだ。
「俺もコウにいちゃんにやってほしい」
「ヒロエは髪が短くで無理だよ」
 それでも軽くブラシで整えてやるとそれで満足したらしくヒロエはご機嫌だ。
「水分補給したらもう寝なさい」
「はぁい」
 ヒロエはキッチンに向かうと踏み台を使って水を飲んでこちらに戻ってきた。
「おやすみなさい、コウにいちゃん」
 抱きついてきたヒロエを抱き返してはいおやすみ、と返す。
「おやすみなさい、ペルルカにいちゃん」
「ああ、おやすみ」
 ペルルカさんにはぺこりとお辞儀をしてヒロエは自室へと去っていった。
「……嵐が去ったな」
 ぐったりとカウチに身を沈めるペルルカさんに苦笑する。
「私たちももう寝よう。今日は疲れた」
「うん」
 立ち上がって連れ立って寝室へと向かう。
 俺が自分のベッドに上がろうとするとペルルカさんが俺を呼んだ。
「こちらに」
「……うん」
 ペルルカさんは大抵俺を自分のベッドに呼ぶ。
 俺も自分のベッドに上がろうとしながらも今日は呼ばれないのかな、なんて思っていたりする。
 俺はのそりとペルルカさんのベッドに乗って、布団の中に招き入れられる。
 ベッドが二人分の重みを受けてぎしりと鳴った。おどおどと彼の腕の中に収まると俺は座りの良い場所を見つけようともぞもぞとする。
 やがてここだ、という場所を見つけて俺はほっと息をつく。
「コウ、明日はいつもどおりか?」
「え?うん、そうだけど」
 明日も朝のうちにヒロエと一緒にアイテムショップなどにドロップスを納品に行って屋台で昼ごはんを食べて市場で夕食の材料を買って帰る。そんな感じだ。
「なら教会に行って神に供え物をしてくると良い。魔法を作ってもらった礼をきちんとしておけ。礼と対価は別物だからな」
「そっか。わかった、ありがとう。ついでにヒロエの魔法属性もユリアさんに見てもらうよ」
「ああ、そうだな、それがいい」
 ペルルカさんの手が優しく俺の背中を撫でてくれる。それだけでもう俺はうとうととし始めて彼の胸元に額をこすりつける。
「おやすみ、コウ。愛しているよ」
「おやすみ、ペルルカさん。俺も大好きだよ」
 愛はまだ恥ずかしくて言えないけれど、「好き」ならばだいぶ言葉にできるようになってきた。これもペルルカさんが根気強く接してくれたからだ。
 今宵も俺はペルルカさんの腕の中ですやすやと寝息を立てたのだった。


 翌朝、ペルルカさんを見送ったあと俺たちも出かけることにした。
 ヒロエには角隠しの魔法をかけて、まずはアイテムショップとギルドにドロップスを納品する。と同時に昨日の売上を貰う。よしよし昨日も完売してるな。
 俺のドロップスは使う人たちの間では噂になっているらしくて噂が噂を呼んで早いときは午後イチで売り切れるそうだ。
 これは本格的に増量も考えたほうが良いだろうか、と思いながらも今の収入で満足している自分もいる。
 増量と言うか、今までは乙ランクばかり作っていたからもう少し安価の丙ランクも作っても良いかもしれない。そうすれば一般の人たちにも行き渡るようになる。
 ただ、一度試したことがあるが材料の調整が難しい。ランクの高いものを作るより低いものを作るほうが俺には難しいのだ。
 いっそ俺のドロップスを混ぜないで作れば、とも思ったがそれだと正規分のコストがかかるので自分のドロップスを使ってずるして儲けている俺としてはやりたくない。
 まあ、もうちょっと研究してみるか。それか一度ショップやギルドの人に甲ランクの売れ行きはどんなものなのか探りを入れてみるのも良いかもしれない。甲ランクがそれなりに売れているのなら俺も甲ランク市場に乗り出すのも良い。
 そんなことを思いながら市場に寄って神様への貢ぎ物を買ってから教会に行く。今日も出迎えてくれたユリアさんはきれいだった。
 まずは神様への貢ぎ物を捧げる。祭壇はすでに花や果物で飾られていて、そこに俺が買ってきた果物の籠盛りを乗せて頭を下げた。
 するとサクマさんがマスターマスター、と声をかけてきた。
「神様がお話があるそうです。ヒロエのことが終わった後でいいから小部屋に来てくれとのことです」
「そう?わかった」
 じゃあまずはヒロエのことから済ませよう。
 俺はユリアさんに声をかけてヒロエの魔法属性を見てもらうことにした。
「わかりました。ではこちらの水晶球に手をかざしてもらえますか?」
 ユリアさんが持ってきた水晶球にヒロエが手をかざすと薄緑色と茶色がぐるぐると回っていた。
「ヒロエさんは風と土の属性をお持ちですね」
「そうなんですね。あとこの子、魔力のコントロールが下手みたいなんですけど訓練ってどうやればいいですか?」
「簡単な小さな魔法で訓練すると良いですよ。簡単な魔法から初めていって、慣れたらまた少し難易度の高い魔法を使わせてみる。そうですね、この子でしたら風魔法の簡単なものをお教えしますからそれから初めてはどうでしょう」
「ありがとうございます。あとどうも魔力を溜めておくこと自体も苦手みたいなんですけど……」
「それは……そうですね。では幼児に魔力の使い方を教えるときに使う魔力操作の練習魔法はいかがですか?それを行ってから風魔法を練習してみてはいかがでしょう」
「あ、それいいですね。俺もやろうかな」
 そう言うとユリアさんはくすりと笑ってそれがいいですわ、と言った。
「コウ様は資質は凄いのですから使わないともったいないですよ」
「いやあ、俺のいた国では魔法ってない世界だったからどうにも馴染みがなくて……」
「生活魔法と回復魔法だけでも一通り使えるようになっておくと便利ですよ」
 生活魔法というのは俺がドロップスを作るときに使う魔法や髪を乾かすときの魔法、冷蔵魔導装置を動かす魔法などだ。回復魔法はドロップスが無いときに重宝する。まあ俺はドロップスが無限に使えるのでなくてもいいと言えばいいが。
「そうですね。ペルルカさんにも監督してもらってやってみます」
「それがいいですわ。あと、魔法の練習は必ず屋外で。火の魔法を練習して火災が起きたなんて話がありますからね」
「はい、ありがとうございます!」
 あ、あと、とユリアさんに奥の小部屋を貸してほしいとお願いする。
 彼女は俺が小部屋で何をしているのかだいたい察しているのだろう、快諾してくれてあとでお茶をお持ちしますね、と言ってくれた。
 ヒロエとともに小部屋に入って、サクマさんにお願いをするとサクマさんがぽんっと爆ぜてそこに執事姿の男が立っていた。
「あれ?」
 執事の服装、一つにまとめた金の長い髪、深い青の瞳は同じだったけれど俺の目の前に現れたのは俺の知るあの猛禽のような鋭い目つきの神様ではなくてタレ目の優男風な男の人だった。
「呼んだかい、私のバンビーノ」
「あれ、声は神様だ。あなた神様ですか?見た目が違うんですけど……」
 すると男の人は今日はこういう気分だったんだ、と言った。やはり神様らしい。
「私は神だからね。顔姿くらい好きに変えられるんだよ。きみとしてはどっちが好みだい?」
「え、俺の好みって必要ですか?好きにしたら良いんじゃないですか?」
「寂しいことを言わないでおくれ。私はきみに好かれたいんだよ」
「十分感謝してますよ?」
 すると彼は俺の手を取って愛情は?と聞いてきた。
「私に愛情は感じない?」
「愛情って、そんな神様に対してそんなの恐れ多くて……」
 たしかにこの神様はフランクだしとっつきやすいがあくまで神様だ。尊敬や感謝はしても愛情というもっと近しい感情はあまり抱きにくい。
 するとヒロエがこらー!と割って入ってきた。
「コウにいちゃんは俺とペルルカにいちゃんの恋人なんだから神様でもそんなにくっついちゃダメー!」
 俺を神様から引き離して腰にくっついてくるヒロエにくすりと笑うと神様がとんでもないことを言った。
「私だってコウの恋人なんだからくっつくくらい良いだろう?」
「え。いつ恋人になったんですか」
「きみが私の部屋で目覚めたとき」
 にこりと言われてはいー?と声を出す。
「じゃなきゃ対価にキスなんて求めないよ」
 た、たしかに言われてみればそうなのか?そういうことに奔放な神様なんだなくらいにしか思ってなかったけど俺のことを恋人だと思っているからこそのこの激甘対応だとすれば納得がいく。
「よかったね、きみの望み通りハーレムだよ」
 ワーウルフ、鬼族、そして極めつけの神様。
 俺、人外のひとに好かれるフェロモンでも出してるのかな……。
 すると俺の思考を読んだかのように、いや、多分本当に読んでいるのだろう、神様が人外だけじゃないよ、と言った。
「きみはペルルカの恋人だから他の人間は何も言ってこないだけで想いを寄せている人間は他にもたくさんいるよ。例えばギルドの受付の……」
「い、言わなくていいです!」
 今後の人間関係に影響が出そうなので慌てて神様の口元を手で覆う。
 するとべろり、と手のひらを舐められて俺はひゃあと声を上げて手を離した。
「きみの肌は甘いね。甘露のようだ」
「ななな舐めるなんてなんてことするんですか!」
「ちょっとじゃれただけじゃないか。恋人同士のスキンシップさ」
「だから俺が神様の恋人なんて恐れ多いですって!」
「コウにいちゃんは神様の恋人は嫌だって」
 ヒロエがそう言って神様にべーっと舌を出す。
 神様はにこっと笑うとそんなことないよね、と圧をかけてきた。
「私のこと、好きだよねえ?」
「え、えっと、は、はい、好きです……」
「じゃあ恋人でも問題ないよね?」
「そ、そうなのかな?」
「そうだよ。そもそも私が一番初めに愛を授けたんだからね?」
 そっかー、うん、まあそうなのかなあ。
「コウにいちゃん!」
 ヒロエが非難めいた声で俺を呼ぶがすまん、俺はこの人を無碍にできないのだ。
 ペルルカさんと出会えたのもヒロエと出会えたのだって結局はこの人のおかげなのだ。
 ただ無為に死んで終わっていたはずの俺をすくい上げてくれたのはこの人なのだ。
「……」
 まあ、この人は教会に来なければ会うこともない人だし。まあいいか。
「俺で良ければ」
「きみが良いんだよ」
 神様は俺の手を取るとその手の甲に口づけてそれで、と小首を傾げた。
「きみはどちらの顔が好みだい?」
 その話まだ引きずってたのか。
「どっちも好きです。神様のセンス良いですね」
 素直に褒めたら彼はなぜかきょとんとして次の瞬間腹を抱えて笑い出した。
「え?え?」
「コウにいちゃん、そういうところだよ」
「え?」
 俺またなんかした?
 呆れたような顔のヒロエと楽しそうに笑う神様。
「ああきみは本当に私を楽しませてくれる」
「はあ」
「そんなきみにひとつの呪文を教えてあげよう。きみにだけ特別だ」
 とん、と神様が俺の額を指先でつついた。途端に言葉が浮かんでくる。
 マティス・エルージャ・シュウ・エルド。
「これは……?」
 今まで習った呪文とはまた違った形態のそれに小首をかしげると私の名前だよ、と彼は言った。
「これを唱えれば私は教会でなくてもどこにでも現れる。何かあったら呼びなさい。なにもないときは絶対に口にしないように。それだけ大切な名前だから」
 あー、真名ってやつか。漫画とかでも真名はそれだけですごい力を持つだとかその相手を縛れるだとか言うもんなあ。
「これが私のきみへの愛の証だと思ってくれ」
「わかりました」
 真名を預けるくらいだ。彼の俺への気持ちは本気なのだろう。疑ってた。神の気まぐれだと思ってた。すみません。
「謝らないでバンビーノ。信じてくれたならそれでいいんだ」
 それに、と彼は茶目っ気たっぷりに笑った。
「ひとりで寂しいときなら呼んでも良いんだよ?要は他人に聞かれなきゃ良いんだから」
「せっかくしみじみしてたのに」
 ジト目で言うと、彼は可笑しそうに笑った。


 神様が帰ったあとにユリアさんとお茶をしていたらクッキーを小さな手で掴んで食べていたサクマさんがんむっと声を上げた。
「どうしたの、サクマさん」
「神様からの伝言です。次の供え物はマスターの手作りのものがいいそうです」
「了解って伝えておいて」
「はいです」
 ヒロエは不服そうにアップルパイを食べている。
「ヒロエ、ごめんって。仕方ないじゃん。あの人がいなかったら俺、ここにいないんだよ」
「……俺、難しい話はわかんないからペルルカにいちゃんの説得はコウにいちゃんひとりでしてね」
「うっ」
 それがありましたね。ええ。
「んー、まあ仕方ないからありのままを言うよ」
 独占欲強めのペルルカさんには胃の痛い話だろう。けれどこればっかりはどうしようもない。だって神様がいなければ俺はペルルカさんにも会えていないのだ。
 そうだ、そうなったらペルルカさんだって生きていないかもしれなかったのだ。
 よし、これを主軸にして話を組み立てて説得しよう。
 俺はそう思ってアップルパイの最後のひとくちを食べた。
 そうして教会を後にして、俺たちは市場に向かった。
「今日はメロウ鳥のグリル焼きしようか」
 あちらの世界で言うクリスマスに食べるまるごとチキンのようなやつだ。メロウ鳥を一羽まるごと買ってその腹の中に野菜を詰めてグリルでこんがり焼き上げる。
 俺はメロウ鳥はすっぱ煮が一番好きだけどヒロエはこのグリル焼きが大好きだった。
「メロウ鳥!いいの?!」
「いいよ、あと何が食べたい?」
「焼いた野菜とかベーコンに溶けたチーズかけるやつ!」
「ラクレットだね。よし、じゃあそうしよう。デザートは何が良い?」
「はちみつレモンのシャーベット!」
「じゃあ帰ったらまずそれから作ろうか。じゃあ材料は何を買っていけばいいかな?」
「メロウ鳥!」
 すっかりご機嫌になったヒロエを可愛いなあと思いながら俺たちは手を繋いで市場を歩いた。


 帰宅してまずアイスを仕込んで、冷やしている間に俺は明日の納品分のドロップスを作ることにした。
 ヒロエには文字の練習帳を渡してあるのでしばらくは静かにしていてくれるだろう。
 俺はひとり作業部屋にこもってドロップスを作り始める。
 室内は様々な薬草の匂いが立ち込めている。一度この部屋を覗いたヒロエは鼻をつまんで逃げていった。嗅覚に優れたペルルカさんは平気な顔をしていたから鬼族には苦手な匂いなのかもしれない。
 乾燥させた薬草数種を薬研で砕いて乳鉢に移す。別の薬研で俺の手のひらから出したドロップスを砕いてそれも同じ乳鉢に移す。聖水を加えてねりねりしたら呪文を唱える。そうすると五十粒ほどのイチゴドロップスの完成だ。それを二回繰り返して百粒作ったら五粒で一袋にまとめていく。これをレモン、パイン、オレンジ、リンゴ、スモモ、メロンと繰り返していく。
 正直、袋に詰める作業が一番辛い。めんどくさい。なんとかならないんだろうかこれ。あ!そういう魔法無いのかな。他の業者さんとかってどうしてるんだろう。今度ペルルカさんに聞いてみよう。
 二時間ほどかけただろうか。ようやく終わってやれやれと思っているとコンコンとノックがされた。
「コウにいちゃん、アイス混ぜる時間だよ」
 扉越しにヒロエがそう言ってくる。おっとそうだった。
「今行く!」
 俺はひとつ伸びをして立ち上がると部屋を出た。
 部屋の前にはもうヒロエはいない。この部屋から漏れ出す匂いも嫌なようだ。
 俺は服についた匂いを落とすようにぱんぱんと全身を叩くとキッチンへと向かった。
「はやくはやく!」
 そこにはヒロエがフォークを手にわくわくと待っていて、俺はそのフォークを受け取ると冷凍魔導装置の中からバットを取り出した。
「うん、ちゃんとできてるね」
 さくさくとかき混ぜていくとヒロエが期待に満ちた目で見てくる。
 俺はくすりと笑うと一口だけだよ、と言ってひとすくいしたそれを彼の口の中に入れた。
「んー!」
 ほっぺたを押さえて美味しそうにしているヒロエに美味しくできてなによりだ、と俺はかき混ぜたそれを冷凍魔導装置の中に戻す。
「そろそろメロウ鳥も仕込み始めようか」
「メロウ鳥!」
「俺が野菜を切るからヒロエは中に詰めてくれる?」
「やる!」
 ヒロエは踏み台を持ってきてシンクで手を洗う。俺はそんなヒロエに子供用エプロンを付けてやって、俺もエプロンを付けて手を洗った。


 話があるんだけどご飯の前と後、どっちがいい?と聞くとペルルカさんはなにか察するものがあったのか後にしよう、と言った。
「食事は気持ちよく済ませたい」
 それは同感だったので食後に今日あったことを話すことにした。
 片付けも済ませてカウチに並んで座って紅茶を飲む。向かいに座るヒロエはホットミルクだ。
「なんか俺、神様の恋人に認定されてた」
 ペルルカさんはまたひとくち紅茶を飲んでカップをソーサーに戻すとまあそうだろうな、と言った。
「え、知ってたの?」
「きみへの神の寵愛ぶりは凄まじいからな。そんなことだろうと思っていた」
 ペルルカさんはまたひとくち飲む。ワーウルフのあの口で上手に紅茶を飲むって凄いよな、となんとなく思う。多分、小さい頃に凄く練習したんだろうな、と思いながらそんな姿を眺めていると確信したのは昨日だ、と彼は言った。
「魔法の対価にキスを求められたと言っていただろう」
「う、うん」
「神はな、私たちの世界では身近だが触れるようなことは決してしてこない。どれだけ神に近いと言われた者であってもそもそも神を簡単に呼び出すことなんてできないのだ」
「え、俺めちゃくちゃ気軽に呼びつけてた。だってあの人が教会で呼べば行くって言うから……」
「そこがもうおかしいんだ。今までも百年に一度くらいの間隔で異世界から人が来ることはあった。だが、どの書物を見てもそんなふうに神を気軽に扱える人間はいなかった。まあ本人が隠していたのならわからないが」
「ということは?」
「神にとってきみが特別ということは丸わかりだということだ」
 それにギフト、と彼はカップをローテーブルの上に置いて言う。
「きみのそれは良質なドロップスを無限に作れるものなのだろう?」
「う、うん……」
 手のひらから生み出せるだとか細かいことは言ってはいないが一応そう説明してある。
「明らかな贔屓じゃないか」
「た、たしかにあの人も自分で贔屓が大好きって言ってた……!」
「それに属性のことだってそうだ。普通は三つまでが最高だ。それを何だ、七属性すべて適合って。魔力量だって半端ない。度の過ぎた寵愛ぶりじゃないか」
「言われてみれば……神様って気前良いなーぐらいにしか思ってなかった……」
「何度も言うようだが私たちは神が存在することを知っている。だが気軽に話したり呼びつけたり果てには頼み事をして魔法を新たに作ってもらうなんてことはしないしできないんだ。あくまで信仰の対象でしか無い。きみが特別なんだ」
「はーそうだったのか……」
「だから神がきみを自分の恋人だと主張してきても今更驚きはしない」
「でも嫉妬はする?」
「っ」
 小首を傾げて尋ねると、彼はぐっと言葉を詰まらせて俺を抱き寄せると髪をぐちゃぐちゃにかき回してきた。
「当たり前だろう!」
「あはは!ごめんって!」
 笑い合っているとどすっと腰に衝撃が来た。ヒロエがしがみついてきたのだ。
「俺もコウにいちゃんわしゃわしゃする!」
 四つの手が俺の髪をわしゃわしゃと仕出して俺は声を上げて笑う。
 ということで、俺の恋人は三人になりました。


 そういえば二人の誕生日っていつなんだろう。
 そう思いついたのは、お肉屋さんの前を通ったときだった。
 最近知ったのだが、こちらでは誕生日にラズベリー牛のステーキとフルーツケーキを食べるのが習わしだそうだ。ちなみにラズベリー牛というのはラズベリー村の特産牛のことでブル山脈の近くに村があるそうだ。ラズベリーリーフティーもこの村の特産品であり、ペルルカさんの好きな紅茶だ。
 それにしたってこちらにきてもうそろそろ半年になるけれどペルルカさんから誕生日だとかそんな話が出たことは一度もない。なんとなく聞いて良いのかわからなくて今まで来てしまった。
「ヒロエは誕生日はいつなの?」
 ヒロエは少し考えた後よくわからない、と言った。
「俺が物心ついたときにはもうかあちゃん、寝込んでたからお祝いとかしたことない」
「あの辺りに他の鬼族はいないの?」
「俺が小さいときに住処を変えるって言ってどっか行った。俺とかあちゃんは足手まといだからってあそこに捨てられた」
「そっかあ。じゃあペルルカさんと同じ日をヒロエの誕生日にして一緒にめいっぱい祝おうか」
「ペルルカにいちゃんと一緒?」
「一緒は嫌?」
 ヒロエはぶんぶんと首を横に振って一緒がいい、と笑った。
「俺、誰かとお揃いって何もないから一緒がいい」
「ヒロエは良い子だなあ」
 よしよしとその銀の髪を撫でるとヒロエは嬉しそうに目を細める。
「俺良い子?コウにいちゃん良い子好き?」
「おう、大好きだぞ」
 やったあ、とヒロエがぴょこんと跳ねる。
「ところでヒロエはいくつなんだ?」
 そういえば俺は勝手に十歳くらいって思ってたけど、今更だが鬼族は長命らしいので見た目と年齢が比例していないのでは、という事実に気づいた。
「俺ねえ、たしか今年で生まれて五十年くらい」
 オウ。ペルルカさんより年上だった。ちなみにペルルカさんは三十八歳で俺より十歳年上だ。
「鬼族って何年くらい生きるの?」
「人によってぜんぜん違う。五百年しか生きないやつもいれば千年生きるやつもいるって聞いたことある」
 それでも最低五百年か……。それを思えばヒロエが年の割に幼いのもうなずける。
 ヒロエの戸籍をどうにかして、と言うか神様だよりになるんだろうが、作れないだろうか。
 この国の法律では人が死んだ時、その人の愛人にはわずかな現金しか遺してやれない。愛人が認められている割に遺産にはシビアなのはそれが嫌なら結婚しろ、ということなのだ。そのための多重婚許可制度だ。
 神様だよりになるとして、その対価はどれほどだろうか。角を隠す魔法を作るために軽いディープキスが対価なら戸籍となるとどれだけの対価を払えば良いのだろう。
 これはペルルカさんに相談したほうが良いな、と判断して俺はヒロエの手を引いて市場を後にした。


「私の誕生日か?十月の七日だ」
「え!もうすぐじゃないか!早く言ってよ!」
「いや、もうこの年になると祝い事というほどでもなくてな……」
 だが、とヒロエの頭をぽんと叩いて笑う。
「ヒロエの誕生日にもなるのなら祝わなくてはならんな」
 それで、とペルルカさんは俺を見てきみはどうなんだ?と聞いてきた。
「俺?十二月二十五日」
 するとペルルカさんはほう、と目を見開いた。
「神と同じ誕生日なのだな」
「え、そうなの?」
 地球では神の子の誕生を祝う日だったがこちらでは神そのものの誕生日らしい。
「この日に生まれる子は稀有でな。一年の中で最も出生率が落ちる日だと言われている」
「どうして?」
「胎児が神と同じ日に産まれるなんて滅相もないと遠慮して産まれてこないと言われている。実際、二十六日になると途端に産まれ始めるからな」
「へーそうなんだ。じゃあ俺って珍しい日に産まれたってことになるのか」
「二十五日に産まれた子供は神に遠慮しなかった子、つまり神経の図太い子だと言われている」
「あはっ、たしかに神様を呼びつけたりしてるから図太いのかも」
 じゃあ十月七日にはお祝いをしなくちゃな、と思いながらそうだ、と思い出す。
「神様といえば、ヒロエの戸籍を神様にどうにかしてもらおうかと思うんだけどどう思う?」
 途端、ペルルカさんは渋い顔をした。
「戸籍は作らなくて良いんじゃないか?作ったところで百年もしないうちにヒロエが鬼族だということはバレるだろう。なにせ鬼族の百歳はまだまだ少年から青年期だ。見た目でバレる。そうなるとなぜ鬼族が戸籍を持っているのかという話になる。ややこしい問題だぞ」
「そっかあ。それもそうだね。ただ、俺たちが死んだ後ヒロエに遺してあげられるものがないなあって思って」
「金なら予め渡しておけば良い。ヒロエが管理していたということにすれば認められる。愛人にも救済制度というか、その辺の抜け道はあるんだ。だから後々はこの家の財産管理はヒロエにやってもらうようにして、ヒロエの財産だと証明できるようにしておけば良い」
「そうなのか」
 ふむふむとうなずいているとそれに、とペルルカさんは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「戸籍なんて作ってもらった日には身体を要求されてもおかしくないぞ」
「え!俺はじめてはペルルカさんが良いんだけど!」
「え?」
「あっ」
 思わず出た本音にペルルカさんが目を見開いて俺を見る。
 俺は顔を真っ赤にして己の口を手で押さえた。
 ペルルカさんは俺の肩を掴んで視線を合わせてくる。
「抱いて、いいのか……?」
「あっ、あのっ、でもまた心の準備ができてなくて……!」
「いつならできる?」
 ひええ、ペルルカさん、目がギラギラしてて怖いよお……。
 俺の怯えを感じたのか、我に返ったようにはっとしたペルルカさんがすまない、と方を掴んでいた手を離して背を向けた。
「少し、頭を冷やしてくる」
 そのまま風呂場の方へと向かおうとしたペルルカさんの背に俺はすがった。ペルルカさんの足が止まる。
「……誕生日の日、なら……いい、よ」
「っ」
 ペルルカさんがぐるっと振り返って俺を抱きしめる。
「……いいんだな?」
「う、うん……でも俺男の人とするの初めてだからなんもわかんないや」
「それは追々教えていく。その、私はきみを抱きたいと思っているのだがそれでいいか?」
「うん、いいよ。俺もペルルカさんに抱かれたい……」
「コウ……!」
 感極まったペルルカさんが俺にキスをしてくる。まって、ヒロエが……!そう止めた俺にペルルカさんはヒロエなら気を利かせて自室に行ったぞ、と教えてくれた。
 気を遣えるようになったのか、ヒロエ……!
 我が子の成長に感動する親のような気持ちになっているとそれより、とペルルカさんにキスをせがまれた。
「ん……」
 ちゅっちゅと口づけて舌がべろりと入ってくる。ひとのそれより薄い舌に口内を犯されながら俺はうっとりと目を閉じた。


 さて、九月も終わりに近づいた頃。
 俺とヒロエの魔法練習はどうなっているかというと。
 俺はペルルカさんから教えてもらった生活魔法をあれこれと覚えていったし、ヒロエもだいぶコントロールができるようになってきた。
 今では風を操って落ち葉を集めたり、土を操って家庭菜園の畑の畝を作ったりしてくれている。
 この国には四季というものはない。北に行けば寒くなるし南に行けば暑いがその大陸の中心にあるこの王都は万年常春状態だ。
 今日は山菜が安かったから天ぷらとおひたしと炊き込みご飯の山菜づくしにしよう。
 けれど肉が好きなペルルカさんとヒロエには物足りないだろうから牛肉のスライスと玉ねぎ、ピーマンを甘辛く炒めたものをつけよう。
 あ、あと明日の朝のパンが無いな。ペルルカさんはライ麦のパンが好きなのでそれを買う。俺は初めてライ麦のパンを食べたときはなんか酸っぱいパン、と思ったものだが今ではそれが美味しいのだと知っている。
 午前中のうちに納品と買い物を済ませて帰ってくると俺はかごから新鮮なアプリコットを取り出して調理にかかった。
 そして昼食を挟んで昼過ぎ、出来上がったアプリコットパイが二つ。一つは我が家の今夜のデザートで、もう一つは神様へのお供えだ。
 前に手作りものの方が良いと言われて以来、俺はお菓子作りに目覚めた。
 この国ではケーキというとパイが主流だ。果物をなんでもかんでもパイ生地に詰めて焼いてしまう。
 それと同時におかずパイも人気がある。ミートパイや具沢山のキッシュも人気だ。
「ヒロエー!教会に行くよー!」
「はーい!」
 庭で菜園に風魔法を応用して広範囲にお水をあげていたヒロエは蛇口を締めてホースをまとめると自分の手も洗って戻ってきた。
「今日は日差しが強いから帽子被ろうね」
「うん!」
 おそろいのベレー帽を被って二人で手を繋いで出かける。
 教会に行くとユリアさんがいつもの微笑みで出迎えてくれた。
「これ、いつものお供え物です」
 俺がかごの中からアプリコットパイを出すとまあ、と彼女は微笑んだ。
「コウ様がお供えをしてくださると神もお喜びになられるようで我々におこぼれをくださるんですよ」
「へ?」
「お供えがあった日は我々全員のハッカドロップスが必ず出来上がるんです。だからコウ様が来てくださるようになってからはハッカドロップスの数が増えてとてもありがたいですわ。ひとりでも多くの人を救えますから」
 そ、そんなことになっていたのか……。
「えっと、じゃあ毎日持ってきたほうが良いですかね」
 そうすると彼女はいいえ、と首を横に振った。
「材料も無限にあるわけではないので今くらいのペースで大丈夫ですわ」
「そうですか」
「さ、お茶にしましょう?ちょうど私も一息つきたいと思っていたところなんです」
 ユリアさんは気遣いがうまい。いつもこうして俺たちにお茶を振る舞ってくれる。本当は忙しいだろうに。
 けれどここで断るのは彼女の行為を無下にするということだ。だから俺はいつもありがとうございます、とお言葉に甘えている。
 ついでに聖水の在庫もなくなってきていたのでそれも貰うことにして俺たちはお茶を御馳走になった。
「ん、これ初めての味です」
 口にした紅茶が初めて感じる味だったので視線を上げるとユリアさんがそうなんです、と微笑んでいた。
「グーズベリーリーフなんです。グーズベリーという街が最近特産として売り出し始めた紅茶なんですよ」
「グーズベリー……」
 グーズベリーと言えばペルルカさんが第二王子の謀略にはめられた街だ。美味しいからおみやげに買っていこうかと思ったけれど苦い記憶を思い出させるのもなあとおみやげ計画は白紙にした。
「どうかしましたか?」
 黙り込んだ俺にユリアさんが小首を傾げてこちらを見ている。俺は慌てていいえ、と手を振った。
「紅茶はラズベリーとグーズベリーの他にはどこかあるんですか?」
「ブルの辺りの街とルージュの森の近くの村々ではそれぞれの特産品として作っているところが多いですわね」
「あ、じゃあアプリコットとかありますか?」
「ええ、ありますよ。よかったらお分けしますので試飲してみてください。お口にあうようでしたらこの教会の裏手にある茶屋で売っておりますわ」
「わ、ありがとうございます!」
 アプリコットは俺とペルルカさんがはじめてすごした村だ。あそこでも紅茶は飲んだがあのときはまだ味わう余裕がなかったのでどんな味だったか記憶にない。
 ユリアさんが奥の部屋に引っ込んで、しばらくして小袋を手に戻ってきた。
「どうぞ。お気に召しますように」
「ありがとうございます!」
 聖水の瓶とその小袋を鞄に入れて俺はヒロエと共に教会をあとにした。
「ヒロエ、誕生日プレゼント決まった?」
「うん、俺、お守りが欲しい」
「お守り?」
「うん、コウにいちゃんの手作りの。もう日にちがないから刺繍とかはしなくて良い。気持ちだけ込めてくれればいいから」
 ヒロエに与えた絵本の中にそういう本があったはずだ。
 この国では大切な人には手作りのお守りを渡す風習があった。魔法を使わずひと針ひと針刺繍を施して中に作った人の髪の毛を包んだ懐紙と魔を避けると言われる銀でできたものを一枚入れておく。大抵これは銀貨だ。
「わかった。気持ちたっくさん込めてお守り作るな」
「うん!ありがとう!」
 帰り道中に俺は布地屋に寄って道具一式を買い揃えて家に戻った。


 そしてやってきた十月七日。
 この日も平日なのでペルルカさんは普通に出勤していった。
 けれど行きがけに夜を楽しみにしている、と囁かれて俺はいやがおうでも意識させられたのだった。
 いつものように納品を済ませて肉屋でラズベリー牛のステーキを三人前買って、ケーキ屋でフルーツたっぷりのケーキも買った。
 今日は荷物が荷物なので屋台で昼を、とはいかず家に帰ってヒロエと二人で軽く食べた。冷蔵魔導装置の中では分厚い肉とケーキが出番を待っている。
 男同士でセックスをするとき、やはり洗浄とかは必要だろうと思ったのだが俺はそのやり方をよく知らない。なんとなくこうだろうなという想像はつくけれどそれがあっているのかなんて知らない。だって地球にいたときはノンケだったんだから。
 けれどこの男同士で結婚するのが当たり前の世界では便利な魔法があるのだ。
 それが直腸内をきれいにしてくれる魔法だ。ワーオご都合主義!あの神様が好きで作っただけある世界だ!
 しかもこの世界の男の直腸内は女の人のように濡れるらしい。俺もそういう体に作り変えられているそうで心配はいらないよ!と神様に太鼓判を押された。
 はい、心配で神様に相談に行きました。あとでペルルカさんになぜふたりのことなのに自分に聞かないのかとも怒られました。ごめんなさい。
 そうして夜になってペルルカさんが帰ってきて。
 三人でステーキとケーキを食べて俺はペルルカさんとヒロエにつたないながらも頑張って作ったお守り第一号を渡した。
「コウ、このマークはなんのマークだ?」
 ヒロエは刺繍はいらないといったけれど、それでもせっかくだからと覚えたてのクロスステッチオンリーで描いたハートマークを指さしてペルルカさんが聞いてきた。
「これはね、俺の生まれた国でハートマークって言ってこころを表すマークだよ。いつでも俺の心はふたりのそばにいるよって証」
「コウ……ありがとう」
「コウにいちゃん、ありがとう」
 二人からの抱擁を受けて俺はどういたしまして、と彼らを抱き返した。
 で、まあお風呂に入ってヒロエが自室に行ってしまうともう俺には逃げ場はなくて。
 いや、もう今更逃げる気はないんだけれどさ。やっぱ緊張するよね。
「コウ」
「はい!」
 緊張丸出しの俺の返事にペルルカさんは苦笑するとそんなに緊張するな、と抱き寄せて肩を撫でてくれた。
「きみにひとつ言って置かなければならないことがある」
「え?なに?」
「俺は、その……性器が普通の人間とは違う。亀頭球といってわかるか?」
「え、あの、犬とか狼とかにある、根本が膨れるあれ?」
「そう、それだ。知っているなら話は早い。射精時間も三十分くらい続く」
「え、お腹弾けちゃわない?大丈夫?」
「続くと行ってもそんなに量が出るわけではないから大丈夫だ。ただ亀頭球が膨らんでいる間は内壁を傷つけないためという観点からどうしても抜くことができないからきみには苦痛な時間になるかもしれない」
 申し訳無さそうに言うペルルカさんに、俺は自然と緊張が解けていくのを感じた。
「……大丈夫だよ。ペルルカさんが俺を傷つけないって知ってるから安心して身を委ねられるよ」
「ありがとう、コウ……」
 俺たちは抱き合って唇を合わせた。


 寝室のペルルカさんのベッドでぷちりぷちりとボタンを外されてパジャマを脱がされる。
 俺もペルルカさんのパジャマを脱がせてお互い上半身裸になる。
「ふふ、もふもふ」
 俺がペルルカさんの胸元の毛をもふもふとするとペルルカさんがお返しとばかりに俺の胸をするりと撫でた。
「ん……」
「ここは感じるか?」
 胸の尖りをくりゅっと指の腹で弄られて眉根を寄せる。
「わかんない……くすぐったいとは思うけど、なんだがおしりがムズムズする」
「性感帯としてまだ未熟なんだな。これから育てていこう」
 これからがあるんだと思うとなんだか幸せな気持ちになる。
 ペルルカさんの指が俺の乳首を弄りながらキスをされて押し倒される。
「ん、ふぁ……」
 食べられるんじゃないかというくらいがぱりとペルルカさんの口が俺の口を覆って舌が入り込んでくる。
 ふっふっと必死で鼻で息をして舌を絡めて。離れる頃には俺の口の周りはベタベタだった。それをペルルカさんがべろりと舐めて拭ってくれる。
 ペルルカさんが首筋に顔を埋めて舐めたりかじったりしてくる。
 どうしたんだろう。俺の体はどんどんぽかぽかとしてきて体の奥のほうがずくずくと疼いてくる。
 ペルルカさんの手が胸から腹へと滑り降りていって、脱がすぞ、の一言とともに下着ごとズボンを脱がされた。
 ぱさりとズボンがベッドの上に落とされる。彼はあらわになった俺のそこをみてふっと安堵したように笑った。
「よかった、勃っているな」
「み、見ないで……!」
 手で隠そうとするとその手を頭上でまとめられてベッドに縫い付けられてしまう。
「あっ」
「見なくてはできないだろう?」
 とろとろと透明な雫をこぼしているそれにペルルカさんのもう片方の手が絡みつき、にゅこにゅこと扱き始めた。
「あっ、あっ」
「気持ちいいか?」
「きもちいい……!」
「素直でよろしい」
 その言葉と同時に扱く手が速くなって俺は腰を揺らめかせてしまう。
「あっ、まって、イッちゃう、イクから……!」
「可愛く果ててみろ」
「ん、んんんっ」
 びくびくっと震えて俺はペルルカさんの手の中で果てた。
「上手にイケたな」
 いいこいいこ、とするようにペルルカさんが俺のこめかみにキスを落とす。
「膝を立てて脚を開くんだ」
「あ、う……」
 射精後のまとまらない頭で言われるがままにそうするとペルルカさんの指が奥まった場所についっと滑らされたのがわかった。
「んっ」
 つぷりと指が入ってくる感触に俺は震えた。濡れてるな、と囁かれて頬が紅潮する。
 ぬちぬちと指が抜き差しされる音が響いて耳を塞ぎたくなる。けれど両手はペルルカさんに捉えられたままだ。
 指が次第に二本に増やされて、そして中のある一点をこりゅっと擦られた。
「ひあっ?!」
「ここが前立腺。きみのイイところだ」
 そこから脳天までしびれるような快感がびりびりと駆け抜けていく。
 こりゅこりゅっとそこを連続して弄られて俺は恥も外聞もなくあられもない声を上げて頭を振った。
「ああっ!あっ、あんんっ」
 ぬくり、と中が更に拡げられる感覚がする。指が増やされたのだ。
 三本の指はばらばらに動いたかと思うと揃って内壁を擦って前立腺を嬲り、俺は翻弄されるがままだった。
 そしてどれだけ喘がされただろう、不意に指がぬぽりと抜かれた。
 拘束されていた手も外される。ペルルカさんが身を起こして己のズボンから屹立したそれを取り出した。
 でかっ!てかやっぱり形は昔犬のを見たことがあるけどそれと同じだった。
 先端が尖っていて嵩は張っておらず、つるっとしたペニス。
「……いいか」
 どこか、怖いなら辞めても良いんだぞ、という色を滲ませたその言葉に俺は己の脚を抱えあげると濡れそぼってひくついているだろうそこを晒した。
「来て……」
「っ」
 ペルルカさんがごくりと喉を鳴らしたのがわかった。そして俺のそこに先端を押し当てて、ぐっと押し込んだ。
「ああっ……!」
 太くて長いそれがずずっと奥まで入ってくる。とん、と奥の壁のようなところにあたって侵攻が止まった。
 はあ、とペルルカさんが熱い息を漏らす。どくんどくんと中で脈打っているのがよくわかった。
「……ようやく、ひとつになれたな」
「ええ……待たせてごめんなさい」
 たくさんたくさんキスをして、ペルルカさんがゆっくりと腰を動かし始めた。
「んっ、ああっ……!」
「ああ……きみの中はきもちがいいな……」
 ペルルカさんが蕩けるような声でそう囁く。もっと激しくしていいよ、と言えばゆっくりと、けれど確実にそのストロークは激しくなっていった。
 あ、あ、と脳内が焼ききれそうになっていく。徐々に高みに向かって登り始めたところで不意にペルルカさんが自身を引き抜いて俺をひっくり返した。
「ああっ!」
 尻だけ高くあげた状態で後ろから貫かれて俺は仰け反る。
 ペルルカさんも限界が近いのか俺の首筋に後ろから噛みつくと激しく腰を振った。
「あっ、あっ、あんっ!だめ、もうイク……!」
「っく……!」
 俺が背をしならせて達するとその締め付けにやられたのかペルルカさんも俺の中で達した。
 途端にぼこりと入口のあたりが拡げられる感覚がして、ああ、亀頭球が膨れたんだなと気づく。
「コウ、ゆっくりと姿勢を変えるぞ。そのまま横を向きながら脚を伸ばしてくれ。ああ、それでいい」
 俺はペルルカさんに後ろから抱きすくめられてゆっくりと体を撫でられた。
「ああ、夢のようだ。コウとこうして抱き合えるなんて……」
「ペルルカさん、俺を好きになってくれてありがとう」
「コウも俺を愛してくれてありがとう」
 ああそうだ。これが。この感情が。
「うん、愛してるよ、ペルルカ」
 愛というものなのだ。



初夜編、完
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