飴玉でハーレム作ろうとしたら男しか寄ってこない

高槻桂

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飴玉でハーレム作ろうとしたら男しか寄ってこない16(第一部完)

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 ヨハンが帰ってしばらくして、俺がアローチャを背負って作業部屋でドロップスを作っていたらヒロエが大慌てで呼びに来た。
「コウにいちゃん!庭になんか変な魔物がいる!」
「魔物?!」
 こんな街の中で?!スモモドロップスの小瓶をとっさに手にとって庭に出るとそこには一抱えほどの大きさの……これはドラゴンだろうか。小さなドラゴンがぼろぼろで倒れていた。
 どこか森とかで他の魔物にやられてこの首都の上空を飛んで逃げているうちに落下したのかもしれない。
「ちょっと見てて!」
 俺は作業部屋に戻ってスモモドロップスの瓶を置くとパインドロップスの瓶を手に駆け戻ってきた。
「パインドロップスって完全な魔物にも効くんだよね?!」
「効くよ!」
「よし」
 俺は小瓶から一粒取り出すと口を開けさせてその中にパインドロップスを放り込む。
 俺は水色の鱗のその子を抱き上げると大丈夫だよ、とその体を撫でた。
「君は助かる。絶対だ。この俺のドロップスがあるんだから大丈夫だよ」
 見る間にドラゴンの傷は治っていく。ぱちりとドラゴンが目を覚まして俺を見た。
「きゅう」
「わあ、鳴き声かわいいねえ。大丈夫?もうひとつパインドロップス舐めておく?」
「きゅう」
「どうぞ。ヒロエ、俺の作業部屋からオレンジドロップスの小瓶持ってきて。魔力も足りてないかも」
「わかった」
 ヒロエはすぐに小瓶を手に戻ってくると一粒ころんと俺の手のひらの上に落とした。
「ほら、これも食べておきな」
「きゅう」
 するとちびドラゴンは俺の腕の中から抜け出してばさっと飛び上がった。
 くるくると俺の頭上を何回か回ると空高く舞い上がっていった。
「気をつけろよー!」
 俺は手を降ってそれを見送った。


 ということがあったのだ、と帰宅したペルルカに話すと彼はなにか考えているようだった。
「それは、水色の鱗のドラゴンだったのだな?」
「うん、なんか知ってる?」
「竜王の使いの可能性がある」
「竜王?」
「きみにはまだ案内していなかったな。街の東側に竜王の神殿がある。そこで祀られているのが水竜王だ。水はすべての命の源。だから水竜王が祀られているのだがその使いが水色の鱗を持つドラゴンだと聞いている」
「ほほう」
「きみはまた、なんというか、厄介なものを助けたな」
「え、厄介なの」
 でも放っておくことなんてできなかった。
「竜王は神と違って人前に姿を表すこともあるそうだ。きみになにか礼をしに来るかもしれない」
「え、竜王直々に来るの?」
「いや、流石にそれはないだろう。使いのものが果物の籠盛りを持ってきたとかその程度の話しか聞いたことがない」
 それにほっとしてよかった、と思う。俺としては当たり前のことをしただけなのにわざわざ竜王様にお出ましなんてことになったら申し訳ない。
「あ!あとヨハンが訪ねて来てね」
「ヨハンだと?!」
 そんなことを話しながら一日を終えた。


 今日も俺はペルルカを送り出してからヒロエとアローチャの三人でアイテムショップとギルドにドロップスを納品に行った。
 お昼ごはん何にしようねえなんて話しながら歩いているとコウ様、と知らない子供に名前を呼ばれた。
 ヒロエと同じ銀の髪を背に流したアクアマリンの瞳の少年だ。
「はい?」
「昨日助けていただいた竜です」
「え?昨日の?人間にしか見えないけど……」
「ひとに化ける術を使っています。コウ様にお願いがあって参りました。神殿にお越し頂けませんか」
「神殿って、竜王様の?」
「はい、ぜひ」
「いいけど……」
 俺の返事に子供はありがとうございます、と頭を下げてこちらです、と先導し始めた。
 三十分ほど歩いただろうか。ちょっと疲れた。東の方は余り行ったことがなかったので疲れつつも物珍しい気分で歩いた。
「こちらです」
 たどり着いたのは、白を基調とした神殿だった。ゲームとかでよく見る感じの。
 中に入ると結構な人がいる。ステンドグラスも教会と同じくらい凄い。
「お連れ様はこちらでお待ちください」
 そう言われてヒロエは不満そうだったが俺がとりなすと仕方なくというように待ってるからね、と言った。
 こちらへ、と案内されたのは人のいない奥の部屋だった。そこにも小さいながらも祭壇がある。
「コウ様をお連れしました」
 少年が祭壇に向かって一礼するとぱああっと祭壇が光ってひとりの男の人が現れた。
 水色の長い髪、爬虫類を思わせる縦長の瞳孔の金の瞳、抜けるような白い肌。
「お前がコウか?」
 玲瓏たる、という言葉がよく似合う涼やかな声だった。
「は、はい」
 気圧されてこくこくと頷くと、彼は昨日は我が同胞を助けてくれたこと礼を言う、と深々と頭を下げた。
「ああそんな、顔をあげてください。俺としては当たり前のことをしたまでです」
「きみは心優しいのだな」
 とたん、甘いものを含んだような声になった竜王にあれ、と思う。
「この国の美徳を知っているか?」
「えっと、優しいこと?」
「そうだ。この国では竜族は敬うべき対象だが私の眷属たちは結局は魔物だ。触れることも恐れるものが大抵だ。それなのにきみは我が眷属を抱きしめて治療した。それは素晴らしいことだと我は思う」
「はあ」
「どうだ?我は竜王などという身ではあるが王配の一人もいない独身だ。我を夫にしてみないか?」
「は?」
 待て、話がおかしい。
「けっ、眷属を助けたくらいで夫になってたら体がいくつあっても足りませんよ?!」
「大丈夫だ、我は一途だ」
 そういう問題じゃない。
「ズバリと言おう。きみに惚れたのだ」
 ズバリと言い過ぎです。
「でも俺もう結婚しててご覧の通り子供もいまして……」
 抱っこ紐に抱かれてすやすやとあみぐるみを抱いて眠るアローチャを指さすと、しかし竜王は問題ない、と鷹揚に頷いた。
「我は心が広いからな。愛人でも構わぬ」
 竜王は全く気にしない様子でそう言った。
 こりゃ何を言っても無駄だな、と思った俺は分かりました、と頷いた。
「ただし、プラトニックな恋人からです。俺もあなたもまだお互いを知らなすぎる。お試しでお付き合いをしてみて、合わなかったら無かったことにしましょう」
「よかろう。私は基本的にここを離れられない。そのあたりは神と同じだ。だからきみから会いに来てくれないか。真名はきみと我が本当の恋人になったら教えよう」
「わかりました。今日はヒロエを待たせているのでこれで帰りますね」
「馬車を呼ぼう。歩きは辛いだろう」
「ありがとうございます」
「……」
「?竜王様?」
 黙り込んだ彼にどうしたのかと小首を傾げて見上げると、彼は手を握ってもいいだろうか、と言って来た。
「どうぞ」
 手を差し出すと彼は俺の手をきゅっと握った。男性のものと思えないくらいたおやかな手だった。そして少し冷たい。
「きみの手は温かいな」
「あなたの手が冷たいんだと思います」
 俺は手を握り返してその手を包んで温めた。
 しばらくそうしていて、だいぶ俺の手の温度が移ったのを確認して俺は手を離した。
「少しは温まりましたか?」
 彼は己の手を指輪でも見るようにかざして見つめたあと、ありがとうと微笑んだ。
「っ」
 その笑顔がそれまでの威厳に満ちたものとは違いはにかんだ様子のそれで少しどきりとした。
「また、温めに来い」
「わかりましたよ」
 すると竜王は姿を消して少年が馬車までかご案内します、と言った。
 部屋を出るとヒロエがいち早く気づいて駆け寄ってくる。
「コウにいちゃん!」
「お待たせ。帰ろうか」
「うん、大丈夫だった?」
「うーん、後で話すね」
 とりあえず神殿を出て馬車に乗る。がたごとと揺られながらこれまでのことを思い返す。
 子供を助けて電車に轢かれて死んだと思ったら神様に拾われてこの世界で生きていくことになって。
 ペルルカと出会ってヒロエとも出会って神様とも恋人になって。
 優しい人がモテるよ、とは確かに言われた。きみならハーレムだって夢じゃないと。
 確かにハーレムには興味があった。だがそれは女の子のハーレムで。
 ワーウルフ、鬼族、神様、そして竜王。全部男。全部人外。
 飴玉でハーレム作ろうとしたら男しか寄ってこない。
 こんなはずじゃなかった。俺は頭を抱えたのだった。


(第一部、完)
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