冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花

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2人きりの皇城

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 何を「不幸」と呼ぶのだろう。
 幸せの大きさは人それぞれ。
 ───それじゃあ、不幸せの大きさは?
 何を持って、人は自分は幸せだと、胸を張って言い切ることが出来るのだろう。
 その答えは、浮き上がるどころか大きな闇に包まれて、まるでどこまでも続く深い海の底に沈んでいくわたしの体のごとく、日の光を浴びることはないように思えた。

 ♦

 幸せの定義は推し量れない。
 なぜなら、幸せというものは、自らがそうだと思った時にしか感じられない、一種の錯覚のようなものだからだ。
 ベンツから降りる際、飛鳥馬様のお膝の上に跨って座っていたわたしは、そのまま飛鳥馬様に抱きかかえられるようにして外に出た。
 まあ……、つまり、抱っこという何とも恥ずかしすぎる体勢で。

「あやちゃん、寒くない?大丈夫?」

 耳元で、飛鳥馬様の低い魅力的な声が響く。
 まだ春が訪れて間もない今は、夜でも少し肌寒い日が稀にある。
 今日がまさにそうだ。

「わたしは大丈夫です…よ」

 飛鳥馬様がわたしを抱っこして歩いているという、何とも恐れ多い光景。
 多分、客観的に自分の今の情けない姿を見たら、死にたくなってしまうほどの羞恥心と、畏怖いふの感情。
 車の中にいた時とは違って、飛鳥馬様の首にしっかり腕を回さないといけないし、腰に両足を絡ませないといけないというのが、苦痛でしかなかった。
 東ノ街を支配する15代目霜蘭花派皇帝に、わたしはなんてことを……っ、!
 だけど、その本人自身はそれに関して何も言ってこないし、何より飛鳥馬様がわたしを抱っこしているのだから、わたしはギリセーフなのでは……??
 飛鳥馬様の両腕がわたしの太ももの裏に回され、しっかりと固定するようにそこで結ばれている両手。
 それが結構恥ずかしいところにあるから、頬に熱が集まってしまうのは仕方のないこと。

「そっか。だけどおれが心配だから、これ着てて」
「……っ、へ?」

 飛鳥馬様がそう言った次の瞬間、真人という従者がこちらに近づいてきて、わたしの肩にバサッとカーディガンらしきものを羽織らせた。

「ありがとう、真人。あの夜のことちゃんとあやちゃんに謝ったら、自己しょーかいしてもいーよ」

 車の中でわたしと話していた時とは少し違う、トゲのある冷たい声音。
 口調は比較的優しいのに、その優しさの裏に何かドス黒いものが隠れているような……、そんなことを感じさせる。
 飛鳥馬様は真人という男を振り返ることなく、立ち止まる。
 対するわたしは、飛鳥馬様に抱っこされているので、後ろにいる真人という男と必然的に目があってしまう。
 あの夜、容赦なくわたしの首にナイフを突きつけてきた夜の世界の住人。
 夜の世界に生きる側の人間には、決まって同じ特徴がある。
 その瞳に映る全てのものが、光なきものとして存在する。
 飛鳥馬様と、その従者である真人という男の瞳は、まさにそんな感じの冷めきった冷酷さを、口には出せないあらゆる憎悪を、含んでいるように見えた。

「───…七瀬様、先日お首に刃物を当てて大変怖がらせてしまったことを、心よりお詫び申し上げます。このような失態はもう2度と致しません。……なので、この馬鹿で無能な私を許してくださると幸いでございます」

 わたしに対する口調、姿勢、礼儀その全てが、あの日の夜とはまるで別人だ。
 それに戸惑いを隠せなくて、真人という男と飛鳥馬様に交互に視線を送る。
 だけど、飛鳥馬様の横顔は依然としてどこか冷たさを纏っていて、話しかけられる雰囲気ではない。
 だからといって、この真人という男の謝罪にどう返事をすれば良いのかも全く分からなくて……。

「え、えと……」

 目線がキョロキョロと右往左往して、突然の謝罪への動揺のせいで一向に定まらない。
 真人という男は、未だに右手を左の胸の位置に添えて、深いお辞儀をしている。
 早く、何か言わなきゃ……!
 さすがにずっとその体勢のままっていうのはつらいよね。

「……っ、わ、わたしはもう大丈夫です!首の傷も、だいぶ治ってきてますし……、」

 もう、あんな目に遭うのは御免だけど。
 それでも、夜の世界に勝手に足を踏み入れてしまったわたしを怪しんで、真人という男は責任感を持って拘束したのだと思うから。
 悪いのは、わたし。
 だからきっと、この真人という男も自分が謝らなければいけないというこの状況に、顔には出さないけれど少なからず理不尽さを覚えていると思う。
 だけど、飛鳥馬様の命令に忠実に従っているのは、きっと本当に自分の主を慕っているから。
 じゃなきゃこんな屈辱的行為、耐えられるはずもない。
 ……って、わたしが言うのも違うと思うけど。

「……ありがとうございます。七瀬様」

 頭を上げ、俯きがちになって体勢を元に戻したその男の顔は、やっぱり苦痛に歪んでいた。
 自分の置かれているこの状況を素直に受け入れられないという、憎しみの表情をして。

「…っい、いえ」
「私の名前は、仁科真人と言います。これからよろしくお願いしますね。──七瀬彩夏様」

 意味ありげにわたしと目を合わせてきた、仁科真人さん。
 これから……?
 わたしと仁科さんの関係に、これからなんて言葉は不必要なはずなのに。
 その言葉の裏に隠された意味を探ろうとしても、全く検討がつかない。

「は、はい……。よろしくお願いします(?)」

 わたしがそう言ったのを境に、飛鳥馬様がまた足を一歩前に、歩き始める。
 都心から少し離れたこの場所は、街を照らす街灯なんてものはほぼなくて、足元が暗くて何も見えない。
 それでも、飛鳥馬様は慣れたように迷いなく進んでいく。
 向かう先は、霜蘭花の巣窟。
 わたしたち東ノ街の住民は、皆それを──皇神居こうしんい──と呼んでいる。
 全てを圧倒するようなその巣窟の名称には、皇帝あるいは神様が住まう居所、という意味がある。
 どこかの国の皇帝陛下が住まうような宮殿みたく広大で巨大なその建物。
 世界的に有名な大企業会社の本社のビルをも越してしまうほどの、高い高い門。
 門だけでそこまで高いのだから、建物の頂上なんかは空に浮かぶ雲に渡れちゃうんじゃないかと錯覚してしまうほどのどデカさだ。
 内閣総理大臣の一生涯のお金を積み込んでも決して建てられないと思うほど、振り返って見た皇神居は壮大で、偉大すぎた。
 この東ノ街で1番高い建物。この街の摩天楼まてんろうとでも言うべきか。
 荘厳な雰囲気を醸し出しながらそびえ立つ、立派なその建物。
 この街では、この皇神居よりも高い建物を作ってはいけないという掟がある。
 皇帝が住まう居所以上に、高さの高い建物を作った場合は、その団体を合わせ、建設会社もろとも永久にこの街から追放する───。
 そんな、恐ろしい決まりというものが存在するのだ。

「あやちゃん、霜蘭花に来るのははじめて?」

 飛鳥馬様の綺麗な瞳がわたしを捉える。
 何もかもを呑み込みそうな漆黒とバチッと目が合って、心の準備が出来ていなかったせいかビクッと肩が震えてしまう。

「も、もち、ろん……っ。初めてですよ」

 ああ、情けない。盛大にカミカミになってしまった。
 どうして、そんな答えが決まっているようなことを聞いてくるんだ。
 飛鳥馬様だって、分かっているはずなのに。
 わたしたち東ノ街に住む住民が、霜蘭花の棲み家に近づくことさえ許されていないことぐらい。

「……はは、そっか」

 わたしの言葉に、なぜ切なげに微笑む飛鳥馬様。
 本当に、このお方の真意が掴めない。
 飛鳥馬様は、いつも何を思って生きているのだろう。
 どんな気持ちを抱えて、毎日息をしているのだろう。
 わたしとは違う世界に住むお方だから……。
 庶民であるわたしと、この街の皇帝である飛鳥馬様では、身分の差が大きすぎるから……。

「……そうです、よ」

 そんな言い訳を無意識の内に探して、最初から深く考えないようにしてきた。
 だからわたしはこの時はまだ、皇帝である飛鳥馬様に隠された“本当”の人間性に、気づくことはなかったのだ。
 トン……、と飛鳥馬様の靴が軽やかな音を立てる。
 それは、皇神居の巨大な門の前に辿り着いた合図だった。
 皇神居の周りを囲う、夜の闇に黒光りする数々の鉄格子。
 そのシンボルとして存在を主張する、一際頑丈で厳格な門の中心に設置された、金色に輝く霜蘭花のマーク。
 蘭の花が縦に連なり、その周りを細々とした氷の霜が覆っている。
 その絵柄は何とも気品に溢れていて、霜蘭花という名の暴走族の知性さと何にも屈しない強固たる強さを表しているようだった。
 皇神居の周りを厳重に警備する門兵たちの姿が目に映る。
 彼らは自分たちの主が帰ってきたことに、目を輝かせて喜んでいるように見えた。
 わたしたちの前に立ちはだかる立派に門が、内開きに自動で開いていく。
 重量が半端ないのか、それともこれほど大きなものを動かすには多大な労力がいるのか、ジリジリと焦らすようにして開いていく門。
 飛鳥馬様は少し乱れたわたしの体勢を元に戻すために、腕に力を入れてわたしを軽く宙に浮かせ、体勢を直した。
 まだ完全には開ききっていない門へ迷いない足取りで突き進んでいく飛鳥馬様。
 門のその先は、立派な石畳の道が永遠と続いていた。
 人が3人は通れるんじゃないかぐらいの門の隙間を通り抜ける飛鳥馬様。
 その瞬間、感じた重苦しい空気感。
 軽んじた行いはここからは一切許されないとでも言うような、言葉では言い表せない重圧。
 それはきっと、わたしが考えすぎてしまっているせいなのだろうけど、間違いなく感じたのだ。
 あの日、家から夜の世界へと初めて足を踏み入れた瞬間の感覚よりも。
 今この瞬間、飛鳥馬様の右足が皇神居の敷地に入った時に感じた“別世界感”。
 俗世から隔離されたような、世界の片隅に身を置かれたような、そんな不思議な感覚。
 ここが、飛鳥馬様たちの住まう太陽のない闇夜の世界なんだ───。
 大きく大きく、膨れ上がる好奇心。
 関わってはいけない、関われるはずもなかった、夜の世界に生きる皇帝と、わたしは今同じ場所で同じ時を過ごしている。
 飛鳥馬様のお迎えを待っていたあの時は、逃げ出したくなるほどの恐怖に襲われていたというのに。
 初めて目にした皇神居を目の前に、わたしは幼子おさなごのようなキラキラとした瞳で、まだ見ぬ世界の姿を見つめている。
 たった1つの街に、2つの大きな世界が存在する。太陽の街と、暗黒の夜の街。
 それは、永遠に交わることはない、決して交わってはいけない2つの世界。
 皇神居の敷地内には、大きな日本庭園が荘厳な雰囲気を残して存在していた。
 何十年もの歴史がある組織なのだ、霜蘭花は。
 そよそよと流れる透き通った川に架かる、立派な橋。
 青く生い茂る勢いのある松の木。
 その中には池もあったりして、遠くから見つめる程度だったけれど、そこには真紅色の鯉が優雅に泳いでいる様子が見て取れた。
 永遠に続くと思われた長い長い石畳の道は、急に終わりを告げる。
 皇神居の建物の前にも、それを厳重に警備する飛鳥馬様に仕える配下の人間たちが数え切れぬほどいた。

「お帰りなさいませ、飛鳥馬様」

 胸に手を添え、恭しくお辞儀をする配下の人間たち。
 飛鳥馬様はきっと、この中にいる誰からも慕われて、好かれている。
 そうでないと、まるで真っ暗闇の中ただ1つ輝く一等星を見るような瞳をして、飛鳥馬様のことを見つめたりなんかしないもの。

「いつもご苦労さま」

 飛鳥馬様は気だるげな声でそう言った。
 まるで労う意も込められていないように感じるやる気のない声音でも、配下の人間たちは皆驚いたように目を見張っている。
 きっと、こうやって飛鳥馬様が自ら挨拶をするなんて、稀の稀なんだろうな……。
 だからみんな、驚いたような顔をしながらもその表情に溢れ出る嬉しさを隠しきれていないのだ。

「「「……っ、ありがとうございます!!」」」

 黒スーツを着た何十人もの配下の人間が、自らの主に向かって敬意を示すべく、そう言って膝に頭が付くほど深くお辞儀をした。
 飛鳥馬様はそれにチラリと視線を送った後、かすかに微笑んでそっと瞳を伏せた。
 大きな扉の両側に佇んでいた2人の配下が、慣れた手付きで扉を開けていく。
 そしてその手には、皆白い手袋をしていた。
 どこまでも高く重たそうな扉が、魂が吹き込まれたようにして開いていく。
 そして、完全に開ききった扉のその向こうの光景を見て、わたしはゴクリと息を呑んだ。
 分かりやすく言えば、まるで世界的な美術館にでも来た気分。
 だけど、わたしの目に映った光景をそのままの言葉で言い表すのなら、それはそれは一言では言い難い神聖な雰囲気と、大きすぎるものに対しての畏怖の感情がわたしの心を魅了していた。
 飛鳥馬様が皇神居に足を踏み入れ、どこかの外国の舞踏会を開催出来そうなほどのだだっ広い空間の中心に歩いて行く。
 中の造りはドーム型状になっており、何十階も先までが吹き抜けになっていた。
 わたしが今いる1階から天井を見上げると、360度全部に大きな窓が取り付けられていて、そこから光り輝くほどの月明かりが建物の中に差し込んでいる。
 明かりをつけているのは1階だけだから、その上の階の闇に舞う小さなホコリたちが月明かりに照らされて、キラキラと白銀に煌めいていた。

「……すごい」

 現実に存在し得ないほどに圧倒的な美しい光景に、思わず目を奪われる。
 わたしの口からは、そんな言葉が吐き出された。

「お褒めに授かり光栄です」

 冗談めかした言い方で、飛鳥馬様が上品に笑う。
 わたしを見つめるその瞳が、幾分か優しい色をして見えたのは、わたしの見間違いだろうか。

「それでは、私は一度退出させていただきます。身も心も震えるほどの優雅な夜をお過ごしくださいませ」

 これまで口を開くことなく飛鳥馬様の後ろに従いていた仁科さんが恭しくお辞儀をして、飛鳥馬様が「うん」と頷いたのを確認し、静かな足取りでどこかへ去って行き、姿を消した。

「……あの、というか、わたしみたいな庶民がこのような場所に入ってもいいのですか?」

 恐る恐る訊ねる。
 きっと、本当だったらわたしなんかが入れる場所じゃない。皇神居が建つ半径300メートル以内の区域への侵入さえ許可されないだろう。
 それなのに、なぜ……。

「うん、もちろん。……それに、何よりおれが、あやちゃんにここへ来てほしかったから」

 わたしの質問に、何のためらいも迷いもなく、そう平然と告げた飛鳥馬様。

「だけど、わたしは飛鳥馬様にとっては庶民で……、太陽の街に住む、住人で……、」
「ふふ、あやちゃんが言いたいこと、なんとなく分かるな」
「……!」
「俺とあやちゃんでは住む世界が違いすぎる、とか思ってるんでしょ」

 飛鳥馬様の言葉が図星過ぎて、グッと喉を締められた気分になる。
 わたしはその言葉に、コクリと小さく頷いた。

「はい、そうで──「だめ」

 “そうです”と言い切ろうとしたところに、飛鳥馬様の声がその言葉を遮った。
 だから、わたしの口から思わず「……え、?」という何とも間の抜けた声が漏れる。

「そんなこと思っちゃ、だめ。住む世界が違うなんて、そんなひどいこと思わないでよ」

 傷ついた表情をする飛鳥馬様に、ジリジリと焦りの気持ちが生まれる。
 わたしが思っていたことは、飛鳥馬様にとってはひどいことになるの……?
 飛鳥馬様のことが、やっぱりあまりよく分からない。
 いくら頑張って探ろうとしてもその言葉の裏に隠された飛鳥馬様の気持ちに気づくことはないし、気分屋な飛鳥馬様を理解するのは何とも難しい。

「は、い……(?)」
「あやちゃん、その顔は分かってないでしょ。とりあえず頷いとけばいっか、とか思って、てきとーにやり過ごしてるんでしょ」

 今日の飛鳥馬様は、というかそもそもそこまで深い間柄ではないのだけど(今日でまだ会うのは4回目だし……、いや、そもそも会ってること自体が異常なのか)、ここまで飛鳥馬様が踏み込んでわたしに話しかけてくるのは今日が初めてで、内心ビックリしてしまう。
 飛鳥馬様はその綺麗な唇を不満気に結んで、少し尖った声でそんなことを言った。
 “てきとーにやり過ごしている”
 その言葉に、一瞬ギクリとしてしまった。
 別に、何か思い当たる節はないのに。

「…っ、そ、そんなことないです!」

 仮にそうだとしても、飛鳥馬様相手にてきとーにやり過ごすなんて、出来るわけがない……っ!
 わたしの声が皇神居に響き渡る。
 思った以上に大きな声を発してしまったせいか、室内が異常なほどに広い皇神居にやまびこのようにわたしの声が繰り返し響き渡り、ちょっと恥ずかしい。
 恐る恐る飛鳥馬様の表情を覗うと、そこにはわたしの予想していないものがあった。

「え……っ、」

 飛鳥馬様の表情が、驚きの色で染まっていた。
 綺麗な瞳が限界にまで見開かれ、わたしの言葉が予想外だとでも言うように、ビックリしている。

「飛鳥馬、様……?どうされたので──「ほんと、やめてよね」

 勢いよく遮られる。
 飛鳥馬様の声がいつもよりも一段と低い。
 少し荒ぶった様子の飛鳥馬様に、ビクリと肩が震える。
 どうしよう、わたし、飛鳥馬様のご機嫌を損ねてしまったの……?
 俯いたままわたしと視線を合わせようとしない飛鳥馬様を見つめていると、不安な気持ちがどんどん大きくなって、そのかさを増す。

「───…っ、ほんっと、あやちゃんはおれを振り回すのが得意なんだから」

 その耳たぶが、真っ赤に染まっていた。
 わたしと視線を合わせようとすることなく、恥ずかしそうに顔を俯けた飛鳥馬様。
 どうやら、怒っているわけじゃ、ない……?
 そう感じて、心の奥底から体の力が抜けるほどの安堵感が溢れ出てきた。
 ……だけど。
 それならどうして、飛鳥馬様は不機嫌そうな低いお声で『ほんと、やめてよね』と呟いたのだろう。
 少しの間そんなことを悶々と考え込んでいると、わたしを抱っこしていた飛鳥馬様の腕の力が緩むのを感じた。
 だから、飛鳥馬様の腰に巻き付けていたわたしの両足は支えをなくし、そのままズルズルと下へと落ちていく。
 そしてそのまま、皇神居の神聖な大理石の床に降ろされる。

「へ……っ、」

 突然のことにビックリして、わたしは飛鳥馬様のお顔を2度見してしまう。
 どうしよう、足、ついちゃった。わたしが一生をかけて稼いだお金でも足らないほどの価値ある床を、汚してしまった。
 わたしをご自身のお体から降ろした飛鳥馬様だったけれど、その両腕は、今度はわたしの腰に回され、ここでもゼロ距離なまま。

「……ねぇ、あやちゃん」
「……?何ですか?」

 未だにわたしと目を合わせることなく、俯きがちにそう呟いた飛鳥馬様。
 その声に何だか覇気がなくて、俯くその姿に元気がないように見える。
 飛鳥馬様は1度深く息を吸うように肩を上下に揺らし、ようやくお顔を上げてわたしを見据えた。

「あやちゃんって、彼氏とかいるの」
「……っ、へ?」

 どうして、飛鳥馬様がそんなことを聞くんだろう。
 そんなことを聞いても、飛鳥馬様にとっては得にならないのに……。
 そう思ったけれど、何にせよ皇帝の質問に答えないという選択肢はないので、本当のことを告げる。

「……い、います、よ」

 だから、この状況はマズいんです。
 とまではさすがに言えなかった。
 わたしの返答に、目を見開いた飛鳥馬様。
 わたしを抱きしめるその腕に、力が入った。

「…っ、あやちゃん。今、なんて?」

 わたしにそう聞き返す声が、震えているのがすぐに分かった。わたしの首筋に顔を埋め、わたしを抱きしめる力がもっと強くなり、少し息がしづらくなる。

「えっと、だから……いますよ、彼氏」

 だけど、わたしはもうその人のことを純粋に好きだと思えないんです。
 一緒にいても、もう幸せを感じられないんです。
 わたしは……、最低なんです。
 相手の全部を受け入れてあげられない、最低な女なんです。
 誰にも打ち明けてこなかった、わたしのその悩みは喉元でつっかえて、口から吐き出されることはない。
 この苦しみを誰かに聞いてもらうことさえ、出来ない。

「……ちょっとこっち来て」

 すると突然、わたしを抱きしめていたはずの飛鳥馬様がわたしから両腕を離し、代わりに手首を掴んで歩き出した。
 広すぎる舞踏会場のような空間から、飛鳥馬様に腕を引かれて真っ暗な廊下へと進んで行く。
 すると、驚いたことに飛鳥馬様が廊下に足を踏み入れたその瞬間、廊下の壁に連なって取り付けられていた明かりが次々に火を灯していった。
 真っ暗だった廊下が、仄かにうごめく炎によって妖しげに照らされる。
 その光景に、わたしは思わず息を呑んだ。
 美術館の画廊のように幅が広い廊下には、真っ赤に染まる真紅のカーペットがずっと先まで敷かれていた。
 飛鳥馬様、少し様子がおかしいな……。
 わたし、また何か気に障るようなことを言っちゃったかな?
 不安になりながら、飛鳥馬様に連れられて必死に足を動かす。
 一体どこに向かっているんだろう、という疑問は、この大きすぎる建物内では無意味で、全く検討もつかない。
 つまり、そんな疑問さえ抱けないほどに、この皇神居の建物内は外から見て分かっていたが、広大だった。
 きっと、わたし1人でこの建物内を歩いていたら、一生出口には辿り着けそうにない。
 必ず迷子になってしまう。
 廊下を進んでいくと、壁が大きな間隔で開けているドアなしの部屋がいくつも見えてきた。
 少し気になって、視線をすぐ近くの部屋に向けると、その先には大きなビリヤードの台があった。
 仄暗いオレンジの電球が、その部屋を微かに照らしていた。その光景は、そう……まるでどこかの高級バーのような雰囲気。
 よく見てみると、ビリヤードの台の他に壁に取り付けられたダーツや、お酒やワインなどが綺麗に並べられている棚、そしてその目の前にカウンターがあり、その上には透明に透けるワイングラスが綺麗に並べて置いてあった。
 視線を向けていられたのはほんの2秒間ほどだったけれど、その短い間でこの皇神居の凄さを思い知る。
 飛鳥馬様の歩く足は止まらず、廊下が左右に別れているところで左に曲がった。
 さっきのバー的な部屋、アルコールの飲み物しか置かれてない雰囲気だったけど、飛鳥馬様はまだ高校生なんだよね……?
 飛鳥馬様の広い背中を見つめながら廊下を歩いていると、突然そんな疑問が頭に浮かぶ。
 でも、そんな疑問もすぐにしぼんで消えていった。
 飛鳥馬様は高校生。学年までは分からないけれど、風のウワサでは“そういうこと”になっている。
 ……そう。ただ、“そういうこと”になっているだけ。
 東ノ街が完全に支配されていない今、住民たちは皇帝がまだ高校生だから、日が昇った街に手を出せていないのだと、勝手に推理している。
 まだ未成年だから、全てを掌握する器を持っていないのだと、勝手な妄想を繰り広げている。
 もし飛鳥馬様が高校生じゃなかったら……、なんていう考えを住民は最初から見て見ぬふりをしているのだ。
 なぜなら、もし本当にその考えが合っていた時、わたしたち住民は今この瞬間から、いつ皇帝に太陽の街が支配されてしまうのかという恐怖と隣り合わせに毎日を生きていかねばならないから。
 ───だからわたしたち住民は、飛鳥馬様がまだ完全なる支配力を所有していない未成年だと信じたいのだ。
 まだ高校生であると信じて、希望が捨てられないのだ。
 ……どうせいつかは儚く散ってしまう、日が差す太陽の街。
 わたしたちは、この都市以外の住民が普通に持つことの出来る永久に失われることのない自由を、この世界で息をしている限りは手に入れることが出来ない。
 それは西ノ街の住民も同じだ。
 俯きがちになりながら廊下を歩いていると、突然目の前の何かにドンッと顔をぶつけた。

「……っわ!?」

 視界が真っ黒に染まる。
 一体何にぶつかったのかすぐに理解出来なかったけれど、その漆黒の正体が飛鳥馬様の着ているスーツの色だということに気づいた。

「……ぁ、も、申し訳…っ」
「──謝んなくていい。……てか、謝らないで」

 わたしの言葉を遮る声の中で、今のが確実に1番機嫌が悪かった。
 それが地を這うように低い声音から読み取れる。

「も、申し訳……っ、は、い」

 また謝ろうとしてしまって、慌てて自分の口を止める。そして代わりにコクンと頷いた。
 すると、俯いたわたしの頭に、そっと大きな手が添えられた。そしてわしゃわしゃと優しく撫でられて、ストレートロングの黒髪が少し乱れる。

「……ん、それでいい」

 さっきよりも幾分優しくなった声音と雰囲気。
 わたしの頭を撫でて離れていったその手の温度は、やっぱり驚くほどに冷たかった。
 ちゃんと血が通っていないんじゃないかって、失礼だけどそう思ってしまうほどの冷たさ。

「……っ、あやちゃん?なにしてるの」

 きっと、反射的にしてしまったんだと思う。
 離れていこうとした飛鳥馬の右手を咄嗟に掴んで、両手で包みこんだ。
 ただ、この冷たい手を温めることだけに必死になって。
 一瞬、飛鳥馬様がこの街を統べる皇帝だということを忘れて。
 ぎゅっと握った両手から、わたしの体温が飛鳥馬様へと伝わる。
 氷のように冷たかった飛鳥馬様の手がわたしの熱によってじんわりと温かくなる。

「……よかった。ちゃんと、あったかくなった」

 尋常じゃないほどに冷たかった飛鳥馬様の手は、他人からの温かさを受け入れられる手なんだ。
 そう思ったら何だかほっとして、思わず笑みが浮かぶ。
 そんなわたしを、目を見張って呆然と見つめている飛鳥馬様にしばらく気づけなかった。
 そしてわたしは、ようやく自分のしていることの重大さに気づく。

「……っは!わっ、わたしってば……っ、何やって」
「……あやちゃん?」
「す、すすすすみません……っ!今すぐ離すので──」

 心臓の動悸が治まらない。
 わたし、めっちや盛大に嚙んでしまった……恥ずかしいっ。
 だけどそれよりも……っ。なんてことをしたのわたし!!
 慌てふためきながら、パッと飛鳥馬様の手から両手を離そうとした。……んだけど。

「へ……っ、?」

 なぜか、飛鳥馬様の大きな右手に、離しそこねたわたしの左手がぎゅっと握られている。
 何度手に力を入れて離そうとしても、わたしの手を握る飛鳥馬様の力が強くなるばかりで、2人の手は重なり合ったまま。

「なんで離そうとするの、もっと温めてよ。おれの手、まだ冷たいよ?」

 飛鳥馬様は意地悪だ……。
 こうやっていつもわたしを困らせるようなことばかりしてくる。
 今だって……、首を傾げて楽しげな色をした瞳がわたしを捕らえて逸らすことを許してくれないんだもん。
 逸らしたくても、逸らせない。どこまでも続きそうなその漆黒の瞳は、それをわたしに絶対条件としている。

「わ、わたしなんかが……っ、飛鳥馬様に触れてもよろしいのですか」
「あやちゃんは“なんか”じゃない。またそうやって自分のこと見下すようだったら、───次はその唇、塞ぐよ」 

 冗談を言っているとは思えない飛鳥馬様の真剣な瞳。
 その漆黒にまっすぐに射抜かれて、息を呑む。
 わたしの手と触れていない方の飛鳥馬様の左手が、わたしの唇に触れて、優しく撫でられる。
 その手はやっぱり、冷たかった。
 だからわたしは、さっきの飛鳥馬様のお言葉を思い出して、勇気を振り絞って自分の右手で飛鳥馬様の左手を握った。
 飛鳥馬様のお顔に視線を向けると、そこには嬉しそうにはにかむ少年のような笑顔があった。
 皇帝でも、神様でも、なんでもない。
 飛鳥馬様は、本当に無垢な笑顔を浮かべて、わたしを優しげな瞳で見つめていた。

「……どうして、飛鳥馬様の手はこんなにも冷えきっているのですか」

 ……だから、かもしれない。
 その幼い笑顔を見ていると、飛鳥馬様がわたしと同じ世界に住む人間だと錯覚してしまう。
 だからわたしは、こんなふうに深く踏み込んだ質問を、飛鳥馬様にしてしまったんだ。
 ……っ、どうしよう、生意気だって思われたかな。
 今度こそ飛鳥馬様を怒らせてしまうんじゃないかな……っ。
 恐る恐る、飛鳥馬様と目を合わせた。
 だけど、そんなわたしの不安とは裏腹に、飛鳥馬様は未だに優しい瞳をしている。

「……そういう血筋だから」

 飛鳥馬様がボソリと小さな声でそう呟いた。
 それは、ぎりぎり聞き取れるか聞き取れないかぐらいの小さな声。

「え……?」

 そういう、血筋だから……?
 ……え、なに、どういうこと?
 手が冷たいっていうのに、血筋とかが関係しているのかな……、一体どういうことだろう。

「血筋って、手の冷たさに関係する場合があるのですか……?」

 きっと今わたしが聞いていることは無礼極まりない。
 それでも、知りたかった。どうしても知りたくなった。
 冷たい手をする飛鳥馬様に、少しだけ触れてみたかった。

「ほら、血筋は争えないってよく言うでしょ?おれたち飛鳥馬家の場合は、“冷酷”なんだよ。自分の性格も、身体も、雰囲気も、何もかもが冷酷。──そういう血筋だから、おれの手は冷たいんだ」

 飛鳥馬様の言っていることが、すぐには理解出来なかった。
 それくらい、複雑で難しいことを話されているような気がしたから。
 だけど、1つ驚いたことがあった。
 それは、飛鳥馬様自身のお口から、“冷酷”という言葉が発されたことだ。
 初めて飛鳥馬様と出会ったあの夜に感じた、異空間。そこは、信じられないくらいに冷たかった。
 飛鳥馬様の周りの温度だけがとても低く感じたのだ。
 きっとその冷気は本当にあるわけではなく、わたしの幻覚によるものなのだけれど……。

「……もしわたしが温めたら、飛鳥馬様のお手はちゃんと温かくなりますか」
「うん、なるよ」

 妙に確信とした言い方で、得意げな表情をして口角を上げた飛鳥馬様。
 それが少しおかしくて、ふふっと笑みがこぼれる。
 飛鳥馬様の両の手をわたしの両手で包み込むようにして温める。わたしの指先から、飛鳥馬様の指先へと体温が伝わっていくのを感じる。

「血筋がどうであれ、わたしは飛鳥馬様が冷酷なお方だとは思えません。飛鳥馬様と何度かお話して、そう感じました」

 ずっと心の内に秘めていたこと。
 飛鳥馬様の黒いウワサばかりを先入観だけで信じて、本当の飛鳥馬様を見ようとしていなかった過去のわたし。
 飛鳥馬様を恐れてばかりで、まともなことも発してこなかったわたしだけれど、今なら言える。
 飛鳥馬様のあの幼い笑顔を何度も目に映した今なら、飛鳥馬様がわたしと同じ人間なんだと思うことが出来る。

「言うようになったね、あやちゃん」
「……!」
「あやちゃんが思ってること、考えてること、おれに教えてよ。今のおれは皇帝でも神でもなんでもなく、あやちゃんと話してる普通の男だから」

 綺麗な形をした唇が緩やかな弧を描く。
 わたしにそう言った飛鳥馬様の表情は、怒ってる風でも気分を害した風でもなく、穏やかな色を浮かべている。
 そして飛鳥馬様は、わたしを優しげに見つめながら小首をかしげてふふっと上品に笑った。
 ───飛鳥馬様の冷たすぎた手は、わたしの体温によって温められて、すごく凄く、あたたかかった。
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