冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花

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平穏な(溺愛まみれな)日々

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─────
────

「ねぇあやちゃん」
「ん、なぁに麗仁くん」
「おれ、こんなに幸せでいていいのかな……」

 唐突な質問に、言葉が詰まった。
 それは、その内容が自分に重なったから。
 幸せな日々が続けば、不安になる。
 わたしにとっては、それが当たり前だった。
 麗仁くんにとっても、きっとそうなのかもしれない。
 愛しい人の腕の中、麗仁くんの胸板に背を預けて、そっと寄り添うわたしたち。

「幸せでいていいの!いちいち不安になってたら、きりがないでしょ」

 そうやって、自分を奮わせる。

「ふふ、あやちゃん強がってる」

 麗仁くんには、そんなわたしがお見通しのようで。
 やっぱりつくづく、勝てないなって思う。

「そう言う麗仁くんだって、不安なくせに」
「……、うん。そうだね」

 わたしの小言を肯定した麗仁くん。
 悲しげに伏せられた睫毛が怖いくらいに美しい。

「いつか強くなれるかな……」

 そんな風に弱音を吐く麗仁くんは、やっぱりちょっとだけ皇帝らしくない。
 だけど、わたしはそんな人間味のある麗仁くんだから、好きになったんだと思うよ。

「麗仁くんはありのままでいい。そのまんまの姿が素敵なの」
「え、あやちゃん……?急にどうしたの」

 ふはっと笑った麗仁くんの目には、少なからずだけど動揺の色があった。

「わたしが麗仁くんのこと大好きなんだから、麗仁くんは今のままでも十分かっこいいって言ってるの!」

 気恥ずかしくなって、最後は早口で言い切った。
 わたしの言葉を聞いた麗仁くんは、最初こそはビックリしてたけど、すぐに嬉しそうに頬を緩ませて、口元を寄せた。
 ───ちゅ。
 優しく重ねられた唇から、確かな体温が伝わってきて。
 ああ、麗仁くんは生きてるんだって、安心させられる。
 キスは1度じゃ終わらなくて、何度も何度も、角度を変えて深く落とされる。

「んんっ、……ぁ、や…」
「いや?ならやめていーの?」

 優しくゆっくりとわたしをベッドに押し倒した麗仁くんは、意地悪く笑う。

「や、違うの……っ」
「なにが違うの。ほら、言ってみて」

 そうしている間にも、麗仁くんのひんやりとした手が服の中に入ってきて……。
 カチッ……、胸を締め付けるものが緩んだ。
 片手で器用にホックを外すものだから、麗仁くんは女の子慣れしてるんだって思って、悲しくなる。

「……っうぅ、ぁ……っ」
「…っ、なんで泣くの。あやちゃん」

 麗仁くんの手が今度はわたしの頬を優しく掠って、涙を拭ってくれる。

「麗仁くん、女の人たちと遊んでるって……ウワサ聞いたことある…っ」

 情けない。
 言うつもりなかったのに。
 それを聞いた麗仁くんの目がスッと細められて、強引に唇を塞がれた。

「…へえ、あやちゃんは、おれのことよりもそのウワサを信じるわけ?」

 ……ぁ、麗仁くん、怒ってる。
 不機嫌に顰められた眉が、それを教えてくれる。

「……やぁっ…、やめて、そこはだめ……っ」
「ほら、早く答えてよ」

 麗仁くんの手が、ビンカンなところばかりに触れてくる。
 甘い嬌声が、皇神居の最上階の一室に響く。
 着ていた服も、下着も、どんどん脱がされて。
 6つに割れた麗仁くんの筋肉が、色気を放っていて。
 思わず目を背けてしまう。

「りとくんのこと、信じるからぁ……っ」
「……、ん。よく言えました」

 満足気に微笑んだと思ったら、今度は激しくて甘い快感がわたしの体全体を襲ってくる。

「…あー、もうぐちゃぐちゃじゃん」

 そう言って、また甘いキスを落としてくるんだから、相当タチが悪いと思う。

「──彩夏、かわいい」

 急に呼ばれる呼び捨てに、胸がドキンと高鳴る。
 もう、ずるすぎだよ……。
 こんな時だけ、そう呼ぶのは。

「もう、一生離さないから───。だから、あやちゃんもおれを離さないで」

 甘く痺れる快感の中、そんな甘い響きが耳に入る。
 それは、どこまでも純粋で、だけど強引な愛の告白。

「……はぅ、もう、勝手に離れて行かないで。次そんなことしたら、ぜったいに許さないんだから」

 涙目でそんなことを言う彩夏に、麗仁はどうしようもない切なさを覚えた。

 -麗仁side-

 あやちゃんはきっとこれからも、昔のことを思い出すことはない。
 それだけ記憶は脆くて、儚いものだから。
 ……だけど、少しずつでもあやちゃんの記憶が蘇っていく、なんてことがあればいいなとも思ってる。
 そうなることを期待してるおれが、確かにいるんだ。
 優しさを知らなかったおれに、誰が人に優しくすることの大切さを教えてくれたと思う?

『わたし、本物の愛をくれる人でなきゃ、満足出来ません』
『……へぇ?そんなこと、お前ごときが言っていいとでも思ってんの?』

 あやちゃんは、最初からおれの本性を見抜いていたよね。
 おれが人を愛せないって、見抜いたような真っ直ぐな瞳で射抜いてきたのを、今でも覚えてる。
 あの時、正直おれは物凄く焦ったんだ。
 自分が必死に隠してきた弱さを暴かれそうになったことに、ここまで焦りを覚えたのはあやちゃんが初めてだった。
 “心臓病”っていう大きな欠陥を持ったおれを誰1人愛してはくれない。
 ……いつ死ぬかもわからないおれは、誰も愛してはいけない。
 誰も、愛せない。
 だけど、あやちゃんがおれの閉ざされた心をどんどん開いていった。
 人の温かさを知った。そして同時に、自分の冷酷さに気づいてしまった。

『りーとくん…っ!今日は何して遊ぶー?』
『……あやちゃん、』
『ん?なぁに』
『あやちゃんはおれと結婚してくれるよね』
『へ……?』

 おれの言葉に珍しく動揺した顔を見せたあやちゃん。
 それだけで、心臓がドクンッと鳴って不安になった。

『あや、本物の愛をくれる人でなきゃ、満足出来ないよ?』
『……へぇ?そんなこと、お前ごときが言っていいとでも思ってんの?』

 挑発気味におれを煽ってくるのは、わざとか、それとも無自覚か。
 今考えれば、すぐに分かる。
 あやちゃんのあの発言は、おれを見定めるためのものだったのだろう。
 おれという人間があやちゃんを幸せにできるのか、幼いなりに疑っていたんだろう。
 昔のおれは、そこまで考えることが出来なかったけれど、どこかであやちゃんを安心させるような言葉を吐いた気がする。

『おれはもう、お前しか見てねーんだけど』
『わ、わたしもりとくんを見てるよ?今』

 どこか噛み合わない会話。
 幼い頃のあやちゃんは、驚くほどに鈍感だった。

『───…っだから早く、おれに溺れろ』

 そう言って、おれはあやちゃんを不器用に抱きしめた。
 しばらくあやちゃんは何も言わずにいたから、おれはどんどん焦ってきて。
 命令口調でしか言えない自分が悔しくて。
 強く唇を噛んだ時───

『ふふっ、じゃああやはもうとっくにりとくんに溺れてる!』

 その言葉に、震え上がるほどの喜びを感じた。

『……じゃあ、もう一生離してあげられないけど、いい?』
『もちろん……っ!』

 あやちゃんの笑顔は、冷たい皇神居を一気に温かくして、同時におれの冷え切った心も温かくしてくれた。
 だからさ……
 今、ここに誓うよ。
 君からおれに別れを告げない限り、この心臓が動き続ける限り、おれは君を愛し抜くことを誓う─────。
 ……でもまあ、君がおれから離れたいって泣きじゃくったって、逃がすつもりはさらさらないんだけど。
 だから、覚悟してね。
 何十年も君に恋をしていた男の愛は、想像以上に重くて見苦しいんだってこと。
 昔も今も、変わらずにあやちゃんのことが、だいすきです。
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