あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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カフェ店員のやんごとなき事情

猫にとって食われそうなネズミ

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 それでは失礼致します、とカフェを出たあまりは、ビルの立ち並ぶ街中を海里と並んで歩いた。

 ど、何処に行くのでしょう。

 明日からの仕事に関係あることなのでしょうか。

 なんとなく無言のまま二人で夕暮れの街を歩く。

 今日が一番心細い感じがするな、と思っていた。

 家を出てから、ひとりで行動することが多くなったが、なんとなくつきまとう寂しさを今日が一番強く感じる。

 ……それはたぶん、横に、このなに考えてんだかわからないイケメン様が居るからだ~っ。

 向こうから来た仕事帰りのOLらしき女性が、まず海里を見たあとで、うらやましげにこちらを見ていった。

 いやいや、貴女。
 なにがうらやましいんですか、と思わず、見知らぬOLに心の中で話しかける。

 ケンブリッジ卒で、この年で支社長のイケメンエリート様に真横を無言で歩かれてごらんなさい。

 しかも、私は、その恐れ多い縁談を理由も言わずに断った女ですよ。

 針のムシロですよっ、と思っていたが、よく考えたら、ただ、横をすれ違っただけの彼女に、そんなことわかるはずもなかった。

 そのとき、
「おい」
といきなり、海里が口を開き、

「はははははは、はいっ」
とあまりは、ビクつきながら返事をした。

 自分でも、『は』が多すぎるっ! と思いながらも。



 俺は、おい、と言っただけだよな。

 必要以上にビクつくあまりを見下ろし、海里は思った。

 あまりは自分が見るたび、ネズミが猫にとって食われる寸前っ、みたいな顔をする。

 ……こんなところでとって食うか、と思いながら、斜め前に見えてきた店を指差した。

 品のいい品揃えの洋服が並んでいるショップだ。

「お前、あの店知ってるか?」

「あ、通るときよく見ます。
 素敵ですよね、高いけど」

 高いけどって言葉が出るか。

 意外と庶民派だな、と思う。

 親がしっかりしているのかもしれない。

 お嬢様のわりには、贅沢しているようには見えなかった。

 服は高そうな仕立てだし、靴もいい革のを履いているが。

 鞄は特にブランドものでもなく、その辺で売ってそうな可愛らしい感じだった。

 だが、服にも、あまりのイメージにも合っている。

 細かいことにはこだわらない性格なのかもな、と思う。

 さっき、自分に言われてスケジュールをメモしていた手帳も、
『これ、100均のなんですけど、薄くて使いやすいんですよー』
と部下が見せてくれたのと同じものだった。

 写真で見たイメージのままだな、と思う。

『まあ、写真だけでも見てみなさい。
 可愛らしい娘さんじゃないか。

 父親にひとつも似てなくて、邪悪さの欠片もないぞー』
とまだ酔ったまま、スマホに転送してもらったらしい写真を父親が見せてきた。

 いや、邪悪って、あんた、友だちじゃないのか、と思いながら、その画面を覗き込んだ――。

 今、横に居るあまりは、これからなにがあるんだろう? という感じで、おっかなびっくり自分の次の言葉を待っている。

 そのビクビクした感じに、笑いそうになりながらも、なんとか堪えた。

「ちょっと寄っていこう」
と言うと、は? とあまりはこちらを見上げる。


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