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派遣秘書のとんでもない日常
座敷牢にでも入ってろ
しおりを挟む「お疲れ様ですー」
とあまりは秘書室に戻った。
「お帰り」
お弁当を食べていた秋月が顔を上げる。
「完売だって?
買いに行く前に終わっちゃったわよ」
「すみません。
今日はちょっと前倒しに売ってしまって。
なんでしたら、明日の分、ご予約お受けしますよ」
「そうね。
お願いしようかな。
でも、順調でよかったじゃない」
そんな秋月の言葉に、ファミちゃんこと、桜田も頷いていた。
「いや、まだわかりませんよ。
二、三日は物珍しさで売れるでしょうけどね。
成田さんだって、今日は最初だから少し残ってもらいましたけど、店の方があるので、そう長くは引っ張れませんしね」
そう真剣に呟いて、秋月に、
「……あんた、此処に二号店出しそうな勢いね」
と言われてしまう。
「まあ、あの二枚目の店員さんとやらが居なくても大丈夫じゃない?
男性社員が、美人のカフェ店員が珈琲淹れてくれるって、こぞって行ってたみたいだし」
そう言い、秋月はこちらを見て笑った。
「なんでも美人とつけるのはよくない傾向だな」
という声が背後からした。
振り返ると、海里が立っていた。
「美人すぎるなになにとか、綺麗すぎるなになにとかの名称もどうかと思う」
あまりを指差し言う。
「少なくとも、これは美人じゃないだろ。
美人ってのは、もっとこう、落ち着いた人のことだ。
秋月さんとか、桜田とか」
あら、と二人が嬉しそうな声を上げる。
「……そうですね。
大崎さんとか」
と意識はしていなかったのに、なんとなく低く怨念のこもった声で言ってしまった。
「大崎、関係ないだろ」
と言ったあとで、ちょっとの間のあと、海里は、
「なんだ今のは。
妬いてるとか?」
と訊いてくる。
「そっ、そんなこと言ってないじゃないですかっ。
ところで、パンはどうでしたっ?」
あまりがそう早口に訊くと、
「駄目だな」
と言う。
「ええっ?
美味しくなかったですかっ?
マスターの焼いたパンが美味しくないなんて。
支社長、味覚がおかしいんじゃないですか?」
「……どんな店員だ。
自分の店の味を不味いと言ったら、客を全否定か」
いや、パンは美味かった、と海里は言う。
「俺が文句があるのは、お前だ。
何故、人に任せるっ。
お前の仕事だろうがっ」
「だって、私より、成田さんの方が支社長の好みに詳しいかと思いまして」
「じゃあ、せめて持ってこいよっ」
「だって、手が離せなかったんですっ。
それに、成田さんの方がついでに持ってけるし」
「成田、帰るんだったろ。
遠回りさせて先輩に持ってこさせるとかどうなんだ」
うっ。
それは確かに。
成田さんにこれ以上手伝わせては悪いと思ったし、ひっきりなしにお客様が来ていたので、つい、頼んでしまったが、悪かったな、と思っていると、海里がトドメを刺すように言ってくる。
「お前にカフェの店員なんか勤まるか。
家に帰れ。
帰って、おとなしく結婚でもしろ」
と言ったあとで、いや……と言い、
「座敷牢にでも閉じこもってろ」
と言い直す。
「なんでですかっ。
ちょっと先輩に物運ばせただけでっ」
「客の要望のわかっていない店員なんか役立たずだって言ってるんだ」
「……この場合のお客様のご要望はなんですか?」
思わず、真面目に訊いてしまったが、
「俺が知るか」
と言う。
「いや、お客様、貴方ですよね」
「お、時間だ。
じゃあな」
海里は聞かぬふりをし、秋月さん、と呼びかける。
「遠慮なくしごいてやってください。
桜田、迷惑かけると思うが、頼む。
室長」
と呼びかけたあとで、
「……起きてますか?」
と訊いていた。
あ、ああ、どうもどうも海里くん、と今は支社長の海里に向かい、室長は言っていた。
起きているのか、本当に……。
海里が出て行ったあとで、塩を撒いてやろうかな、と思っていると、秋月が近づいてきて、ポン、と肩を叩く。
「なになに。
貴女、支社長のなんなの?
おかしいと思ってたのよ。
わざわざカフェから店員呼ぶなんて。
支社長は福利厚生の一環として、社食以外にも食事の販売をしてみるとか言ってたみたいだけど」
とにやりと笑う。
「ねえ、ファミちゃん」
と言うと、また桜田は、無言で、コクコク頷いていたが、興味津々という顔をしていた。
「支社長と貴女、どういう関係?」
と訊かれ、あまりは慌てて答える。
「ししし、知りませんっ。
あんな人っ。
見たことも聞いたこともない人ですっ」
そう思わず、言ってしまい、
「いや……うちの支社長よね」
と冷静に言い返された。
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