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派遣秘書のとんでもない日常
……秋月さん、どうしてくれるんです
しおりを挟むいやあ、楽しい酒だった。
会が終わる頃、秋月はご機嫌だった。
ひとつの問題を除いては。
「……秋月さん、どうしてくれるんです」
と秋月は支社長に言われる。
あまりは、ぼちぼち酒は強かったのだが、秋月のちゃんぽん攻撃にやられ、テーブルに額をぶつけ、寝てしまっていた。
「すみません。
でも、ほら、楽しかったみたいですよ。
安らかに眠っておられます」
と秋月は髪のかかっていない方の顔を示して言う。
あまりは器用なことに、笑ったまま寝ていた。
「死んでるみたいだから、やめてください……」
と海里が言ってくる。
社長の息子だった海里は、本社の総務に居た頃から知っているのだが、会社に入り、上司となっても、あの頃のまま、自分には敬語を使ってくれていた。
これ、どうするよ、と海里と成田の男二人が額を付き合わせて困っている。
海里が言った。
「俺が頭を持つ。
お前、脚を持て」
レスキューか。
「いや、待て。
俺が脚を持つから、お前が頭を……」
と言い直した海里に、成田が言う。
「何故、お前が決める。
俺が頭を……」
「じゃあ、いいじゃないか」
「いや、待て。
やっぱり、俺が脚を……」
それは、何処を持ったらいいという話ではなく、何処を持ちたいかという話ではないのか、男どもよ。
あまりの可愛い顔か、綺麗な脚か。
まあ、自分が男でも迷うな、と秋月は思う。
っていうか、こいつら、どんな体勢で抱えていく気だ。
通報されるぞ、と思うのだが、二人とも、一人があまりを抱えるのは恥ずかしいらしい。
……若い男は可愛いな、とあまりに言ったら、秋月さん、生き血をすすり出しそうですっ、と言われそうなことを思う。
腕力的には、寺坂がひょいと抱えれば済む話なのだが。
寺坂もこの騒ぎに割り込んで、抱えましょうかとは言えないらしく、端でのんびり、桜田と話している。
面白くはあるが、このままでは埒があかないだろうな、と秋月は割って入った。
「もう~っ。
閉店しちゃいますよ。
私が背負いますっ。
乗せてくださいっ」
とあまりの側にしゃがみ、背中を向けると、桜田が、
「あっ、じゃあ、私が背負いますよ」
と言ってくる。
自分の方が若いから力仕事をしなければ、と思ったようだが。
「いいから。
人を抱えるのにはコツがあるのよ」
と言うと、寺坂が青ざめ、
「……死体とか?」
と阿呆なことを言ってくる。
酔ってるんだか酔ってないんだかわからない顔だが、まだ酔っているのかもしれない。
「子どもよ、子ども。
男の子は子どものときから重いからねえ。
コツを覚えないと、腰を痛めるから」
もう寝たろうか、と秋月は家に置いてきた我が子たちを思う。
海里があまりを背中に乗せてくれたが、そのために触るのさえ、恥ずかしそうだった。
よっ、とあまりを背負って立ち上がると、男二人は残念そうにこちらを見ていた。
ほんと。
残念だったね、君たち。
ジャンケンででも決めれば、どちらかには、ちょっとだけの幸福が訪れたのに。
男って莫迦だな、と思いながら、秋月はその可愛らしさに笑う。
店の外に出るとき、ガラス扉に自分に背負われて眠るあまりの姿が映って見えた。
お姫様のようにすやすやと眠っている。
実際は、ただの、しこたま呑んだ酔っ払いだが、それが顔に出ないところがあまりの得なところだろう。
同世代だったら、カンにさわるモテっぷりかなとも思うが、キャラの問題か。
桜田ファミリアもなにも気にしていないようだった。
後ろで、寺坂と楽しそうに笑っている。
まあ、女って、結局は、大勢にモテるより、たったひとりの好きなひとに自分を見ていて欲しいものだからな。
あまりは恋も知らない感じだが。
一体、誰を好きになるんだろうな、と秋月は思う。
仲がいいんだか悪いんだかわからない海里と成田は斜め前を歩きながら、まだ揉めている。
海里は時折、ちらとこちらを気にするように、振り返っていた。
あまりの好きになる相手が、いい男であることを望むよ。
うちの旦那みたいな、と秋月は月を見て笑う。
自分が呑みに行っているので、旦那は今頃、子どもを寝かしつけるのに往生していることだろう。
酒でも買って帰ってやるか……と思いながら、あまりを落とさないよう、ゆっくり歩いていった。
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