あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

よく知らない人と新幹線に乗って、沈黙は気まずい……

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 車両の案内のアナウンスが流れる。

 今は、喫煙ルームに行かなければ、煙草は吸えないようだ、と思いながら、
「今、煙草吸う人って、肩身狭いですよねー。
 支社長はお吸いになられないんですか?」
と訊くと、海里は、

「海里でいい。
 私用だから」
と言ったあとで、

「吸わないな。
 イギリスは煙草、一箱千円以上したし。

 屋外は自由なんだが、屋内は全面禁煙だったしな。

 政府がそこまでしてやめさせようとしているものをわざわざ吸う必要はあるまいと思って」
と言う。

「お前の周りは誰か吸うのか?」
と逆に問われた。

「んー。
 お父さんが昔吸ってたような記憶がありますけど。
 今は吸ってないですね。

 おにいちゃんは、煙草を吸うと老けるとかいう伝説を信じて吸いません」

「伝説じゃなくて、煙草、吸うのもだが、肌についても悪いから、皮膚が老化するって話だろ。
 まあ、本人吸わなくても、側に居るだけで同じことだと思うが」

 そこで一瞬、沈黙が訪れた。

 うーむ。
 よく知らない人と旅をするのに、沈黙しているのは気まずいぞ、と思ったあまりは、
「そういえば、昔は二階建ての新幹線があったらしいですね」
と新幹線つながりで話を振ってみた。

「最近まで走ってたぞ。
 そういえば、西にはグランドひかりって言うのがあったな」

 子どもの頃、見た気がする、と海里は言った。

「出来た当初は、最上級のグリーン車がある豪華な新幹線だったらしいぞ」

「豪華な新幹線ですか。
 殺人事件が起きそうですね」
と言うと、なんでだ、と言う。

「二階建て車両殺人事件とか」

「……なんでも殺人事件にするな」

「いや、豪華な車両というと殺人事件ですよ。
 イギリスだったら――」

「オリエント急行殺人事件だろ」

「いいですね、豪華列車」
と笑うと、

「乗ってみたいか?」
と訊かれる。

「そうですね。
 でも、海外は苦手なんで……」

「オリエント急行は日本を走ったこともあるんだぞ」

 いきなり語り出した海里の横顔を見ながら思う。

 ……うーむ。
 さっきから思っていたのだが。

「あのー、海里さんは、いわゆる『テツ』とかおっしゃる方なのですか?」

 偉く鉄道に詳しいが、と思って訊いてみると、
「そうじゃないが。
 男は好きだろ、鉄道」
と言ってくる。

 偏見だ……。

「でも、うちのお兄ちゃんなんかは、止まってられない人なので乗り物が苦手なんです。

 飛行機とか発狂しそうになるとか言って、いつも寝ています。

 新婚旅行、奥さんが海外って言ったらどうするのって言ったら、船で行くって言ってました」

 それはそれでゴージャスだな、と海里は呟く。

「いいじゃないか、船の旅。
 カジノとかもあって。

 俺は、船旅するほどには、休みはとれないが」

「そうなのですか。
 残念ですね」
と言っていて、気がついた。

 よく考えたら、私がこの人と新婚旅行に行くわけではないので、この人が船に乗るほど休みがとれようが、とれまいが、どっちでもいい話だった、と。

 その間、海里の方はなにを考えていたのかわからないが、同じように沈黙していた。

 そのまま沈黙が続いてしまう。

 困ったな……。

 再び、沈黙に耐えかねた、あまりは鞄の中をごそごそやり、それを取り出した。

「いかがですか? 羊羹」

「羊羹!?」

 しかも、何故、一本丸ごとっ、と言われてしまう。

「よくその鞄に入ったな……」
 呆れたように、あまりの小振りな鞄を見ながら、海里が呟く。

「はあ。
 もともと財布と鍵くらいしか入っていなかったので」

「いつも羊羹持ち歩いてるのか」

「いや、さっき、帰りがけに草野さんとエレベーターホールで出会ったら、ちょうどよかったと言ってくださったので」

 下のロータリーで待ち合わせたので、そのときは海里は居なかったのだ。

「……総務の草野か」
と海里が呟く。

「自分より目立つと気に入らないとか言って、次々、目についた女性社員に嫌がらせをしていると聞いたが」

「まあ、私は特に目立つようなこともしないし。
 逆らわないからじゃないですか?」

「……そうか」
と言いながら、その目は、逆らわないか? と訴えていた。

 それを無視し、
「はい」
とあまりは羊羹を海里に向ける。

「半分食べていいですよ」
と微笑んだ。

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