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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密
でもこの辺りは――
しおりを挟むどうも奥さんがいきなり破水して、病院に担ぎ込まれたが、かなりの早産になりそうだということだった。
パトリックに伝えると、彼は、早く行け、と運転手に言う。
「え? え?」
動揺したまま、訊き返してくる彼に、
「行っていいらしいですよ」
と教えた。
「でもこの辺りは」
と彼は言いかけたのだが、無線から、
『奥さんが真木さん呼んでるよー』
と聞こえてきた。
「早く行ってください。
こっちのタクシーがあるので、大丈夫です」
と言うと、チラと離れた位置にあるタクシーを確認し、
「そうですか。
すみません。
ありがとうございますっ。
サン……」
パトリックに向かい、サンキューと英語で言いかけた真木という運転手を止める。
「ありがとうございますっ」
と礼を言い、真木は去って行った。
「ありがとうございます、すみません。
どうぞ、我々のタクシーをお使いください。
私たちはもう少し此処を見て、別の車を呼びますので」
そうパトリックに言うと、彼は笑い、
「日本人は面白いね。
ありがとうこざいます、すみませんって、君のことじゃないのに。
無事に産まれるといいね、じゃ」
と言って、去って行った。
「いいんですか?
一緒にタクシーで街に戻らなくて」
呼ぶの時間かかりますよ、とあまりが言ってくる。
「そうだな。
それがベストだったろうが。
お前がまた阿呆なことを言い出すんじゃないかと思って、ハラハラしながら、小一時間タクシーに乗ってるの嫌だからな」
まあ、とりあえず、タクシーを呼ぶか、とスマホを出して固まった。
「……あるのか、この日本に、まだ圏外の地域がっ」
「ああ、ほんとだ」
と横からひょいと覗き込んできたあまりのつむじが鼻先に来て、どきりと身を引きそうになる。
あまりは、パトリックと話したときの動揺を引きずっていて、特に気にしているようにはなかったが。
「私のも駄目ですね。
そういえば、タクシーの人も無線で話してましたよね」
つまり、さっき、運転手が言いかけた『でもこの辺りは』の続きは、『携帯通じないから』だったのだろう。
下手にあそこにタクシーがもう一台居ると言ってしまったから、安心してそれ以上言ってこなかったのに違いない。
あまりはもうタクシーの消えた山陰を見ながら、
「さっきのタクシーにもう一台呼んでもらうべきでしたね」
と真っ当なことを言ってくる。
「お前が騒ぎを起こさないうちに、パトリックと別れたかったんだよ……」
「何処までも通じないってこともないでしょうから、街に向かって歩きましょうか」
とあまりは空き地から出て、道に下りようとする。
「とりあえず、タクシーの向かった方向に向かって」
「……うるさい、仕切るな」
いじけているかのような自分に、あまりが、
「支社長、誰にでも失敗はありますよ」
と言ってきた。
「俺せいだけとも思えんが……」
「大丈夫ですっ。
太陽がある方に、きっと街はありますっ」
ほとんど落ちている夕陽を指差し、あまりは言った。
「なんの託宣だ、それ……」
と呟きながらも、疲れていたのだろう。
つい、あまりについて行ってしまった。
そして、太陽は当然のごとく、すぐに山の端に落ちていってしまった――。
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