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箱から出てこない箱入り娘
その自信、うらやましいな
しおりを挟む無言で打ち続ける父親の背中を見ていたが、なんとなくあの日の海里の茶羽織りの背中を思い出し、訊いてみた。
「お父さんはさ、なんでそんなにいつも自信満々なの?」
答えはないかと思ったが、こちらを見ないまま父は言う。
「今まで、私のやって来たことに間違いはないからだ」
いや、間違いだらけな気がするんだが……。
でも、この自信が今はうらやましくもある。
そんなあまりの考えを読んだように父は言ってくる。
「なにがいけない?
仕事は多少、強引なところもあるかもしれないが。
経営が安定した方が社員のためだ。
妻とも多少、強引に結婚したかもしれないが――」
……やはりそうだったか、と思い、聞いていると、
「今はあれも不満はあるまい。
過程はどうあれ、私の人生は間違いではなかったと思っているぞ。
お前達がこの世に産まれたんだからな」
と言う。
お父さん……と思っていると、
「というわけで、そこを退け」
と言い、あまりとテーブルを退けると、そこからネットに向かって打ち始めた。
……やはり、この父親の愛情は此処までか、と思う。
「お母さんに会ったら帰れよ。
尊はどうせ、コソコソお前に会いに行ってるんだろう」
お見通しのようだった。
「自分の意志で家を出たのなら貫き通せ」
いや、なんか立派な言葉のようですが、それ、家出娘に帰ってくるな、と言ってるわけですよね、と思ったあとで。
まあ、この年で家出でもないか。
……独り立ちかな、と思い、もう冷えてきた紅茶を飲んだ。
「お前が出て行って、お母さんが、こうして、みんな居なくなって最後は貴方と二人で暮らしていくのね。
仲良くしましょうね、とか言ってきて、今、ラブラブなんだ」
邪魔するな、と言う。
……それで帰ってこなくていいんだな。
呆れながらも、それだけ夫婦仲がいいのがうらやましくもある。
こちらを振り向き、
「なんだ?
お前も結婚したくなったか。
お前は自分じゃ捕まえられないだろうから、見合いでもしろ。
この間のは断ってしまったから、次を用意してやる」
と言ってくる。
あっさり言うなー、と思ったあとで、はっとした。
次……?
そうだ。
私が海里さんを断ってしまったから、海里さんにも次の見合いの話が来てるのでは……。
頭の中では、露出の多いワンピースを着て、じゃらじゃらエジプトの女王のようなアクセサリーをつけた女が海里にしなだれかかり、ほほほほほ、と笑っていた。
思わず、スマホを確認してしまう。
海里からは、なんの連絡も入ってはいなかった。
いや、確かに忙しいとは言いましたけどーっ。
ほんとになにも言ってこないってどういうことなんですかっ、とスマホの画面を凝視していると、いつの間にかこちらを見ていた父親が、
「……お母さんは時間がかかりそうだ。
もう帰れ」
と言ってきた。
相変わらず、肩には撲殺しそうな感じで持ち上げたゴルフクラブを乗せている。
「帰ります」
それではっ、とあまりは門へと向かった。
いや、帰ったからといって、どうなるものでもないのだが。
門のところで、荷物をたくさん抱えた尊と出会った。
「えっ? 姉ちゃん?」
と尊が振り返る。
「尊、またね」
あまりが階段を下りると、もう帰るのー? と後ろで叫んでいた。
まだガレージに居た母親に、
「お母さん、またねー」
と言って駆け抜ける。
真っ赤な車の横で、母親は、あらあら、という顔をして見送っていた。
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