あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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箱から出てこない箱入り娘

なんだか落ち着かない休日

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 あまりはカフェの前を素通りし、自分のマンションへと駆け戻る。

 部屋の鍵を開けていると、隣りの人が帰ってきた。

 いつもスーツを着ている若い男の人だ。

 わりと整った顔をしているのだが、少し印象に残りにくい。

 此処で会うから、あ、お隣さんだな、と思うのだが。

 道ですれ違ったのでは、わからないような気がした。

「あ、こんにちは」
と言うと、こんにちは、と笑顔で挨拶してくれる。

 日曜でもスーツか。

 こんな時間に帰ってきてるし、なんのお仕事なのかな?

 まあ、海里さんでも、休みにちょこっと出勤したりしてるもんね。

 似たような感じのお仕事なのかな? と思う。

 まあ、支社長がこんなマンションには住んではいないと思うが、と思いながら、部屋に入った。

 そして、帰っておいて困る。

 えーと。
 私、これからどうしたら……?

 なんだか落ち着かなくなって帰ってきてしまったが。

 よく考えたら、海里から電話があるわけでもなければ、こちらからかけるわけでもない。

 かけなければならない理由もないし。

 今は顔を見るのも、恥ずかしい気がするし。

 会ってどうしたいのかもわからない。

 ほんと……。
 どうしたいんだろうな、私、と思いながら、また見る気もなくテレビをつけ、暇を持て余して、部屋の中をウロウロしていた。

 しょうもない日曜日だ……。




 その一日前、土曜日――。

 海里はあまりと別れたあと、職場に来ていた。

 支社長室で、鞄の中のものをデスクに出していると、寺坂がノックして入ってきた。

「お前も来たのか。
 休みなんだから、ゆっくりしててよかったのに」

 いえ、と寺坂は言う。

「そういえば、夕べは、どうだった?」
と訊くと、寺坂は何故か、

「は、支社長のお陰で楽しかったです」
と言って頭を下げてきた。

「何故、俺のおかげだ?」

 手を止め、問うてみた。

 いえ、実は、と寺坂は白状する。

 自分とあまりを出かけさせるために、桜田と約束したと嘘をついたのだと言ってきた。

「支社長はおやさしいから、そう言えば、私のような無骨な人間がようやく声をかけられたんだからと思って、遠慮されるだろうと思いまして」

「そうだったのか。
 気を使わせてすまんな」

「いえ、お陰で、それを切っ掛けに、本当に桜田さんと出かけることが出来ました」

「何処に行ったんだ?」
と訊くと、ちょっと二人で食事に行ったのだと恥ずかしそうに寺坂は言う。

 肉体派すぎるせいか。

 ちょっとヤクザっぽく見えなくもない寺坂だが、応援したくなる純情さだ。

「社長はあまりさんと出かけられてどうでした?」

 笑顔で問うてくる寺坂に、

「うん。
 ……ちょっと帰りそびれて、泊まってきたんだが」
と歯切れ悪く言うと、

「えっ。
 お二人でですか?」
と訊き返された。

 それはそれは、と言われたが、
「いや……それが結局、なんだかよくわからない感じで」
と答える。

 二人で一夜を過ごしたはずなのに、何故か、前より、あまりを遠く感じていた。

「なんせ、あまりだからな」

 あまりをよく知る寺坂は、ああ、と苦笑いする。

「でも、きっと、あまりさんは、支社長のこと、お好きですよ」

 ……たぶん、そうだと思うんだが。

 あの女、あんまり押し過ぎると、カメに乗って何処かに逃亡してしまいそうだからな。

 そんなことを考えていると、寺坂が、
「女性はあまりガンガン押して行き過ぎると引いてしまうらしいですよ、支社長」
と言ってくる。

「……そうだな」
と頷いた。

 二人でなんとなく小声になる。

 出社していないはずの秋月がその辺で聞いていて、ひひひ、と笑っていそうな気がしたからだ。

 不器用な寺坂と自分と、探り探り進んで行っている感じだ。

 っていうか、寺坂はともかく、俺は今までこんなことはかなったんだがな、と海里はひとり、溜息をついた。



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