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箱から出てこない箱入り娘
見合いする前に見合い相手に振られたと聞いたが、元気か
しおりを挟む日曜日、海里もなんとなく実家に帰ってみていた。
あまりとの見合いの話はなかったことになっているはずだが、あのあと、父親とあまりの父は会って話したりしているのだろうかとちょっと気になったからだ。
すると、広い玄関ロビーの湾曲している階段の下に何処かで見た男が立っていた。
「海里、元気か?」
父の年の離れた弟、遥真だ。
一応、叔父ではあるが、自分との方が年が近いし、顔も似ている。
実は母親が、この叔父と浮気して自分が出来たんじゃないかと思うくらい似ている。
遥真は、笑いながら、
「見合いする前に見合い相手に振られたと聞いたが、元気か」
と余計な言葉を付け足してきた。
誰だ、余計なことをしゃべりやがったのは、と思いながら、
「振られてない」
と言い返す。
「へー、そうなのか」
軽い調子で訊いてくるので、つい、あまりのことを少し話してしまった。
「ほほう。
彼女はお前が嫌で家を飛び出して、カフェの女給さんを」
「お前はなに時代の人間だ……」
女給ってな、と思っていると、
「写真はあるのか、見せてみろ」
と言ってくる。
迷ったが、断ったら、父親に余計なことをペラペラしゃべりそうだな、と思って、スマホにあった見合い写真を見せた。
「ほうほう。
可愛いじゃないか。
これで女給さんか」
カフェの店員だっつーのに、と思っていると、
「モテるだろうなあ」
とまだ写真を見ながら、遥真は言ってくる。
「……そうなのか?」
「だって、可愛いじゃないか。
近寄りがたいほど綺麗とかいうわけでもないし」
てめーと思っていると、
「カフェの店員とか、話しかけやすいだろ。
いろいろ切っ掛けもあるし」
と言ってくるので、外に出そうとしていたあの箱入り娘をまた箱につめたくなった。
「で?」
と遥真は笑いながら、スマホを返してくる。
「結局、この子と付き合ってるわけか?」
さあな、と曖昧に誤摩化したはずなのに、
「そうなのかー。
もうそういう関係なのかー」
と言ってくる。
何故、わかる……。
年の功か? と思っていると、
「へー。
顔に似合わず、アバズレだなあ。
結婚前に」
と言ってきた。
アバズレ……。
今でもそんな考えの人が居たのか、と思いながら、
「そうじゃない。
俺が無理矢理――」
と言いかけると、
「お前、強姦魔か」
と言ってくる。
……お前はあまりか、と思っていると、
「でも、面白そうだから、今度見に行ってやるよ」
と遥真は言い出した。
なにっ? と思っている間に、勝手にあまりの写真を自分のスマホに転送しようとしている。
「駄目だっつってんだろっ」
二人で揉めていると、呑気なことに、まだ寝ていたのか、母親が階段に、けだるい感じで現れた。
上から自分たちを見下ろし、
「遥真さん、いらっしゃい。
あら、海里、なんで居るの?」
と言ってくる。
おい……。
息子の方の扱いはずいぶん悪いな、と思っていると、母親は階段を下りてきながら、
「それにしても相変わらず、仲がいいわね。
さすが……」
と言いかけ、何処かに行ってしまう。
さすがなんなんですか、お母さんっ。
さすが実の親子ね、じゃないだろうな、と怯えながら、行ってしまう母親を見送っていると、遥真も同じように見送っていた。
ずっと母親の後ろ姿を見ている彼に、
ちょっと待て。
どういう意味の視線だ、それはっ、と問いかけそうになったとき、遥真がこちらを振り向いた。
「よしっ。
近々、そのお前の彼女とやらが居るカフェに行ってみようっ」
と言い出す。
こっちはこっちで、ちょっと待てーっ!
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