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箱から出てこない箱入り娘
腹痛の原因がトレンチコートを着て立っています
しおりを挟む月曜日。
気持ちのいい朝だ。
そのわりに気分は落ち着かないが。
あまりはカフェで外のテーブルを拭きながら、空を見上げ、溜息をつく。
早く会社に行きたいような、行きたくないような。
ああ、お腹が痛くなってきたっ、と思い、視線を下げた瞬間、固まった。
腹痛の原因がそこにトレンチコートを着て立っていたからだ。
悲鳴を上げて逃げ出したくなったが、店員がそんなことしちゃ駄目だろうという理性が働き、なんとかその場に留まる。
だが、布巾を握り締めてフリーズしていると、海里は、今、あまりが拭いていたテーブルにつき、こちらを見上げて言ってきた。
「おい、店員」
「はっ、はいっ」
「メニューは?」
「ははは、はいっ」
と叫んで、脱兎のごとく戻ろうとすると、
「待て」
と言われた。
「やっぱりいい。
珈琲で」
はいっ、と言って、あまりは一度止めた足でまた駆け出した。
なな、なんで早朝から此処に居るんですかっ。
ああ、仕事の前に珈琲でも一杯とかって?
うう、余裕だな、と思う。
私はいつも遅刻ギリギリなのに。
それに、精神的にも余裕があるんだろうな、と思う。
私は貴方のせいでいっぱいいっぱいで、珈琲楽しむ余裕もありません~っ、と恨みがましく思いながら、
「マスター、珈琲ひとつ……」
と言うと、こちらを見たマスターに、どうしたの? と笑われた。
どんな顔で、どんな言い方だったのだろうかな、と思う。
マスターはチラ、と海里を見、
「そういえば、金曜日、出張についていったんだっけ?
どうだった?」
と訊いてきた。
「は、はい。
休ませていただいて、ありがとうございました。
おかげさまで、空き地でフランス人と話が出来ました……」
え? なんの仕事? と問われる。
なんとかその晩、帰れなかったことには触れずに話を終えようとしながらも、頭の大半は後ろに居る海里の方を向いていた。
それにしても、背中に海里さんの視線を感じる気がするのだが、気のせいだろうか。
ただの自意識過剰だろうかな。
ああ、こっち見てないといいんだけど、緊張するから。
いや、でも、まるきり他所を向かれてても悲しいな、とぐるぐる考えながら、他のテーブルのオーダーを取り、戻ってくると、
「はい、犬塚くんの珈琲」
と渡された。
はい、と自動的に受け取り、海里の方を振り向く。
おかしい。
明らかに挙動不審だ。
成田は海里と出張してきたというあまりを観察していた。
目が泳いでいるのは、いつものことだが、口許が強張っているし、動きが硬い。
……妙だな、と眺めていると、他にもあまりを見ている人間が居るのに気がついた。
海里とは離れたテラス席に座っている若いスーツ姿の男が、スマホを見るふりをしながら、時折あまりを窺っている。
なんだろう、あの男。
あまりに気があるのだろうか?
可愛い店員につきまとう客はたまに居るので、普段から気をつけてはいるのだが。
「はい、犬塚くんの珈琲」
とマスターがあまりに珈琲を渡す。
あまりはそれを受け取り、ギクシャクした動きで運んでいった。
あんな人形、見たことあるな、と成田は思う。
ああ、教科書とかに載ってる、江戸時代のお茶を出すカラクリ人形。
次は矢でも放つだろうか、と誰かに操られているような動きで珈琲を運ぶあまりを眺めていた。
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