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もう終わりです……
またのご来店をお待ちしております
しおりを挟む配置についてしばらくしたところで、あの男がテラス席にやってきた。
すぐに逃げられるようにああいうところに座るのが癖なのかな? とあまりは思う。
成田が、
「僕が行くよ」
と言って、水を持って行った。
さすが、いつも通りの笑顔で対応していた。
やっぱり、肝が据わってるなと自分も通常通りに仕事をしながら、あまりは、それを眺めていた。
男はメニューを見ながら、時折、遠くを見て、なにか考えている風だ。
男が見ているのは、海里の会社の方だった。
だが、あるひとりの店員に目をとめた男は、立ち上がる。
そのまま、近くの店員になにか言い、帰ろうとする。
なんで? という顔を服部たちはしていた。
すぐに確保に動こうとしたようだが、男が、ちょうどテラス席のテーブルを拭いていたあまりの前を通ったので、あまりは手を止め、訊いてみた。
「お客様、どうかされましたか?」
すると、男は足を止め、あまりを見下ろす。
額には、なにやらめでたい感じがするホクロがあった。
「いや、刑事が居るようなので」
はっきり男はそう言った。
自分の罪を認めるようなことを言う男に驚いたが、顔には出さなかった。
「此処で捕まるのは嫌かなと思って」
とカフェを見ながら男は言う。
「なんでわかったんですか?」
そうあまりは訊いた。
既に、服部たちが包囲していて、一般の客は店から出されつつあった。
逃げられないとわかっているので、男もあまりも逆にゆったり話ができた。
「あのウェイター、刑事だろう」
と男はこちらを見ている男の店員を指差す。
「そうですけど」
と言うと、
「いや、この間から警察に目をつけられてるのはわかっていたんだが」
と男は言う。
「此処の店員は、みんなおっとりしているというか。
感じがいいからな。
あんな目つきの鋭い店員は此処の店長は雇わないと思ったんだ」
「さすがですね」
というあまりに、心配でか、いつの間にか側に来ていた海里が、
「なに感心してんだ」
と言う。
特に海里も男を捕まえる気はないせいか。
海里が来ても、男は逃げなかった。
「警察に目をつけられてるのがわかっていて、なんで、まだ此処に来てたんです?」
と言うと、
「いや、そろそろ潮時かな、とちょっと思っていたのと。
此処が――
気に入っていたから」
と男は言う。
「ほんとはそこの近くの新しいビルを狙ってたんだが。
ほら、あんたの会社だよ」
と海里を指差し言った。
「此処の店員が中で出張販売してたからやらなかったんだ。
このカフェに来られなくなると嫌だから」
目も合ったし、と言う。
「あんた」
と男は成田を振り返った。
「あんた凄いな。
いつも絶妙のタイミングで動くんだよな。
あんたの動き見てると、盗みの参考にもなる」
「……お褒めいただき、ありがとうと言うべきなのかな?」
と成田は苦笑いしていた。
男はガラス張りの店内を見ながら言う。
「いつか店の中でゆっくり珈琲飲んでみたかったんだよ」
と。
やはり男はいつでも逃げられるようにテラス席に座ってたようだった。
暑くとも寒くとも。
「此処に来たら、なんだか、ぼうっとしてさ。
このままぼんやりしてたいなといつも思ってた。
少なくてもいいから、ちゃんと稼いで、まっとうな金で、休みの日には、珈琲一杯で、店に居座って」
いや、それはご遠慮ください、と思っていると、
「ほれ」
と男はちょうど側に居た服部の前に手を突き出す。
言動を見ていて、誰が刑事かはわかるようだった。
素直に手を出されて、ええっ? と服部は引き気味になる。
「馬鹿っ。
逮捕だ、逮捕っ」
と後ろで声がしていた。
「あ、では、失礼して」
と何故か、服部は、改まりながら、そっと手錠をかけていた。
そのまま連れられていく男にあまりは、
「出所されたら、ぜひ、また来てください」
と言った。
「ああ。
まあ、あんたも頑張って。
最初に見たときよりは、ずいぶんマシな店員になってるよ」
と振り返り言う男に、
「ありがとうございますっ。
美味しさで固まるカフェ ゴルゴン。
またのご来店をお待ちしておりますっ」
と頭を下げた。
海里は横で笑いながらも、
「……待て。
お前、いつまで此処に勤めるつもりだ」
と呟いていたが――。
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