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あなたのことだけわかりません
電話は二番
しおりを挟む「お前たち、なにをしている」
いきなり現れ、小声で厳しく問いただす行正に、ひっ、とルイスは固まった。
さすが軍人さん、迫力あるな、と咲子は苦笑いする。
一方、文子は、そんなに怯えてもいなかった。
「行正さんっ、お願いしますっ。
止めないでくださいっ」
ルイスに、うるうると子犬のようなで見られ、行正は、うっ、とつまる。
ルイスの手は、文子の腕をしっかり握っているが、文子はちょっとぼんやりしているようにも見えた。
ルイスは切々と行正に訴える。
「手助けしてくれとは言いません。
見逃してください」
なんだかんだで人のいい行正は、ルイスが可哀想になってきたらしく、
「……わかった」
と頷いた。
「なにか困ったことがあったら、うちに連絡を」
と行正は家の電話番号をルイスに告げていた。
電話番号と言っても、のちのCMで、『電話は二番』と歌われていたように。
この頃の電話番号はとても短かったので、口頭でも簡単に伝えられ、相手も覚えられた。
「わかりました。
ありがとうございます」
とルイスは頷く。
「行きましょう、文子さんっ」
「えっ?
あ、はい、そうですね、先生」
ふたりは咲子と行正に礼を言い、そっと庭を出て行った。
「駆け落ちか……。
まあ、考えてみれば、それも浪漫だな」
浪漫とか言うのですね、あなたでも……、
と思う咲子は知らなかった。
行正の妄想の中では、逃げていく若い二人の姿が、手に手をとって駆け落ちしていく自分と咲子、にすり替わっていたことを。
いや、まったく逃げる必要などない二人なのだが――。
庭で歓声が上がったと思ったら、さっきのシェフが外に出ていて、今度は外で炎のデザートを作っていた。
「……こういうパーティって、一度はじまったら、主役の一人や二人、いなくなっててもわからないものなんですね」
「食べに行くか、クレープ」
そうですね、と笑い、咲子たちは炎が上がっているワゴンの方に向かい、歩いていった。
「私も炎の中で、クレープ焼いてみたいです」
と咲子が言い、
「……なんかクレープじゃなくて、お前が炎の中で焼かれながら、クレープ作っている感じだな」
と行正がボソリと呟いた次の日の夕食どき、ルイスから電話がかかってきた。
二人は町の小さな教会にいると言う。
急いで行ってみた。
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