2 / 125
ささやかなるお見合い
話が弾む予感がしませんっ
しおりを挟む見合いの日、緊張のあまり、万千湖は夜、書くであろう日記を頭の中で書いていた。
だが、それは『ごめんなさい』で途切れる。
現れた相手の顔を見た衝撃に。
万千湖の見合い相手として現れたのは、雁夜やこの部長のいる人事部とは、反対側にある経理部の課長。
小鳥遊駿佑だった。
「いやあ~、美男美女でお似合いだねえ」
なんとか見合い相手が見つかって、部長はご満悦だったが、万千湖は困っていた。
確かに、鼻筋がすっと通ってて、メガネの似合う、すごいイケメンで。
すごく仕事もできるらしいんですけどっ。
この人、死ぬほど愛想が悪いので有名な人ではっ!?
万千湖は俯いたまま固まり、困ったこの気持ちをぶつけるために、また頭の中で日記を書こうとしていた。
「あっ、じゃあ、ここからは二人だけの方がいいよね。
白雪くんは転職してきたばかりで社内のこともよく知らないから、教えてあげてね。
仕事の話から入った方が話も弾むだろうし」
……弾む予感がしません。
この人の目つきを見ていると。
鋭く整った目からは、侮蔑と蔑みしか感じません、と思いながら、万千湖は固まる。
「じゃあ、小鳥遊くん、よろしくね~」
と人の良い部長はせかせかと出て行った。
ぱたん……と扉が閉まってしまう。
レストランの個室に、腕組みしてこちらを見下ろす、話したこともない隣の課長と二人きり。
フリーズする万千湖に、溜息をつき、駿佑は言った。
「お前、別にこの見合い話、進めたいわけじゃないんだろう。
俺もだ。
だが、せっかく紹介してくれた部長の顔を潰すわけにもいかない」
おや? 意外と義理堅い。
整いすぎた顔で喜怒哀楽が感じられないから、勝手に情が薄いのかと思ってましたよ、と万千湖は駿佑を見つめる。
だが、相変わらず、無表情だった。
「部長は家に帰ったから、社に戻っても気づかれないだろう。
俺はもう帰る」
と駿佑は立ち上がる。
「お、お忙しいところ、申し訳ございませんでしたっ」
頭を下げた万千湖に、
「何故、お前が謝る。
お前も部長の人の良さに振り回されただけだろう」
と意外にも、やさしい言葉をかけてきた。
だが、やはり、無表情だ……。
「じゃあ、また連絡する」
出て行こうとした駿佑はワゴンを押してやってきた給仕の人に気づき、
「ああ、俺の分も食べていいぞ」
と言う。
いや、どうやって連絡するんだ……。
そして、ふたつは食べられません、と万千湖は笑顔で給仕の人が運んできたワゴンの上を見る。
「女の子はこういうの好きだろう。
うちの娘も好きでね」
と部長が頼んでくれた豪華アタヌーンティーセット、二人分。
駿佑はトイレにでも行ったと思っているのか、給仕の人は普通にセッティングして笑顔で去っていった。
ぽつん、と個室にひとり残された万千湖は、
どうするかな、これ……とテーブルいっぱいにある二つの大きなアフタヌーンティーセットを見つめる。
とりあえず、写真撮るか。
そして、この間買った簡単にスマホの写真がプリントできるやつでプリントして、日記に貼ろう。
万千湖は誰もいなくなったのをいいことに、フォーマル寄りの淡いピンクのワンピース姿のまま、片膝をついて下から撮ったり、部屋の隅に行って、美しい庭園を背景に撮ったり。
秋らしいチョコレート細工ののったマロンケーキや、栗のカヌレ。
抹茶スコーンや秋鮭とアボガドのクロワッサンサンドを激写した。
9
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】
里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる