OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなるお見合い

土曜暇?

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「ねえ、あんた、土曜暇?」

 次の日、万千湖が仕事をしていると、真横にいきなり、増本瑠美ましもと るみが立った。

「みんな都合がつかないんだけど、あんた、暇?」

「……ものすごいわかりやすい理由で誘ってきますね」
と万千湖はキーボードを打つ手を止め、振り返る。

 土曜は……と万千湖は頭の中でスケジュール帳をめくってみる。

 スケジュール帳は、ほぼ真っ白。

 会社へ行く時間以外のすべての時間が自由時間だ。

 万千湖はにんまり笑って言った。

「暇です」

「そう。
 よかったわ。

 ランチ、付き合ってよ。
 ちょっと行きたいところがあるの」

 おごってあげるわ、と瑠美は言ってくれる。

「いえ、いいですよ」

「先輩がおごってあげるって言ってるのよ。
 おごられなさい。

 いつか出世払いで返してくれればいいから」

 万千湖は少し考え、
「……出世払い。
 私、いつ、出世するんでしょう?」
と呟く。

「いや、知らないわよ……」

「私にとって、どの状態が出世なんでしょう?」

 地道に事務員をして暮らす予定なのだが……と思って訊いてみた。

 すると、瑠美は、うーん、と首をひねり、
「……じゃあ。
 宝くじでも当たったらおごって」
と言いかえてくる。

「わかりました。
 では、ランチの帰りに宝くじを買いに寄ってもいいですか?」

「……いや、すぐ当ててくれなくていいわよ。
 おごったことにならないから。

 土曜、迎えに行くわ。
 家はどこ?」

「あ、地図描きますね」
と万千湖はペンを手にとった。

 近くに目印となる大きなショッピングモールがあるので、描きやすい。

 だが、描きかけて気がついた。

「あ、でも、おごっていただくうえに、迎えにまで来てもらうとか。
 申し訳ないですね。

 私がお迎えにあがりましょうか」

「いいわよ。
 私の都合で誘ったんだから。

 っていうか、あんた、車持ってんの?」

 いつも徒歩じゃない? と訊かれる。

 そういや、車なかったな、と思った万千湖は、
「じゃあ、土曜までに買ってきますよ」
と言った。

「なにを?」
「車を」

「……なに大根買うみたいに買おうとしてんのよ」

「たまに六万とかで売ってますよね?」

「そういうのは、すぐに車検が切れたりするのよっ。
 いいから、家でいい子にして待ってなさいっ」

 万千湖の連絡先を訊いて、瑠美は去っていった。

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