OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなるお見合い

約束のシール

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 家に帰った万千湖はスケジュール帳を広げてみる。

 よしよし、ランチのシールを貼ろう。

 ぺたりとランチと貼った横に、もう一枚シールが貼ってあった。

 「約束」のシールだ。

 日曜日に貼ってある。

 駿佑と出かける約束をしたのだ。

「……そこはデートじゃないのか?」
と駿佑が突っ込んできそうだったが。

 いやいや、デートの打ち合わせだしな、と思いながら、万千湖は今度は日記にとりかかった。

『増本さんに土曜日、ランチに誘われました。
 帰りに宝くじを買って帰りたいです』

 そのとき、駿佑からショートメールが入ってきた。

『寿司はどうだ?』

 日曜の話のようだ。

『いいですな』

 ペンを手にまた書きかけたとき、駿佑から入ってきた。

『回転してなくていいか?』

 回転してていいかは、よく聞くけど。
 回転してなくていいかって、初めてだな。

『できれば、回転してください』

 回転していない寿司屋には怖い大将がいるイメージだったので、つい、そう返信していた。

 回転寿司の方がデザートもいろいろ変わったのがあるしな、と思ったときにはもう返信が来ていた。

『そうか。
 わかった。

 回転しないのなら、予約しようかと思ってたんだが』

 課長にしては長い返信だな、と思いながら、万千湖は、

『回転も予約してたら早いですよ。
 予約しましょうか』

『頼んだ』

 時間など確認したが、ぽんぽんと返事が返り、すぐに話は終わった。

 回転寿司の店のアプリから予約し、さて、と日記を書こうとしたのだが、ふと、気になった。

 駿佑からの返信は一秒と待たずに入ってきていたのだが。

 一度だけ、すぐに返信がなかったな、と。

 万千湖はメッセージをスクロールさせてみた。
 下からさかのぼって読む。

『できれば、回転してください』

『回転してなくていいか?』

『いいですな』

『寿司はどうだ?』

 万千湖の手が止まった。

『寿司はどうだ?』
『いいですな』!?

『いいですね』と打ったつもりだったのにっ。

 課長に『いいですな』はないだろう、と思ったが、今更、消せない。

 ぐはーっ、と万千湖はスマホを手に悶え苦しむ。

 よく突っ込まなかったな、課長。
 たぶん、突っ込むと返信が長くなるから突っ込まなかったんだろうな。

 大失敗だ~と倒れ込んでいた万千湖だったが。

 ムクリと起き上がり、ペンをとった。

『課長にお寿司屋さんに誘われました。

 課長への返信なのに「そうですな」と打ってしまいました。
 偉そうですみません』

 万千湖は、
「いや、日記じゃなくて、俺に謝れ~っ」
と駿佑に怒鳴られそうなことを黙々と書き綴った。


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