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ささやかなるお見合い
デートの打ち合わせ
しおりを挟むこいつはどういう意味で言ってるんだろう。
俺としかデートしないとか。
……たぶん、なんにも深い意味はないんだろうな。
駿佑はそんなことを考えながら、思う存分、サビ抜きの海老を食べたらしい万千湖とレジに向かった。
払うという万千湖を押し除け、会計を済ませたとき、レジに来ようとしていた若い男、結構イケメン、がこちらを見て息を呑んだ。
「まち……」
と万千湖に声をかけようとする。
万千湖が、ひっ、という顔をし、駄目ですっ、というように素早く手を振った。
男は黙る。
横にいた彼女らしき女が万千湖を、なに? この女、という目で見ている。
男はちょっと困った顔をしたあとで、彼女に耳打ちした。
「嘘っ。
ほんとにっ?」
女の目から急に万千湖に対する敵意が消えた。
だが、万千湖は今度は彼女に向かい、素早く手を振っている。
「ちょ、ちょっとお待ちください」
と万千湖はこちらに断り、彼らの許に急いで行った。
何故か二人と握手をして戻ってくる。
握手……。
なんだろう? 和解?
駿佑の頭の中では未開の土地の人たちが出会い、槍を手に片手を上げ、挨拶したあとで握手をしていた。
女の方はまだ万千湖に手を振っていて、男の方が苦笑いして止めている。
「……知り合いか?」
「そうみたいです」
そうみたいです?
万千湖は店を出るとき、ぺこり、と彼らに向かい、頭を下げた。
「やだ、かわいーっ」
と叫んだのは女の方だった。
……最初睨んでなかったか? と思いながら、そちらを気にする自分の腕をつかみ、万千湖は急ぎ足で店を出て行った。
回転寿司の店から、万千湖は振り返らずに、せかせかと出て行った。
駐車場で駿佑を振り向き、
「では、お世話になりました。
本日はどうもありがとうございました」
と頭を下げる。
「待て」
と言われた。
「ありがとうございましたって、何処へ行く」
「えっ? 帰ろうかと……」
「何故、帰る」
「はあ。
お寿司の約束をしただけなので、もう解散かと……。
あっ、そうだ。
またおごってもらってしまったので、デートの際は、ぜひ、私におごらせてください」
と言ったあとで、万千湖は気づき、また、あっ、と言う。
「すみません。
そうだ。
デートの打ち合わせするの忘れてました。
打ち合わせたの、コタツに蛇口を取り付けたら、なにに使うかだけでしたね」
ははは、と笑って、駿佑に、それは打ち合わせる必要があるのか、という顔をされる。
そのとき、あのカップルが店から出てくる気配がした。
いや、気配というか、入り口のガラス越しに姿が見えた気がした。
万千湖は、ヤバイ、と慌て、
「課長っ。
デートについて、カフェででも打ち合わせましょうっ」
と駿佑を引きずって、つい癖でバス停に行きかける。
「待て、車に乗れ」
と言う駿佑に車まで連れて行かれた。
手入れの行き届いた落ち着いたセダン。
イメージ通りの車だ。
万千湖は急いで車に乗り込むと、辺りを窺いながら叫ぶ。
「出してくださいっ」
その落ち着きのない様子を見た駿佑が、
「……タクシーに乗って、あの車を追ってくださいとか言う人みたいだな」
と言う。
いや、どちらかと言うと、あの車から逃げてください、なのだが。
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