OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる弁当

万千湖はフリーズした

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 みんなとお弁当を食べ終わったあと、万千湖は軽くお弁当箱を洗っておこうかな、と思った。

 瑠美も誘おうかと思ったのだが、化粧を直しに行くと言って、すでに消えてしまっていた。

 るるるるる~と鼻歌歌いながら給湯室でお弁当箱を洗っていたが、ふいに背後に人の気配を感じた。

「お疲れ様です。
 すみません。すぐすみます」
と相手が誰かも確認せずに詫びながら振り向く。

 背後には、何故か、赤いマイコップを手に目を閉じている雁夜がいた。

 なにしてるんですか、課長、と思い、見つめていると、ようやく目を開けた雁夜が、
「ああ、お疲れ」
と言う。

 雁夜の目は万千湖のカラのお弁当箱を見ていた。

 その視線を追った万千湖は、
「……すみません。
 今日はもう食べてしまいました」
となんとなく謝る。

 いやいやいや、と雁夜は笑って言った。

「単に、ちゃんとすぐ洗ったりするんだ~と思って見てただけ」

 いや、私、どんなイメージなんですか……。

 雁夜に場所を譲ると、雁夜はマイコップで乳酸菌のサプリを飲んでいた。

「あ、洗いましょうか? ついでに」
と訊いてみたのだが。

 いや、いいよ、と言われる。

 万千湖が綺麗なハンカチで拭いたお弁当箱をランチバッグにしまっていると、
「やっぱり歌、好きなんだね」
とコップを洗いながら、雁夜が言ってきた。

 ……え、やっぱり?

 その言い方に、なにか特別な意味があるように思え、万千湖は訊いてみた。

「……あの~、課長は人事の方ですよね?」

 万千湖の意図を察したように雁夜は言う。

「うん。
 でも人事だから知ってるんじゃないよ。

 僕、君の地元の大学に通ってたんだよね」

 万千湖はフリーズした。

「とっても海の綺麗なとこだよね」

 万千湖はフリーズしている。

 カップを洗い終わった雁夜は、
「あ」
と声を上げる。

 身構えた万千湖だったが、雁夜は、その辺の女子社員がみな、なぎ倒されそうな破壊力の笑顔を考えもなしに浮かべ、

「ありがとう。
 この間のお弁当、ほんとうにおいしかったよ」

 そう言って、そのまま行ってしまった。



 ……知っていたのが雁夜課長でよかったような。

 でも、超天然そうだから、
「あ」
とかって、つるっとしゃべっちゃいそうだな~と思いながら、万千湖はひとり、100均に行く。

 所狭しと並ぶ可愛いグッズや便利グッズに癒される。

 季節のものもたくさんあるしな~。

 あの七福神様も棚にたくさん並んでいた。

 七つあるな。

 7×7のいいことがこの店に起こるに違いない。

 自分もあやかろうと、思わず、商品を拝みそうになってしまった。


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