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ささやかなる弁当
ペンギンって宇宙人らしいですよ
しおりを挟む日曜日、車に乗った途端、
「ペンギンって宇宙人らしいですよ」
とか言う、とんでも説を語りはじめる万千湖の話を聞きながら、駿佑は言った。
「宇宙人かどうかは知らないが。
ときどき、背後から見つめられてる気配がして、どきっとするな」
「え?」
「夜とか、隣の車線を確認しようとして、左を向くと、無言でこちらを見ているシラユキから圧を感じて、どきりとすることがある。
……名前が悪かったかな」
と呟いて、
「なんでですか……」
と言われた。
ラジオの放送は二時。
レストランの前で聞こうといったが、お腹が空いて待てそうにはない。
「なにか買って食べながら聞きますか?」
ともう何故、レストランの前にいるのかわからない状態になりながら、ハンバーカーショップに向かった。
すると、注文している途中で、奥のフライヤーの前にいた若い男の店員が万千湖を見て、あっ、という顔をする。
「白雪っ」
駿佑は息をつめ、二人を見つめた。
この間と違い、今、注文途中の万千湖は逃げられない。
なんだかんだで怪しい万千湖の正体が、いよいよ明らかにっ?
すると、男は万千湖を指差し、言った。
「小学校のとき、校長先生が話し出すと、必ず三回くしゃみしてた白雪だろっ?」
「あ~、今泉くんっ。
転校してったんだよね、途中で。
この辺に引っ越してたのか~。
懐かしいね~」
と二人は、なごやかに話しはじめた。
白雪の正体は、『校長先生が話し出すと、必ず三回くしゃみする女』。
いや、俺が知りたかったのは、それじゃない、と思いながら、
「彼氏?」
「いや、課長」
「休日出勤で買い出しか?
お疲れ」
という、何故かちょっと胸が痛む会話を聞きながら、愛想の良い万千湖の幼なじみと別れ、店を出た。
彼氏、ではないな、と思いながら、万千湖は車に向かっていた。
休日出勤の買い出しでもないが。
……見合い相手?
と訊いてくれたら、うん、と言ったのだが。
久しぶりに会った友だちに微妙に嘘ついたみたいになっちゃったよ、と万千湖は渋い顔をする。
横では、何故か、駿佑も渋い顔をしていた。
車を港にとめ、レストランを背に、二人でハンバーガーを食べた。
「レストランを眺めなくていいのか」
と言われたが。
いや、レストランを見ながら食べましょうと言ったのは。
単に、外れてもおいしいものを食べられると思いながら、希望を持ってラジオを聞きましょう、という意味で、ほんとうに眺めようという意味ではなかったのだが……。
課長、四角四面な感じに見えて、意外に発想が不思議な人だ、と思いながら、アップルパイを楽しみに、まず、野菜たっぷりのハンバーガーにかじりつく。
駿佑が早めにラジオをつけた。
「何処でやるんだったかな」
と言いながら、いろいろ局を変えていると、英語講座みたいなのが流れてきた。
それを聞きながら、万千湖は言う。
「英語習い始めたばかりの頃、問題集とか見て、思ってませんでした?
『私はダンサーですか?』とか。
『私は名古屋出身ですか?』とか。
……この人、記憶喪失なのかなって」
「英語の最初の方、いつもそんな感じだろ」
車内中にハンバーガーやポテトやアップルパイの匂いが充満していた。
幸せの香りではあるが、食べ終わる前に満腹になりそうな匂いだったので、二人とも、少し窓を開けてみた。
海の風が吹き込んでくる。
行き交う船や対岸の工場を見ながら、万千湖は言った。
「此処、夜景が綺麗らしいですね」
駿佑は一瞬、黙ったあとで、
「……そうか」
と言う。
やがて抽選のある番組がはじまった。
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