OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる弁当

抽選のその前に……

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 軽快なトークを聞きながら、食べ終わった万千湖は、駿佑に訊いてみた。

「抽選って、何次まであるんでしたっけ?
 今回、何人残れるんですか?」

「一人だ。
 これで終わりだ」

 テレビではないので、画面を見てもなにもないのだが、ナビの画面を見つめながら、駿佑はラジオを聴いていた。

「まあ、当たらないでしょうけど。
 なんだかドキドキして楽しかったです」

 ふふふ、と万千湖は笑ったが、その笑いが止まった。

「では、ここらで一曲、リクエスト曲いっときましょうか」

 県名とペンネームを読み上げられたときは、まだ笑っていたのだが。

「『太陽と海』で『マイスター』」

 ひっ、と万千湖は息を呑む。

「『サヤカ、マチカ、サチカ、ユカ、トモカ、解散してもずっと大好きだよ』」

 そんなありがたいメッセージが読み上げられる。

「『太陽と海』解散しちゃったんですよね~。

 他県のご当地アイドルだけど、全国的にもかなり有名で、僕も好きだったんだけどな~」

「私、インタビューしたことありますよ。
 サヤカさんがしっかり者でグイグイ引っ張ってく感じで、マチカちゃんがすっとぼけてて面白かったです」

「え?
 会ったことあるの? いいなあ。

 解散する前に一度、番組に来てもらえばよかった」

「すごいですよね~。
 最初は商店街のイベントで作ったグループで。
 サヤカ、マチカ、サチカしかいなかったらしいですよ。

 地元のアイドルグループを作ろうって商店街で募集したけど、五人しか応募なくて、三人合格だったとか」

「むしろ、残り二人、なんで落ちたの……」

 幼児とおじさんだったからですよ、と万千湖は思う。

「マチカちゃんとか、当日、親戚のおじさんの店の手伝いに来てて。

 人数足らないからって、いきなり舞台に祭りの法被はっぴ着たまま、上がらされたとか」

 ちょっと消したい記憶ですね。

「へえー、そんな感じにはじまったのに、いいメンバー集まってたよね。
 みんな可愛かったし、歌も上手くて。

 じゃ、半年前、惜しまれながら解散しちゃった『太陽と海』で、『マイスター』」

 車内にマチカこと、万千湖たちの歌声が響き渡ったが。

 まあ……歌ってる声と普段の声、違うからわかるまい、と思い、元ご当地アイドル『太陽と海』のマチカはカップに残っていたアイスティーを啜った。


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