OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ

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ささやかなる弁当

これは二度目のデートだろうか

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 これは二度目のデートだろうか。

 いや、これは家を買うための打ち合わせだから、デートじゃないな。

 駿佑は休憩しに立ち寄った自動販売機の前で、万千湖から返ってきた、相変わらずの男らしい返信を眺める。

「暇です」

「はい」

「はい。
 ありがとうございます」

 ……感情が読めない返答だ。

 前はそこまで気にならなかったのだが、最近は何故か、すごく気になる。

 実は俺に誘われるのが嫌なのか白雪。

 断わってはこないが。

 実はただ、アイドルだったときの癖で、反射的に、
「はいっ、ありがとうございますっ」
と言っているだけなのかっ?

「いや、いつもそう言ってたわけではないですよ~。
 っていうか、アイドルだったときも、反射で適当に言ってたわけではないですよ~」
と万千湖が困って言いそうなことを駿佑は延々と考えていた。



「そろそろ出る」

 万千湖にそう連絡したあと、駿佑は経理を出た。

 エレベーターに行く途中、倉庫の扉が空いているのに気づく。

 チラと見ると、雁夜が中でなにかを探していた。

「お疲れ。
 手伝おうか」

 彼の足許に下ろされている幾つものダンボールを見ながら駿佑はそう訊いた。

 雁夜はいつもの穏やかな笑顔で振り向くと、
「いやいや、大丈夫だよ」
と言いながら、首からさげている細長いスポーツタオルのようなもので額の汗を拭いた。

「そうか?」

「たぶん、この箱だと思うから。
 お疲れさま、また明日」
と雁夜は微笑む。

 相変わらず、爽やかでいい奴だ、雁夜。
 俺とは正反対だ、と思いながら、駿佑はひとりエレベーターに乗り込んだ。

 だが、何故か何度も頭にタオルで額をぬぐいながら微笑んでいた雁夜の顔が浮かぶ。

 なんでだ。
 あいつの笑顔が何度も浮かぶとか、女子か、と思ったのだが。

 そのシーンになにか気になることがあるのに気がついた。

「いやいや、大丈夫だよ」
と言いながら、首からさげている細長いスポーツタオルのようなタオルで額の汗をぬぐう雁夜。

 グレーのタオルにはブルーの文字が入っていた。

 タオルをつかむ雁夜の左手の辺りに「M」の字が。

 左の首の辺りに「C」の字が。

 右の首の下、垂れ下がっていたところには「KA」の字が。

 まさかっ、と駿佑は顔を上げたが、もうエレベーターの中だったので、確かめようもない。

 MACHIKA!?

 まさかっ、マチカのオフィシャルグッズのタオル!?

 友だちが別のメンバーのファンなだけとか言ってなかったかっ?
と思いながら、駿佑は万千湖のマンションの下まで行き、電話をかけた。

 だが、万千湖は、
「あっ、すみませんっ。
 あのあとすぐ友だちから電話かかってきて、支度できなくてっ」
と慌てて言ってくる。

 一度帰ったので、着替えてゴロゴロしていたようだ。

「そうだっ。
 ちょっと上がってお茶でもいかがですかっ?」

 え、上がってお茶でもと言ったか? 今っ?

「あっ、そういえば、近くにおいしいお弁当屋さんがあるらしいんですよ。
 買ってきてうちで食べませんかっ?」

 遅れて申し訳ないと思う万千湖は深く考えずに、そんなことを言っているのだろうか?

 ま、まあ、二世帯とは言え、そのうち、同じ家に住むかもしれないわけだから、緊張するのも変だよな、と自分に言い聞かせながら、駿佑は万千湖に聞いた番号の場所に車を止め、入り口を開けてもらってマンション内に入る。

 金があるとかないとか言ってるわりに、セキュリティのしっかりした、いいマンションに入っているのは、やはり、元アイドルだからかな。

 まあ、今まで会った万千湖のファンはみんな礼儀正しい感じだったが、と思いながら。

 駿佑は、やっぱり、ちょっぴり緊張して、エレベーターに乗った。


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