69 / 125
ささやかなる弁当
そもそも、なんのマイスターなんだ
しおりを挟む「そもそも、デビュー曲の『マイスター』は一体、なんのマイスターについて歌ってる曲なんだ。
いまいち伝わってこなかったが」
「あ、あれは、マイスターとマイ・スターをかけてるんだとお茶屋のシゲさんが……」
「お茶屋のおじさんが歌詞書いてんのかっ」
すごいじゃないかっなどと駿佑と話している間に、呑んで騒いで疲れたらしい綿貫は寝ていた。
雁夜が駿佑に言う。
「もう終わりだよ。
最後に歌いなよ、駿佑。
嫌なら無理にとは言わないけど。
せっかく来たんだからさ」
ちょっと迷ったようだったが、うむ、と駿佑は立ち上がる。
「みんなに歌を聴かせてもらったのに、自分だけ歌わないのもな」
曲がなかったら、アカペラでいいかと訊いてくる。
「待って、探そう」
と雁夜がスマホを手に言う。
駿佑と雁夜はスマホを見ながら、話していた。
「ああ、あった。
あるんだね、こういうのも」
と雁夜が言い、
画面に『ベートーヴェン交響曲第9番第4楽章 歓喜の歌』の文字が現れる。
「何故……」
と呟く万千湖に、
「昔、声楽をやっている友人にマンツーマンで習った」
と駿佑が言う。
「社会に出たら、一発芸を要求されるときもあるだろうと思って」
あなたの思い描く社会とはどんなのですか。
っていうか、あなたには、すでにいろいろと芸がありますが。
もしや、あのマラカスや打楽器の芸も社会に出て必要だと誰かから学んだものなのですか。
いや、みんながその正確さに、集中してあなたを見てしまうので、それでカラオケが盛り上がるかは謎なのですが、
とか思っているうちに、駿佑が歌い出す。
カラオケルーム内がビリビリ震えるくらい響く声だ。
その荘厳さに、今、自分たちが何処にいるのか見失う。
マラカスを抱いて寝ていた綿貫が駿佑の声量に驚き、飛び起きてきた。
「なにっ?
年末っ?
年越しっ?」
と綿貫が叫ぶ中、なにかありがたい気持ちになって、カラオケ大会は終了した。
「いい点数でしたね、課長。
やはり、私の歌はなにか間違っているのかもしれません」
駐車場に向かって歩きながら、万千湖は言った。
「なにを言うマチカ……
違った、白雪」
あなたまで雁夜課長に引きずられないでください、と思ったが。
実は、さっきカラオケのとき流れていた映像のせいだった。
呑んでいない雁夜が瑠美と綿貫を、駿佑が万千湖を送っていってくれることになった。
車に乗った途端、駿佑が言ってくる。
「そうだ。
お前を親に紹介したいんだが」
えっ? と万千湖は驚いたが、駿佑はあくまで事務的だった。
「お前と家を買う話、一応親に言ったら、一度、お前と会ってみたいと言い出したんだ。
同じマンションかアパートに住むモノ同士っていうのと変わらないポジションなのにな」
どうする? お前が嫌なら断るが、と駿佑は言う。
「でもまあ、900万円ずつ出すわけですから、親御さんが不安になるのもわかります。
じゃあ、私、課長のご家族のところに、ご挨拶に伺いますよ。
特に予定はないので、いつでも合わせられま……
あっ」
と万千湖は声を上げて言い直す。
「来月の第一日曜以外は暇です」
「……まだイケメン探しに行く気なのか、増本は」
19
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】
里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
昨日、あなたに恋をした
菱沼あゆ
恋愛
高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。
久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。
私、今日も明日も、あさっても、
きっとお仕事がんばります~っ。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる