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ささやかなる弁当
うっかり可愛いとか思ってはいけない
しおりを挟むマチカか。
タレに漬け込んであった焼肉が焦げる香ばしい香りを嗅ぎながら、駿佑は、さっきの船田を思い出してた。
「マチカちゃんが僕らに呪いをかけてくれたからです。
最後、『みんな幸せになってね』って、マチカちゃん、言ったじゃないですか」
なにが呪いだ。
そんなに熱くなるほどのアイドルだろうか。
中身はこの、
「やっぱり焼肉には白いお米ですよね。
甘辛いタレの焦げた肉一枚で、どんぶり一杯はいけますよね。
とりあえず、ご飯特盛でっ」
とか言ってる女なんだが……。
肉一枚でどんぶり一杯って。
五枚食ったら、どんぶり五杯か?
米で腹一杯になりそうだが、と思って眺めていたが、万千湖はなるほど、肉一枚で米をぐいぐい行っている。
「歩いてくればよかったですね」
「ん?」
「そしたら、課長呑めたのに。
焼肉には、やっぱりよく冷えたビールですよね」
お前、今、焼肉には米って言ったぞ、と思いながら、駿佑は、
「お前呑めよ」
と言ったが、万千湖は、いえいえ、と遠慮する。
「この店、美味しいですね。
家の近くにあったらいいのに。
そしたら、歩いて呑みにこられま……」
そこまで言いかけ、万千湖は気づく。
「引っ越すんでしたね、我々。
山の中に」
あのモデルハウスを駿佑が祖父から譲り受けた山の土地に建てる予定だからだ。
「まあ、街からそんなに離れてはいないが。
今までのような訳にはいかないだろうな」
二人は焼ける肉を見つめる。
田舎暮らしもいいが、やはり、そういうところは不便だ。
「……タクシーで呑みに行けばいいですよね。
帰るの同じ家だし」
そこまでして呑みたいのか、と思いながら、駿佑は、
「そうだな」
と万千湖に合わせて相槌を打つ。
「あ、庭で肉焼いてもいいですね~。
家だとすぐ寝れるし、いいかもですね」
万千湖はいろいろ想像してみたらしく、
「そう考えたら、同じ家で暮らすって楽しいですねっ」
と弾けるような笑顔で言ってきた。
……うっかり可愛いと思ってしまったが。
これはただ、家で思う存分、肉焼いて、米食って、酒が呑めると思って輝いてるだけの笑顔だぞ、と駿佑は自分に言い聞かす。
「あ、そうだ。
土地代も半分、お支払いしないとですよね」
「いや、いい。
あの辺、ダダ同然だから」
などと言いながら、なんだかんだで、美味しく肉を食べた。
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