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ささやかなる結婚
唐突な告白
しおりを挟む帰りの車で駿佑が訊いてきた。
「ほんとうに指輪、もうひとつ買わなくていいのか?」
「はい。
この指輪、課長と買いに行ったの、いい思い出なんで。
ずっとこれ、はめてたいです」
万千湖は可愛いハートがティアラに見える指輪を眺める。
夜の街の光に指輪の石が煌めいていた。
すると、信号は赤なのに前を向いたままの駿佑が言ってきた。
「だから、もう一個買ってやろうと言っている。
そしたら……その指輪を二人で買いに行った思い出も、お前の指に、はまるだろ?」
思い出のつまった指輪をひとつずつ。
何故か、付き合ってもないのに買ってもらった指輪と。
婚約指輪と。
結婚指輪と。
二人の歴史と思い出を重ねるように――。
「お前の指全部に、俺との思い出の詰まった指輪をはめたい」
「……じゃあ、やっぱり、アラブの王様になるしかないですね」
万千湖は駿佑に向かい、微笑んでみせた。
それに引かれたように、こちらを向いた駿佑と視線がぶつかる。
駿佑の顔が近づいた、と思ったとき、信号が青になった。
また駿佑は普通に運転をはじめる。
……えーと、今のは、と思う万千湖に駿佑が言った。
「結婚式まであと少しだな」
「そ、そうですね」
「夢のようだな」
棒読みなんですけど。
なにがどのように夢のようなのですか。
悪夢ですか……?
とネガティブになりかけながら万千湖は、こちらを見てはくれない駿佑の整った横顔を見る。
……いや、運転中なので見てなくて当たり前なのだが。
「結婚式までに、お前と一度も触れ合っていないというのは問題がある、とずっと思ってたんだが。
何故だか、なにもできなかった。
それどころか、お前を名前で呼ぶこともできない。
何故なのか、ずっと考えてたんだ」
駿佑はそのまま、黙って運転している。
なにを考えてたんですかっ。
どのように考えてたんですかっ。
私は、今、ここに座ってても大丈夫ですかっ。
緊張のあまり、万千湖の頭の中が暴走しかけたとき、駿佑が言った。
「……お前のことが好きすぎるからかな、と思ったんだ」
「え?」
「お前が可愛すぎるから、なにもできないのかな、と」
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いや、いいかどうかは知りませんが……。
回転寿司では、大将に遠慮せず選んで食べていいと思いますよ……。
「幸せになれとお前はお前のファンに言った。
俺はお前のファンじゃないと言ったが。
よく考えたら、寝る前、いつもお前の動画を見ている」
俺もお前のファンかもしれない、と駿佑は言う。
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