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ケダモノを買いました
呼び捨てでいいぞ
しおりを挟むお茶を飲んで、二人で片付け物をしたり、お風呂に入る順番をジャンケンで決めたりとかしている間は、なんだか合宿みたいで楽しかった。
……が。
「じゃあ、こっちの部屋は今、使ってないので、どうぞ」
と明日実は自分の部屋の隣の部屋のドアを開ける。
電気をつけると、貴継は鼻をひくつかせ、
「……男の匂いがするな」
と言ってきた。
「顕人おにいさまが使ってらした部屋ですから。
でも、いつも換気してるのに、よくわかりましたね」
と言うと、
「この部屋はすかん。
お前の部屋で寝る」
と言い出す。
「ええーっ。
もう、しょうがないですねー。
じゃあ、私がこっちで寝ますから。
あの……貴継さん、私の部屋で寝てください」
なんと呼ぼうか、迷って、結局、名前で呼んだ。
他に呼びようがなかったからだが、一瞬言いよどんだのを見てとり、貴継は笑う。
「……呼び捨てでいいぞ」
その口調が、ちょっと、やさしく聞こえて、なんとなく後ずさる。
強引に来られるより、要警戒な感じだ。
「っていうか、お前。
私がこっちで寝るとかなんだ。
一緒に寝るに決まってるだろ」
と明日実の肩に手を回し、連れていこうとする。
「待って待ってっ。
待ってくださいーっ」
とドアをつかみ、明日実は踏ん張ろうとしたが、内開きのドアだったので閉まってしまい、指を挟まれた。
「いたーっ!」
「……莫迦か、お前は」
指を胸に抱え、しゃがみ込んだ明日実の頭の上から容赦ない言葉が降りそそぐ。
「ちょっと考えれば、わかるだろ。
ドアなんだから」
そう言いながら、貴継は、しゃがんだままの明日実をひょいと抱える。
お姫様抱っことかではなく、クレーンゲームでぬいぐるみを取るように、両腕で挟んで、ひょいっと、という感じだった。
景品になった気分だ……。
そのまま、さっきのソファに運ばれ、ぽい、と投げ捨てられた。
明日実を見下ろし、貴継は問うてくる。
「救急箱は何処だ」
「あ……だ、大丈夫です。
赤くなって、ちょっと皮がすりむけてるだけなんで……」
と自分の指をもう一度確認し、
「よ、4本全部……」
と呟いた。
大丈夫かなー。
入社前研修が始まるのに、と思っていると、貴継は側に腰掛け、
「見せてみろ」
と言う。
おずおずと手を出すと、そっとその掌をつかんだあとで顔をしかめる。
「こういうの、なんて言うんだったかな、ほら」
と本気で考えるような顔をしたあとで、
「ああ、あれだ。
イタイノ イタイノ 飛ンデイケ」
と言い出した。
彼の口からそんな言葉が出てくるのが意外で、ちょっと笑いそうになってしまった。
と、同時に、誰でも知っているはずのそのセリフがすぐに出て来なかったことに驚いた。
その視線に気づいたように、貴継は言う。
「なんだ。
おかしいか。
昔、一度、家政婦がそう言っていたような……」
いや、親御さんはどうしましたか? と思ったのだが、突っ込まないでおいた。
貴継はまだ明日実の手を握っている。
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