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ケダモノを買いました
警察に通報しますよ
しおりを挟む「イタイノ イタイノ 飛ンデイケ、か」
そう呟き、貴継は、明日実の赤くなった指に唇を寄せてくる。
貴継の顔も近くなり、ひゃーっ、と明日実はおのれの手を彼から取り返した。
「かっ、家政婦さん、そんなことしてましたっ?」
「……いや」
と貴継は、にやりとあの不敵な笑みを見せる。
「家政婦が子供にそんなことしたら不気味だろ。
ところで、お前、今、顕人の使っていたベッドで寝ようとしてたな。
ふしだらな」
「いやあの、貴方と同じベッドで寝る方がふしだらだと思いますが」
「なにを言う。
お前は俺の婚約者だろ?」
彼の中では、いつの間にか、それが決定事項となっているらしい。
おかしいな。
ただタクシー乗り場で、レシートの読み間違いを指摘されただけの間柄だった気がするのだが。
「でも、おにいさまのベッドを使っただけで、ふしだらって。
そういえば、おにいさまの使ってらしたパジャマがあったからお貸ししようと思ってたんですが。
すると、貴方がそれを使うと、貴方もふしだらというわけですか」
「意味がわからんわ、莫迦者。
というか、あの男の荷物はないんじゃなかったのか」
「さっき、布団の確認してるとき見つけたんですよ。
クローゼットに残ってたんです」
と言ったのだが、貴継は、誰が借りるか、と言う。
「風呂上がりに全裸で歩いてやる」
「……警察に通報しますよ」
なんだかんだ揉めたあとで、じゃんけんの順番通りに風呂に入り、寝ることになった。
あー、疲れた。
先に風呂を使った明日実は、廊下を部屋へ向かいながら、全裸で歩いてやる、という貴継の脅しを思い出していたが。
まあ、あの人、しないだろうな、と思っていた。
なんだかんだで育ちが良さそうだから。
「おやすみなさい」
とまだ貴継の居ない、元顕人の部屋に向かい、一礼すると、自分の部屋に入る。
顕人にもらった指輪を机に置き、ベッドに入った。
目を閉じかけ、ちらとその指輪を見る。
……落ち込む暇もなかったな。
おにいさまを男の方として、本気で好きだったとかじゃないかもしれないけど。
でも、もし、いつか私が誰かと結婚するのなら、おにいさまのような方とって、ずっと思っていたのに……。
結婚というものをイメージするとき、いつも浮かんでいた相手が居なくなるだけ。
それだけのことだ、きっと。
そう思いながら、明日実は眠りに落ちた。
「おい、明日実」
まさか本当に全裸で歩くわけにもいかないので、貴継は不本意ながらも、顕人のパジャマを着ていた。
「明日実」
と明日実の部屋をノックしたが返事はない。
俺の部屋に三つ指ついて待ってるような女じゃないしな。
寝てんだろうな、と思いながら、ドアを開けると、案の定、明日実は寝ていた。
しかも、爆睡だ。
警戒心なさすぎだな。
本当に顕人が鍵を持っていて、知らない間に寝顔を覗いていても、こいつ、気づかないだろうな、と思う。
廊下の灯りが、机の上に置かれたあの指輪の箱をちょうど明るく照らしていた。
……ふん。
「莫迦だな、この女」
まあ、ケダモノを148円で買おうとするくらいだからな、と思いながら、中に入ると、明日実の布団をかけ直してやる。
「……おやすみ」
おやすみか。
身内以外の女に言うのは初めてだな、と思いながら、ぱたん、と扉を閉めた。
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