ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノを買いました

初出勤、緊張しています

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 朝食の材料がなかったので、二人でマンション一階の喫茶店で食べた。

「お前、電車か?」

 ふかふかのバターロールを千切りながら、貴継が訊いてくる。

「ああ、はい」

 じゃあ、駅まで送ってやる、と貴継は言う。

「あ、ありがとうございます」
と言いながら、きちんとすると、やっぱ、格好いいな、この人、と思っていた。

 少し紅茶を飲んで、チーズオムレツを齧って、あとは食べなかった。

「緊張してるのか」
と貴継が笑う。

 その顔はちょっとやさしげにも見えた。

「だっ、だって、初出勤ですっ。
 研修を兼ねたバイトですが、私、今まで働いたことがないのでっ」

「そんなの緊張して初々しいのは、最初の二週間くらいだ。
 すぐにダレて、会社行きたくないとか、みんな言い出すんだ」

 はあ、まあ、そんなものかもしれませんね、と思いながら、今すぐその瞬間にワープしたい、とも思っていた。

「まあ、頑張れ」
と言いながら、貴継が立ち上がり、伝票を取る。

「あっ、私がっ。
 駅まで車で送っていただくんですし」
と言うと、

「俺は、お前の部屋に泊めていただいている」
とこちらの口調を真似て言ってきた。

「ま、会社まで送ってやってもいいんだが。
 ……ちょっとまずいだろうからな」

 少し考えながら、貴継は言う。

「はあ、そうですね。
 新入社員ですし」

 この人、平気で玄関に横付けとかしそうだからな、社長の車とか止まってても。

「あの」
と歩幅の違う貴継にレジで追いつき、明日実は言った。

「ありがとうございます。
 私、此処で朝ごはんとか食べてみたかったんですけど。

 ひとりで喫茶店とか入れないので。
 お友達が泊まりに来たときくらいしか。

 だから、今日は嬉しかったです」
と言うと、

「じゃあ、毎朝、此処で食べるか」
と貴継はお金を払いながら言ってくる。

「い、いえ、それはちょっと」
と言うと、レジを打っていた女の店員さんが笑い、

「またどうぞー」
と言ってくれた。



 貴継はあのデカイ赤い車で駅まで送ってくれた。

 ロータリーで降り、
「ありがとうございました」
と頭を下げると、

「頑張れよ、新入社員」
と笑って貴継は窓を閉める。

 貴継の車が去るのを見送ってから気がついた。

 側に居た学生さんらしき女の子たちが羨ましそうにこちらを見ているのを。

「私もOLさんになったら、あんな風に彼氏に送ってもらいたいーっ」
とか言って騒いでいるのが聞こえてきた。

 いや、彼氏じゃないですし、と思いながら、明日実はちょっと恥ずかしく、足早にその場を立ち去る。

 よしっ。
 研修だけど、初出勤っ。

 頑張るぞっ、と気合を入れて、改札をくぐった。


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