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何故か、ここにもケダモノがいます
配属先が発表になりました
しおりを挟む会社に着くと、会議室にみんな集められ、しばらく新入社員同士で話していた。
女の子たちは特に感じが良く、すぐに仲良くなれた。
「佐野明日実ちゃんか。
なんて呼ぼうかー」
とかいう会話もあり、この辺までは学校と変わらないな、と思っていたら、面接のときにも何度も見た人事の安田課長がやってきた。
人の良さそうなおじさんだ。
点呼を取られ、最上階にあるホールに向かう。
やっぱり緊張してきたな、と思いながら、ホールに並べられていると、
「では、皆さんの部署を発表しますね」
安田課長がそう言い、振り向いた。
「部長、お願いします」
ドアが開いて、若い男が現れる。
みんながそちらを見て、驚いたのは、たぶん、その若さで人事の部長だったからだけではない。
側に居た古村美典が、
「えーっ。
めっちゃ格好よくないっ? あの部長っ」
と小声で言ってくる。
そ……そうですね。
マイクの前に立った人事部長が言う。
「皆さん、入社おめでとう。
入社式は四月一日ですが、すぐに仕事に馴染めるように、二週間、研修期間を設けています。
早くそれぞれの部署に慣れるよう頑張ってください」
……そんな言葉遣い出来たのか。
明日実はその男を見上げて、ぼんやり思う。
「私は、人事部部長の天野貴継です」
こちらを見て、にんまり笑ったように見えたのは気のせいか。
いやいや、待て。
入社試験を受けたとき、この人の良さそうな課長はいらっしゃいましたけど。
部長は確か、温厚そうなおじさんでしたよ?
って、この会社、人事異動は二月かっ、とか思っている間に、いつの間にか、部署が発表になっていて、それぞれ、ほっとしたり、えーっ、という顔をしたりしている。
っていうか、私の名前は? と思っていると、
「佐野明日実、人事部付」
へ?
明日実の周りがざわつく。
「佐野さん、人事なの?」
「いや、違うよ。
人事部付って言うのは……」
小声で周りの同期に返そうとした明日実の言葉を遮るように貴継が言う。
「まだ何処にしようか迷ってる、ちょっと困った人材という意味だ」
マイク越しのその声に、みんなが、どっと笑う。
待て、こら。
困った人が人事部付になるわけじゃないだろうが、と思ったが、人目があるので、強く反論できない。
安田課長を見ると、困ったような顔で、こちらを見て笑っている。
そのあと、社長の挨拶があり、事実上、今日が入社式っぽいな、と思っていると、そのまま、それぞれの部署に別れることになった。
「じゃあ、明日実、あとでね」
と美典たちに手を振られ、
「あ、うん」
と答える。
わ、私は何処に行けば……? と思っていると、安田課長が、
「とりあえず、うちに来てくれるかな」
と言ってきた。
「はっ、はいっ」
とかしこまったとき、貴継が近づいてきた。
「た……」
貴継さん、と思わず名前で呼びかけ、気がついた。
だからあのとき言ったのだ。
場所によっては、ちゃんと天野さんと呼べよ、と。
「あ……天野部長」
と青ざめたまま言うと、貴継はあの顔で、にんまり笑って囁く。
「そう。
わかったか。
俺はホストじゃない。
お前の上司だ」
そこで、よそ行きの顔でにこりと微笑み、貴継はみんなに聞こえるように大きな声で言ってきた。
「よろしく、佐野明日実くん。
もしかしたら、短い間かもしれないが、人事で頑張ってくれ」
ひいっ。
会社でくらい自由になれると思っていたのにっ、と思っている明日実の手を握手するように取り、握ってくる。
ホールの後片付けをしていた永山という若い男が笑いながら貴継に、
「部長、最近はちょっと手を握っただけでも、セクハラ扱いになっちゃいますよー」
と言っていた。
「そうか、気をつけよう」
と貴継は爽やかに返している。
誰ですか、貴方。
そのまっさらな微笑みは何処から湧いてきたのですか。
家とギャップがありすぎですよ……。
っていうか、気をつけようって、貴方、家ではセクハラ三昧ですけどっ? と思っていたが、やはり、言葉には出せなかった。
貴継の背中を見送っている間、
「あのー……行くよ、佐野さん。
行くよー……」
と安田課長が気弱な声で呼びかけてきていたが、気づかなかった。
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