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何故か、ここにもケダモノがいます
なんのポリシーがあるんだろうな
しおりを挟む社食を出たあと、ロビーでみんなで少し話した。
昼休みが終わり、それぞれの部署に戻ったのだが、途中、廊下で、貴継と二人だけになった。
「少しは慣れたか」
と訊いてくるので、
「だから、さっき来たばっかりで慣れるわけないじゃないですか」
と言ったあとで、
「あの人、お姉さんだったんですね」
と言うと、
「……なにが言いたい」
と睨んでくる。
いや、格好つけなくても……と思い、はは、と笑った。
この年でおねえちゃんと暮らしていて、追い出されましたなんて言いたくなかったのだろう。
その通りだったのか。
貴継はいきなり弁明を始める。
「俺も金は出してたんだ。
あいつだけの家ってわけじゃ……。
いや、まあ、あいつの家だ」
と何故か言い直し、貴継は話を終わらせた。
自分の家を持つつもりはない、と言ったときの、あの横顔を思い出す。
どうもお坊っちゃまらしいのに、家を持たないって、なんのポリシーがあるんだろうな。
っていうか、私を巻き込まないでください、と思っていると、
「お前は研修期間中だし、総務系は基本、残業はない。
……ことになっている。
俺も早く帰るから、何処かで待ち合わせよう」
と言ってきた。
「えっ?」
「ベッドを買いに行くと言っただろう」
「ほ、本気ですか?」
「明日は人事部主催で、お前らの同期会があるからな。
今日行こう」
と貴継は相変わらず強引に言ってくる。
「幸い、お前は仕事を覚えさせるのに、手がかからないから」
と嘘か本当かわからないことを言ったあとで、
「今あるベッドは、稲本顕人に送り返してやれ」
と言う。
「いや、おにいさまもいらないですよ。
海外に行かれるのに」
「そういえば、あの男、何処へ行くんだ?」
「知りません。
もふもふの毛皮を来て、ピラミッドの前で、ニーハオと言っていました」
なんだそれは、と言われ、
「私の妄想です」
と言うと、
「妄想にしても、とりとめなさすぎだろ」
と言われてしまう。
どうしたい? って感じの妄想だな、と言われる。
「そうだ。
お前のベッドも捨てろよ」
「なんでですか」
「キングサイズを買うから」
と言いかけた貴継が途中で言葉を止める。
前から誰か来たからだ。
貴継より随分年上のような、その辺に居そうなおじさんだ。
「おや、天野部長。
それがお宅の新入社員ですか」
愛想と嫌味の混ざった不気味な笑顔を向けてくる。
「いえ、これは人事部預かりなだけですが」
と言うと、ほう、と笑う。
「いいですねー。
お美しい新入社員さんで」
では、と行きかけたその男が、
「この産業スパイがっ」
と小声で言うのが聞こえた。
思わず振り返ろうとしたが、貴継に止められる。
エレベーターに乗り、
「産業スパイなんですか?」
と訊くと、腕を組んで後ろの鏡に背を預けた貴継に、
「真面目な顔で訊くなよ」
と言われる。
「産業スパイが人事部長になれるわけないだろ。
お前も短期間だが、人事で得た情報は一生涯しゃべるなよ」
と言われ、はい、と頷く。
エレベーターには誰も乗ってこず、貴継は自分を見ている。
間が持てず、
「な……なんですか?」
と訊くと、
「いや、同じ会社ってのもいいもんだな。
いつでも顔を見てられる」
と言ってきた。
しれっとした顔で言われないでくださいっ。
しれっとっ!
「トロトロすんなっ。
早く降りろっ」
いつの間にか扉は開いていて、さっさと降りた貴継が扉を開けてくれていた。
「はっ、はいっ」
と明日実は慌てて、エレベーターを降りる。
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