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何故か、ここにもケダモノがいます
お前にならいいぞ
しおりを挟む家でお弁当を食べたあと、貴継は、明日実のベッドに天蓋をつけてくれた。
やっぱり、器用じゃないですか、と思いながら、貴継が天井にフックを取り付けるのを眺めていた。
白い綺麗なレースがベッドを覆う。
可愛い。
やっぱりこういうの女の子の夢だな。
ちょっと嬉しい、と思っていると、
「どうだ、ほら。
寝てみろ」
と貴継が言い出した。
「あ、はい。
では」
と中に入ってみる。
貴継が居るので、寝てはみないが、ベッドに座り、天井から下がるレースを眺めた。
本当にお姫様のベッドだな。
半透明なレース越しに貴継が見える。
ではあれが、王子。
……王子なのか?
見た目は申し分ないが、ずいぶんと強引な王子様だ。
まあ、お伽話の中の王子様も、寝ていたり、死んでいたりする女の子にいきなりキスしてみたり。
変わった人が多いからな、と思っていると、貴継はレースを捲って中に入ってきた。
「いいじゃないか。
キャンプみたいで」
キャンプ。
ロマンがないな。
まあ、これ、言ってみれば、蚊帳だし、と思ってリングから下がるカーテンを見上げていると、
「嘘だよ。
お城の奥に居るお姫様の許に忍んできたみたいでいいな」
と明日実の側に手をつき、キスして来ようとする。
「いやっ、あのっ、今日はもう寝ますからっ」
と飛んで逃げた明日実は、壁に背中をぶつけた。
「いっ、言わなかったですかっ?
今日はもうボロボロなんですっ」
と訴えると、貴継は眉をひそめ、
「今日も、だろ?
疲れて俺の相手が出来ないのなら、会社なんぞ辞めてしまえ」
と暴言を吐く。
おい、こら、人事部長さま。
「お。
そうだ」
と貴継は、ふいに思い出したように言ってきた。
「さっき、待ち合わせ場所に行く前に、ケーキを買ってやったんだった。
ありがたくいただけ」
「あ、ありがとうございます。
でも、この時間から食べると太……」
太るので、と言いかけたが、明日実を上から下まで見た貴継が、そのセリフに被せるように言ってくる。
「いや、お前はもうちょっと太った方がいい」
え?
ほんとですか? と喜んだのだが、
「もう二キロは太れ」
と言われ、
……二キロだけか、厳しいな、とよろめきながら、貴継に手を引かれて、ベッドを降りた。
それにしても、今日もなんだか怒濤の一日だった。
貴継が買ってくれていたイチゴが中にたっぷりサンドされた、抜群に美味しい生クリームのケーキを明日実は頬張る。
「初出勤のお祝いだ。
まあ、まだなんの役にも立ってない研修生だがな」
うっ……。
確かに。
みんな手を止めて教えてくれるので、逆に仕事の邪魔をしている感じだ。
「まあ、お前は飲み込みは悪くないから、頑張れ。
四月一日の入社までは使い物にならなくて当たり前だ。
そのために二週間の研修期間を設けてるんだ。
その間は、たっぷりみんなに教われ」
「はいっ。
ありがとうございますっ」
と明日実は背筋を伸ばし、職場のように畏まる。
「だが……、それはつまり、四月一日までに使い物にならないのなら、去れ、ということだ。
使えない部下は俺はいらん」
人事部長の顔で貴継が言う。
……ひい。
明日実はフォークを持って固まったまま、
「が、頑張ります」
と言った。
「ところで、なんで、同じ会社だって教えてくれなかったんですか?」
「いや、その方が面白いから。
愉快だったぞ、ホールで俺を見たときのお前の顔」
と高笑いする。
ほんっとうに趣味悪いな、この人……。
「……女性の家を渡り歩いてる感じだったから、てっきり、ホストだと思ってたのに」
と小声で呟くと、
「俺にホストが出来ると思うのか」
と言ってくる。
「まあ、確かに、貴方が女性の前に跪くとかないですよね……」
「お前になら、跪いてやってもいいぞ」
いや、だから、何処まで本気なんですか、と赤くなる。
こんなモテそうな人が私のことを本気で好きとかないだろうしな。
ていうか、泊めてあげてるから、気を使って、持ち上げてくれたり、キスしてこようとしたりするのかな?
……激しく余計なお世話なんだが。
それにしても、怒濤の一日だった、と明日実は欠伸をする。
この人と会ってから、ほんと、毎日、いろんな……こと、が……。
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