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何故か、ここにもケダモノがいます
見張られています
しおりを挟む……見張られている。
明日実はパソコンを打つ手を止めかける。
背後から貴継の視線を感じていた。
朝、仕事を始めてしばらくすると、貴継がさりげなく背後に立った。
仕事っぷりを監視されているっ! と長閑な職場で、明日実ひとりにだけ、緊張が走っていた。
それにしても、この人、いつ、私を人事部付に変えたんだろうな。
一緒に暮らしてみて、こりゃ駄目だと思ったから?
仕事には厳しいようだから。
だが、出会ったのは一昨日だし、研修が始まったのは昨日だ。
一昨日の夜から、昨日の朝までは、貴継と一緒に居たし。
一体、いつ、私が使えない人材だと判断を? とキーを叩きながらも、頭の中でぐるぐる考えていると、
「速度が落ちたな」
と背後から、ぼそりと言ってくる。
ひい……。
ぱっと見には、ほとんどわからないはずなのに。
やっぱり、この人、仕事中も怖すぎる~。
「は、はい。
すみません」
と言いながら、なんとか出来上がった書類を保存し、プリントアウトしようとすると、
「待て」
と貴継が言ってきた。
なななな、なんでございますかっ、とクリックしかけた指を固まらせたまま、思っていると、
「刷り出す前に待て。
せっかく俺が此処で見てるんだ。
俺が確認してから、出せ。
刷って間違ってて、またやり直しじゃ、時間と紙の無駄だろ」
と言ってくる。
そ、そうですね、と思っていると、貴継はマウスに手を置いている明日実の手の上におのれの手を重ねてきた。
ひーっ。
貴継は、そのまま画面を確認しているが。
明日実の肩の上辺りに貴継の顔がある。
緊張して死にますっ、と思っていると、ちょうど書類を手に、通りかかった何処かの部署の若い男の人が、こちらを見て、可哀想に、という顔をしていた。
余程、自分が青ざめていたのだろう。
「よし」
と言いながら、貴継は自分でクリックして、プリントアウトしていた。
この人のことだから、後ろに立ってるときに、既に一度、チェックしているとは思うのだが。
すぐ横のプリンターに出てきた紙を慌てて取り、はいっ、と手渡しすると、それを見ながら貴継は、
「ところで、これを見てなにか気づくことはないか」
と言ってきた。
「え?」
その書類を自分の方に向けられ、明日実は緊張しつつも、凝視する。
人事部部長の名前の入った書類だ。
なにか……
なにか気づくことは……
「あっ」
「わかったか」
と言った貴継に、
「貴継って、こうして見ると、貴様って見えますねっ」
と言うと、安田たちが吹き出した。
「佐野明日実~」
「あっ、でもっ、貴様って、もともと敬称だったんですよねー」
と笑って誤魔化そうとしたが、貴継は顔を近づけ、
「じゃあ、お前、社長に向かって、貴様って言ってこい」
と言ってくる。
ひーっ。
すみませんっ。
「気づいたことはないかと言ったのは、紙が表裏逆だと言いたかったんだっ」
ひーっ。
またまた、すみませんっ。
「だが、この紙入れてたの、お前じゃないな。
広本っ」
即行、呼ばれた若い男子社員が、はいっ、すみませんっ、と苦笑いしながら、飛んできた。
誰が紙を補充したかまで知ってるなんて、ほんとによく見てるなーと思った。
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