ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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何故か、ここにもケダモノがいます

はじめての同期会

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 夜は、人事部主催の同期会に行った。

 地下にある、ちょっと小洒落た店の一室を会社で貸し切ってくれていた。

 安田課長がみんなを連れてきて挨拶してくれる。

「今日親睦を深めて、次からは自分たちで同期会とかやってくださいね。

 同期というのは、ま、ときに揉めるときもありますけど。
 頼りになるものですよ。

 特に他の部署の同期は、仕事の上でありがたい存在です。

 ……では、私は、この辺で」

 挨拶だけして、安田課長はさっさと帰ろうとする。

 智子が、
「えー? 課長、帰っちゃうんですか?」
と言うと、

「はあ、実は今日、家内の誕生日でして」
と少し照れたように安田が頭を掻く。

 いかにもマイホームパパそうな安田課長に何故か拍手が起こった。

 どうもどうも、とみんなに見送られながら、ドアを開けた安田が、
「すぐに天野部長が来られますから」
と言ってきた。

 げ。

「あ、毎年、人事の人間は一次会で帰ってますから、あとは皆さんで。
 ちなみに会社から予算が出るのは、一次会までですよー」

 えー、と笑いが起こる。

 ちょうど入れ違いに貴継が来た。
 安田は頭を下げて出て行く。

「天野部長ーっ。
 座ってくださいーっ」
と女の子たちから歓声が上がる。

 いや……男からもだ。

 大人気だな。

 まあ、仕事が出来て、イケメン。
 一見、やさしそう。

 部下に気配りもできるし。

 男から見ても、こういう風になりたいと思える上司なのかもしれない。

 ……家では最悪なケダモノ同居人だが。

 明日実は、程よく貴継からは離れた位置に座っていた。

 あまり強めでない酒を呑みながら、明日実は、女子に囲まれ、質問攻めににされている貴継を眺める。

「部長、ご結婚とかされてないんですか?」

「指輪、してないですよねー」

 その言葉に、指輪か……と思う。

 薬指にはつけるなよ、と苦笑しながら、指輪を渡してくれた顕人のことを思い出していた。

 あの指輪、結局、棚に飾ったままだが、と思っていると、貴継が、
「指輪はしてないが、妻も子も居るぞ」
と言い出した。

 ええっ? と明日実が見ると、
「冗談だ」
とこちらに目線を合わせ、笑っていた。

 えーっ、もう、部長ったらー、と盛り上がっているが。

 いや、この人、訳わかんないから、実はどっかに家族が居るとか言われても驚かないな、と思っていた。

 ま、おねえちゃんと同居してたくらいだから、居ないんだろうけど、と思い出し笑いしていると、どういう勘なのか、貴継がこちらを見て、目で威嚇してくる。

 ……怖いよ。

 そのとき、
「そうだ。
 みんな、持ち芸でも披露したらどうだ」
と唐突に貴継が言い出した。

 えーっ。
 ありませんー、とみんなが言う中、貴継はこちらを見て、にやりと笑い、
「佐野くんはあるそうだぞ」
と言う。

 あっ、こらっ、と思ったが、既に場は盛り上がっている。

「え、えーと、じゃあ」
と財布を開けていると、

「なにしてんの?」
と隣りの席の栗原とかいう男の人が覗いてきた。

「あっ。
 また、100円足りないっ」
と明日実が言うと、

「僕、貸してあげるよ」

 はい、と栗原が貸してくれた。

 女子はだいたい覚えたが、男の人は、まだうろ覚えだ。

 確か、営業だとか言ってたな。

 横田さんと一緒かー、と思いながら、すみません、と頭を下げる。

 可愛い感じの人だった。

 そういえば、美典たちが、ひとり可愛い男の子が居るとか言ってたな、と思い出す。

「で、ではですね」
と立ち上がった明日実は、100円玉2枚をみんなに見せ、

「この100円玉が、なんと、3枚にっ」

 はいっ、と100円玉を素早くすり合わせ、3枚に見せると、酔っているみんなが、おおーっ、と驚いてくれた。

「すごいじゃんっ、明日実っ」
と智子たちも褒めてくれる。

 いやー、どうもどうも、と機嫌良く、トリック、という程のものでもない指の動きを説明する。

 終わって、100円を栗原に返そうとしたのだが、見当たらない。

 どうもトイレに行ったようだった。

 仕方ない、あとで返すか、とちょうど持っていた100円ショップで買った可愛い小袋に入れる。

 こういうの好きでよく買うけど、あまり使い道がないんだよな。

 これで使える良かった、と笑っていると、貴継がこちらを見ていた。

 人がお酒を頼みに席を立ったり、トイレに立ったりして、なんとなく席が替わっていて、いつの間にか、貴継が隣りに来ていた。

 黙って呑んでいる彼に、
「……なに機嫌が悪いんですか」
と訊くと、

「何故ウケるんだ、あのしょうもない芸が」
と言い出す。

「みんな酔ってるからですよ」
と言いながら、ウケないと思ったんならやらせるな、と思っていた。

「……モテモテでいいことですね、部長は」
と言うと、

「なんだ、妬いてるのか」
と小声で言ってくる。

 そういうわけじゃないですが。

 この人、別に私じゃなくてもいいし、私の家じゃなくてもいいんじゃないかと思っただけだ。

「大丈夫だ。
 さっきからの評判を聞くに、お前もそこそこモテている」

 そこそこですか……。

「だが、ルックスのわりに、人気がいまひとつなのは、なんとなく得体が知れないからだろうな。

 最初の同期会だ。
 関係性とかモテ度とか決まる場所なのに、普通女がウケ狙いでマジックやらないよな」

「貴方がやらせたんですよね~っ?」
と抗議してみたが、ウケてよかったじゃないか、と貴継は言ってくる。

「貴方こそ、なんなんですか、さっきのは。
 本当に妻子が居るんですか?」
と言ってやると、貴継は、

「居るじゃないか、妻と子は」
と言ってくる。

 は?

「妻と」
と明日実を指差し、

「子だ」
と明日実のお腹を指す。

「居ませんよっ。
 まだなんにもしてないじゃないですかっ」
と思わず叫び、あっ、まだ、とか言っちゃった、と思う。

 まるで、いつかはするみたいだ、とおのれの言葉を後悔していると、貴継も気づいたようで、笑っている。

「人はふいの弾みに本音が出るものだよ、明日実くん」
と言う貴継に、な、なんか悔しいーっ、と俯き、震えていると、

「どうしたの? 佐野さん」
と戻ってきた栗原が訊いてくる。

「栗原くんっ。
 この人、セクハラしますよっ」
と貴継を指差し、みんな気をつけてっ、と周りの女の子にも訴えてみたのだが、酔っている彼女らは、

「やだーっ。
 部長になら、セクハラされたいーっ」
と盛り上がり始めた。

 だ……誰も味方じゃない……、とぐったりする明日実の横で、栗原が陽気に酒を勧めてくる。

「まあまあ、佐野さん、呑もうよ。
 次、なに頼む?」


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