ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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何故か、ここにもケダモノがいます

鼻で笑われそうだ……

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「じゃあ、俺は此処で。
 みんな気をつけて帰れよ。

 それと我が社の社員として、恥ずかしくないように、節度ある振る舞いをしてくれ」

 店の外で言う貴継に、いや、酔っ払いに節度とか言っても無理だろう、と思っていた。

 はーい、という声に混じり、
「部長、一緒に次行きましょうよー」
という声が聞こえたが、貴継は、

「いや、俺は明日も仕事だから。
 くれぐれも飲み過ぎるなよ」
と釘を刺して帰って行った。

 そうか。
 明日も仕事なのか、土曜なのにな、と思いながら、その背中を見送る。

 やっぱり、仕事って、大変なんだなー。

 みんなは、まだ呑みに行くか、カラオケに行くかで揉めていた。

 一番後ろをついて行きながら、明日実は、ちらと振り返る。

 酒が入って陽気な人々の行き交う夜の街に、もう見えない貴継の姿を探していた。



 そのあと、三次会に行った子たちも居たが、明日実は二次会で帰ることにした。

 何人かと電車に乗ったが、明日実と同じ駅で降りる子は居なかった。

 夜はまだ冷えるな、と思っていると、ロータリーのところに見覚えのある車が居た。

 窓が開き、
「ちゃんと帰ってきたな」
と顔を覗けて貴継が言う。

「あれっ?
 呑んでたんじゃないんですか?」
と訊くと、

「俺は酒は呑んでない」

 乗れ、と言う。

「あ、ありがとうございます」
と車に乗り込む。

 あったかいっ、と幸せに浸っていると、
「今日はどうだった?」
と訊いてくる。

「楽しかったですっ。
 ありがとうございますっ」
と頭を下げると、そうか、と言った貴継は少し笑ったようだった。

 だが、車を発進させる前に、助手席の背に手をかけ、いきなりキスしてきた。

「なっ、なにするんですかーっ」
と叫ぶと、

「いや、格好つけて、今まで手を出さなかったんだが。
 今日、酔った弾みで、誰かがお前のファーストキスを奪ったらどうしようと思って、気が気じゃなかったんだ」
と言い出した。

 いやいやいや。
 これはないだろう、と思う。

 いきなり過ぎる。

 また鼻で笑われそうだが、いろいろ夢があったのに。

 しかも、一瞬だったし、酔ってたし。

「またなにか考えてるな」

「せめて正気のときがよかったですー」
と顔を伏せて落ち込むと、

「じゃあ、頭から水でもかぶってこい。
 ちょうどいい噴水がある」
と言い出した。

 なるほど。
 ロータリーの真ん中に噴水が……。

 貴方こそ、正気ですか。

「よし、かぶってこい」

 それからまたキスしよう、と貴継は言ってくる。

 いや……遠慮しときます。


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