ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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何故か、ここにもケダモノがいます

心洗われたばかりなのに

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「おにいさまと話して、心が洗われたばかりなのに」

 そう言うと、貴継の機嫌が一気に悪くなったのを感じた。

 あっ、しまった、と明日実は思ったが、一度口から出た言葉は戻らない。

 それに、本当のことだった。

 顕人と話していると、気持ちが穏やかになるが、貴継と居ると、なんだかいつも心が騒ぐ。

 感情が波立って落ち着かないというか。

 寝る、と言って貴継は部屋に入ろうとする。

「あのっ」
と慌てて声をかけた。

 振り返った貴継に、
「きょ、今日はありがとうございました。
 迎えに来ていただいて……」

 助かりました、と言おうとした。

 だが、なんだかそれでは、貴継を都合良く使ってる感じになるし、自分の感情とは違う気がして、少し迷って、明日実は違う言葉を口にした。

「嬉しかったです」

 貴継の表情が一瞬、止まり、そして、笑う。

 そのまま部屋に入っていってしまった。

 う……嬉しかったです、っていうのは、ちょっと恥ずかしかったかな。

 悪い言葉もだが、いい言葉も出してしまったものは戻らない。

 でもなんだか。
 今、振り返って笑った貴継さんの顔は好きだな、と思っていた。

 おにいさまと居るときみたいに、静かな気持ちにはならないけれど。
 
 そうだな。
 これはこれで心が洗われるかも、と明日実は思った。


 夢の中。

「この指輪がぴたりとはまったものが、王子の妃となれるであろう」

 そう書かれた指輪がダンジョンに落ちていた。

 手にしている松明の明かりの中、明日実は、あの指輪を拾い上げる。

 こ、これをはめられたものが顕人おにいさまの花嫁に。

 だが、明日実はそれを手に迷う。

 そんなことで花嫁が決まっていいのだろうかと思ったからだ。

 でも、このまま置いておくと、別の誰かが指にはめてしまうかも。

 そう思ったとき、

「早くはめた方がいいよ」

 そんな声がして顔を上げた。

 会社のIDカードをさげた小人が立っている。

 いや、小人の格好をしているのだが、まったく小人ではなく、顔は大和の顔だった。

「やめた方がいいですよ」

 反対側から声がして、振り返ると、狼の毛皮を着た大きな笹原が、狭い洞窟の中に、少し背を屈め立っていた。

 ええー? と迷っていたが、早く早く、と大和に急かされ、指輪をはめる。

 すると、何処からともなく、よく聞く高笑いが聞こえてきた。

「かかったな、明日実っ!」

 洞穴の一部が崩れ、外の日差しが差し込む。

 眩しさに目を瞬かせながら、よく見ると、指にはまったそれは顕人がくれた指輪とは違っていた。
 


「起きろっ、明日実っ!」

 鳴り響く目覚ましの音とともに、いきなり布団を剥ぎ取られた。

 ひいっ。
 魔王が此処にもっ!

 今、洞窟の外で、高笑いしていた魔王が、明日実の布団を手に怒鳴ってくる。

「遅刻は許さんぞ。
 俺の部下である以上っ。

 ちゃんと朝食も食っていけっ」

 ご、ごもっともでございます、と思いながら、明日実は起きる。

 よし、と行きかけた貴継だったが、
「しまった。
 忘れ物だ」
と言って戻ってきた。

 明日実の顎に手を触れ、そのままキスしてくる。

 ぎゃーっ。
 強姦魔ーっ。

 そこまでしていない、と言い返されそうなことを心の中で叫んでいると、貴継は、
「一度も二度も三度も同じだ。
 ぎゃあぎゃあ言ってないで、早く支度しろ」
と言って出て行ってしまう。

「同じじゃないですーっ」
と叫びながら、明日実はベッドから飛び降りた。


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