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何故か、ここにもケダモノがいます
心洗われたばかりなのに
しおりを挟む「おにいさまと話して、心が洗われたばかりなのに」
そう言うと、貴継の機嫌が一気に悪くなったのを感じた。
あっ、しまった、と明日実は思ったが、一度口から出た言葉は戻らない。
それに、本当のことだった。
顕人と話していると、気持ちが穏やかになるが、貴継と居ると、なんだかいつも心が騒ぐ。
感情が波立って落ち着かないというか。
寝る、と言って貴継は部屋に入ろうとする。
「あのっ」
と慌てて声をかけた。
振り返った貴継に、
「きょ、今日はありがとうございました。
迎えに来ていただいて……」
助かりました、と言おうとした。
だが、なんだかそれでは、貴継を都合良く使ってる感じになるし、自分の感情とは違う気がして、少し迷って、明日実は違う言葉を口にした。
「嬉しかったです」
貴継の表情が一瞬、止まり、そして、笑う。
そのまま部屋に入っていってしまった。
う……嬉しかったです、っていうのは、ちょっと恥ずかしかったかな。
悪い言葉もだが、いい言葉も出してしまったものは戻らない。
でもなんだか。
今、振り返って笑った貴継さんの顔は好きだな、と思っていた。
おにいさまと居るときみたいに、静かな気持ちにはならないけれど。
そうだな。
これはこれで心が洗われるかも、と明日実は思った。
夢の中。
「この指輪がぴたりとはまったものが、王子の妃となれるであろう」
そう書かれた指輪がダンジョンに落ちていた。
手にしている松明の明かりの中、明日実は、あの指輪を拾い上げる。
こ、これをはめられたものが顕人おにいさまの花嫁に。
だが、明日実はそれを手に迷う。
そんなことで花嫁が決まっていいのだろうかと思ったからだ。
でも、このまま置いておくと、別の誰かが指にはめてしまうかも。
そう思ったとき、
「早くはめた方がいいよ」
そんな声がして顔を上げた。
会社のIDカードをさげた小人が立っている。
いや、小人の格好をしているのだが、まったく小人ではなく、顔は大和の顔だった。
「やめた方がいいですよ」
反対側から声がして、振り返ると、狼の毛皮を着た大きな笹原が、狭い洞窟の中に、少し背を屈め立っていた。
ええー? と迷っていたが、早く早く、と大和に急かされ、指輪をはめる。
すると、何処からともなく、よく聞く高笑いが聞こえてきた。
「かかったな、明日実っ!」
洞穴の一部が崩れ、外の日差しが差し込む。
眩しさに目を瞬かせながら、よく見ると、指にはまったそれは顕人がくれた指輪とは違っていた。
「起きろっ、明日実っ!」
鳴り響く目覚ましの音とともに、いきなり布団を剥ぎ取られた。
ひいっ。
魔王が此処にもっ!
今、洞窟の外で、高笑いしていた魔王が、明日実の布団を手に怒鳴ってくる。
「遅刻は許さんぞ。
俺の部下である以上っ。
ちゃんと朝食も食っていけっ」
ご、ごもっともでございます、と思いながら、明日実は起きる。
よし、と行きかけた貴継だったが、
「しまった。
忘れ物だ」
と言って戻ってきた。
明日実の顎に手を触れ、そのままキスしてくる。
ぎゃーっ。
強姦魔ーっ。
そこまでしていない、と言い返されそうなことを心の中で叫んでいると、貴継は、
「一度も二度も三度も同じだ。
ぎゃあぎゃあ言ってないで、早く支度しろ」
と言って出て行ってしまう。
「同じじゃないですーっ」
と叫びながら、明日実はベッドから飛び降りた。
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