24 / 73
何故か、ここにもケダモノがいます
ここ、社内ですっ
しおりを挟む「おはようございますー」
と給湯室に入ると、隣りの課の先輩たちが二人ほど居た。
「おはよう、明日実」
「おはようございます。
どうかしたんですか?」
なにやら盛り上がっているので訊いてみると、
「いや、営業の田中さんと受付の子がさ、毎朝、駅から一緒に来るのよ。
あれはなにかあるって言ってたんだけど」
と言ってくる。
「そうですか。
私はよく、駅から安田課長と一緒になるのですが」
「それはただ、一緒になってるだけでしょうが」
莫迦ね、と言われてしまう。
「安田課長じゃなくて、天野部長ならときめくけどーっ」
と先輩が言い、きゃーっともう一人の先輩と騒ぎ始める。
さっきの女子高生たちを思い出していた。
女の人っていうのは、幾つになっても同じだなあ、と自分も女なのに、感心して眺めてしまう。
「あのー、でも、安田課長、いい方ですよ」
少なくとも、貴継さんよりは……。
なにか女子からの扱いが悪い気がして、そう言ってみたのだが、
「恋愛には関係ないでしょ。
すごい愛妻家だし」
と言われてしまう。
まあ、そうですよね。
貴継さんは愛妻家に……
なるかな?
なんだか愛情の方向性がちょっと違いそうで怖いんだが。
変わってるからな~、あの人、と貴継が聞いたら、変わってるのはお前だろ、と思われそうなことを思いながら、お茶を淹れて、人事に戻った。
貴継と安田課長に言われるまま、就職試験関係の書類を打ち、昼近くまで働いた。
「佐野明日実。
これ、事業部まで持ってってきてくれ。
戻ってきたら、帰ろう。
……もう帰っていいから」
と貴継が言いかえる。
自分たちと、人のいい安田課長しか居ないので、気を抜いていたようだった。
いや、帰ろうでも部下への呼びかけとしておかしくない気がしますが。
言いかえたので、余計怪しい感じに、と思ったのだが、安田課長は下を向いて、なにか計算していて無反応だった。
「では、行ってきまーす」
と別館の事業部までお届け物をする。
休みの日とはいえ、結構出て来てる人居るんだな、と思いながら、本館に戻ろうとすると、自動販売機の前に見覚えのある後ろ姿が見えた。
「あ、栗原くん。
ちょうどよかった」
と声をかけると、振り返った栗原が、
「お疲れー」
と言ってくる。
「なんだ。
佐野さんも来てたの?
人事も今、忙しいんだね」
「天野部長たちも今日出てて、ちょっとパソコン打ちに」
と言うと、ふうん、と言う。
その言い方に、なにか含みがある気がして、ちょっと身構えてしまったが、特になにも言われなかった。
「あ、そうだ。
栗原くん、100円返さなきゃ」
ああ、せっかく可愛い袋に入れてたのに、今、持ってないや、と思っていると、
「いいよ。
返さなくて」
と言いながら、栗原は自動販売機で珈琲を買う。
「でも、そういうわけには」
と言いかけると、
「返さなくていいから、またやって見せてよ。
今度は、3枚で」
と笑って言ってくる。
「えっ? 3枚で?」
「3枚を4枚にして見せてよ」
「ええーっ。
難しそうなんだけど」
と言うと、
「ところで、佐野さんは休みの日はなにしてんの?」
と違う話題を振ってきた。
「え?」
とちょっと考え、
「今はとりあえず、働いてるかな」
と言うと、いや、今日じゃなくてと苦笑いしている。
「今度、暇なとき、どっか行かない?
100円はそのときでいいよ」
唐突に栗原はそんなことを言ってきた。
「え、でも」
「じゃあ、また連絡するね」
とこちらの答えを聞かずに行ってしまう。
「えっ。
ちょっと栗原くんっ」
と呼び止めようとすると、
「お前、また100円で買われそうになったな」
と声がした。
ひっ。
建物の陰から貴継がこちらを見ていた。
い、いつからそこに……。
貴方は刑事かなにかですか、と思っていると、貴継は、ほら、と明日実の鞄を投げてくる。
「帰るぞ。
もう上は戸締りした」
お前、遅いから、と言ってきた。
「安田課長は奥さんが待ってるんだ。
あんまり遅くなると悪いだろう」
「そ、そうですね」
と言う明日実の手を、貴継はいきなり、つかんで、歩き出す。
「部長っ。
社内っ。
此処、社内ですっ」
「休みだ。
誰も見てない」
「見てますよ、誰かーっ」
とキョロキョロ振り返っていると、
「ほんとお前は挙動不審だな」
と言われてしまう。
誰のせいだ~っ。
「別に、誰かに見られても、俺は構わない」
私は構いますーっ。
「見られるのが嫌なら、とっとと車に乗れっ」
と駐車場に連れていかれ、車に押し込まれる。
「俺と付き合ってると知られるのが嫌なのか」
「つ、付き合ってませんし、入社早々そういうのどうかと思いますし」
と反射的にシートベルトをしながら言うと、貴継はそれを見て、少し笑ったようだった。
「お前、それはそれでどうだ?
付き合ってもいない男を家に泊めるのは問題があると思うが」
うっ。
正論だ、と思っていると、
「さっき、癒されたいとか言ってたから、お前が癒されそうなところに連れてってやろうと思ったのに」
と貴継は言う。
「えっ?」
あ、しまった。
ちょっと喜んでしまった。
だが、貴継は、
「ごちゃごちゃうるさいから指輪でも買いに行くか」
と言い出した。
指輪……。
あの夢を思い出していた。
『かかったな、明日実っ!』
と貴継が高笑いしている夢だ。
「指輪つけときゃ、もう問題ないだろう」
「今、指輪が首輪って聞こえましたよ……」
この人の場合、あながち間違いでもない気がする、と思っていると、貴継が、
「何処へ行く?
温泉、サファリパーク、動物園、水族館のどれかだ」
と言ってきた。
「え……迷いますね」
まあ、サファリはケダモノを思い出すので、なんとなく嫌だが。
どれも魅力的だ、と思っていると、
「混浴か、サファリか、一泊で動物園か、水族館だ」
と言う。
「……すみませんが、その選択肢なら、水族館しかありえませんが」
「そうか」
とあっさり、貴継は水族館に向かった。
「あの、もしかして、貴方が水族館に行きたかったんじゃないですか?」
「気のせいだ」
「いや、そうなんですよね?」
「気のせいだ」
そのまま、車は海の方へと向かって行った。
4
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった
九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。
ソツのない彼氏とスキのない彼女
吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。
どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。
だけど…何故か気になってしまう。
気がつくと、彼女の姿を目で追っている。
***
社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。
爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。
そして、華やかな噂。
あまり得意なタイプではない。
どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ひとつの秩序
水瀬 葵
恋愛
ずっと好きだった職場の先輩が、恋人と同棲を始めた。
その日から、南莉子の日常は少しずつ噛み合わなくなっていく。
昔からの男友達・加瀬透真は、気づけばやたら距離が近くて、優しいのか、図々しいのか、よく分からない。
好きな人が二人いるわけじゃない。
ただ、先輩には彼女がいて、友達は友達の顔をしなくなっていく。
戻れると思っていた関係が、いつの間にか戻れなくなっている。
これは、仕事も恋もちゃんとやりたいのに、だいたい空回りしている大人たちの、少し不器用なラブコメディ。
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる