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何故か、ここにもケダモノがいます
ほのぼのしてしまった
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「癒されたか? 明日実」
また来てね、とやはりイルカが手を振っている出口に向かいながら、貴継が言ってくる。
「はあ。
ある意味」
なにかこう、ほのぼのとしてしまったな、と思う。
どんな癒される場所に行っても、この人と居るだけで癒されないのではと思っていたのだが。
意外にも、イルカより、アシカより、この人に癒されてしまったようだ。
「おや、天野部長」
と声が聞こえて、そちらを見ると、極普通のおじさんが立っていた。
後ろでは、彼の子どもらしい娘さんが赤子を抱き、彼の妻らしき人が小さな孫に手を引かれ、ガチャガチャのあるところに連れていかれている。
よく見る光景だ。
誰だったっけ? と思ったのだが、あのとき、貴継を産業スパイだと罵ったおじさんだった。
スーツ着てないからわからなかった。
「呑気に水族館ですか。
しかも、新入社員を連れて」
と早速、嫌味を言ってくる。
「黒崎部長。
これは、たまたまうちの新入社員な私の婚約者です。
内緒ですが」
と誰より話してはまずそうな黒崎に、貴継は言っていた。
部長だったのか、と思っていると、黒崎は、一瞬、へえ、という顔をしたが、すぐにまた嫌味を言い始める。
「まったく、社長も物好きな。
君をうちの会社に入れるなどと」
「あのー、黒崎部長」
と明日実が口を挟むと、なんだね? と黒崎はこちらを見る。
「部長は何故、そんなに貴継さんを嫌うんですか?」
こんな若造が部長というのが気に入らないのだろうか、と思ったのだが、黒崎は少し驚いたように言ってきた。
「あんた婚約者なら知ってるだろう。
この男は、経営に失敗して、追い出された創業者一族のボンボンだぞ」
……知りませんでした。
そうか。
お父様が追い出された会社って、うちの会社だったのか。
そりゃ、社長、心が広いな、と思っていると、
「うちの会社に入って、機密事項でも盗み出し、転覆させんと狙っているに違いないのに」
とタラタラと自説を述べ始める黒崎の言葉に、
「いや、自分の入った会社転覆させてどうすんだ」
と貴継が呟いていた。
「あまつさえ、人事部長にするなんて。
社長が君に気を使ってやっていることなんだろうが。
ボンクラの息子はボンクラに決まっとる」
ボンクラ、という言葉に、ちょっと間の抜けたアシカを操る、貴継そっくりのお父さんの顔が浮かんだ。
ほんわかした感じの人だが、あのキャンディさんにあそこまでの芸を仕込むなんて、優秀なんじゃないだろうか。
……飼育員としては。
「ともかく、私は君を……」
「おじいちゃん、開けてー」
と孫がガチャガチャのカプセルを持ってくる。
「ともかく、私は君を認めな……。
堅いな」
黒崎は、孫の持ってきたカプセルを引っ張りながら、なおも文句を言っていた。
「ともかく、私はそんな、いつ裏切るかかわらないような男を人事部長とは認めな……
開かないぞ、雅哉」
「貸してください」
と明日実がそれを取る。
「すまんな」
「これ、コツがあるんですよ。
こうして、上下から押さえて。
あら、堅い」
「どうしたいんだ、貸してみろ」
と言った貴継が、今、明日実がやっていた要領で力を加えてみる。
「開いた」
と貴継は雅哉とかいう子どもにそれを渡していた。
「ありがとう、おにいちゃん」
「すまんな。
ありがとう。
いや、ともかく、私は君を……」
「貴方ー、もう行きますよー」
孫のお守りで疲れている妻に呼ばれ、
「わかった。
今、行くー」
と黒崎は振り返り言っていた。
「何処まで話したかな。
おお、認めんからな」
「お父さん、早く、車開けてー。
オムツもう車の中のしかないのー」
と今度は娘が叫んでいる。
なんだか、せわしないな、と明日実は苦笑する。
溜息をつく黒崎に、
「大変ですね、お休みも」
と笑うと、
「君らも子どもや孫が出来たらわかるさ。
ま、大変なのも楽しいことだよ。
まあ、お幸せに。
……仕事のことはまた別だがね」
じゃあ、と手を挙げ、行ってしまった。
彼の妻と娘がこちらに向かい、頭を下げてきた。
自分たちに嫌味を言ってるのがわかっていて、急かしてくれたのかもな、と思いながら、明日実も頭を下げる。
二人の孫と手をつなぎ、黒崎は去って行った。
「いいおじいちゃんですね」
「そうだな」
「私もあんな風な家族になりたいです」
「そうか。
だが、通りすがりの休暇中の社員にケチをつけるような人間にはなるなよ」
と渋い顔で、やはり黒崎を見送りながら言っている。
平気そうな顔をして応対していたが、まあ、嫌味を言われて平気な人間も居ないか、と思った。
「黒崎さんは、社長と会社が大好きなんですね」
「あの世代の人は、ああいう人が多いからな」
と言いながら、貴継はなにか考えているようだった。
また来てね、とやはりイルカが手を振っている出口に向かいながら、貴継が言ってくる。
「はあ。
ある意味」
なにかこう、ほのぼのとしてしまったな、と思う。
どんな癒される場所に行っても、この人と居るだけで癒されないのではと思っていたのだが。
意外にも、イルカより、アシカより、この人に癒されてしまったようだ。
「おや、天野部長」
と声が聞こえて、そちらを見ると、極普通のおじさんが立っていた。
後ろでは、彼の子どもらしい娘さんが赤子を抱き、彼の妻らしき人が小さな孫に手を引かれ、ガチャガチャのあるところに連れていかれている。
よく見る光景だ。
誰だったっけ? と思ったのだが、あのとき、貴継を産業スパイだと罵ったおじさんだった。
スーツ着てないからわからなかった。
「呑気に水族館ですか。
しかも、新入社員を連れて」
と早速、嫌味を言ってくる。
「黒崎部長。
これは、たまたまうちの新入社員な私の婚約者です。
内緒ですが」
と誰より話してはまずそうな黒崎に、貴継は言っていた。
部長だったのか、と思っていると、黒崎は、一瞬、へえ、という顔をしたが、すぐにまた嫌味を言い始める。
「まったく、社長も物好きな。
君をうちの会社に入れるなどと」
「あのー、黒崎部長」
と明日実が口を挟むと、なんだね? と黒崎はこちらを見る。
「部長は何故、そんなに貴継さんを嫌うんですか?」
こんな若造が部長というのが気に入らないのだろうか、と思ったのだが、黒崎は少し驚いたように言ってきた。
「あんた婚約者なら知ってるだろう。
この男は、経営に失敗して、追い出された創業者一族のボンボンだぞ」
……知りませんでした。
そうか。
お父様が追い出された会社って、うちの会社だったのか。
そりゃ、社長、心が広いな、と思っていると、
「うちの会社に入って、機密事項でも盗み出し、転覆させんと狙っているに違いないのに」
とタラタラと自説を述べ始める黒崎の言葉に、
「いや、自分の入った会社転覆させてどうすんだ」
と貴継が呟いていた。
「あまつさえ、人事部長にするなんて。
社長が君に気を使ってやっていることなんだろうが。
ボンクラの息子はボンクラに決まっとる」
ボンクラ、という言葉に、ちょっと間の抜けたアシカを操る、貴継そっくりのお父さんの顔が浮かんだ。
ほんわかした感じの人だが、あのキャンディさんにあそこまでの芸を仕込むなんて、優秀なんじゃないだろうか。
……飼育員としては。
「ともかく、私は君を……」
「おじいちゃん、開けてー」
と孫がガチャガチャのカプセルを持ってくる。
「ともかく、私は君を認めな……。
堅いな」
黒崎は、孫の持ってきたカプセルを引っ張りながら、なおも文句を言っていた。
「ともかく、私はそんな、いつ裏切るかかわらないような男を人事部長とは認めな……
開かないぞ、雅哉」
「貸してください」
と明日実がそれを取る。
「すまんな」
「これ、コツがあるんですよ。
こうして、上下から押さえて。
あら、堅い」
「どうしたいんだ、貸してみろ」
と言った貴継が、今、明日実がやっていた要領で力を加えてみる。
「開いた」
と貴継は雅哉とかいう子どもにそれを渡していた。
「ありがとう、おにいちゃん」
「すまんな。
ありがとう。
いや、ともかく、私は君を……」
「貴方ー、もう行きますよー」
孫のお守りで疲れている妻に呼ばれ、
「わかった。
今、行くー」
と黒崎は振り返り言っていた。
「何処まで話したかな。
おお、認めんからな」
「お父さん、早く、車開けてー。
オムツもう車の中のしかないのー」
と今度は娘が叫んでいる。
なんだか、せわしないな、と明日実は苦笑する。
溜息をつく黒崎に、
「大変ですね、お休みも」
と笑うと、
「君らも子どもや孫が出来たらわかるさ。
ま、大変なのも楽しいことだよ。
まあ、お幸せに。
……仕事のことはまた別だがね」
じゃあ、と手を挙げ、行ってしまった。
彼の妻と娘がこちらに向かい、頭を下げてきた。
自分たちに嫌味を言ってるのがわかっていて、急かしてくれたのかもな、と思いながら、明日実も頭を下げる。
二人の孫と手をつなぎ、黒崎は去って行った。
「いいおじいちゃんですね」
「そうだな」
「私もあんな風な家族になりたいです」
「そうか。
だが、通りすがりの休暇中の社員にケチをつけるような人間にはなるなよ」
と渋い顔で、やはり黒崎を見送りながら言っている。
平気そうな顔をして応対していたが、まあ、嫌味を言われて平気な人間も居ないか、と思った。
「黒崎さんは、社長と会社が大好きなんですね」
「あの世代の人は、ああいう人が多いからな」
と言いながら、貴継はなにか考えているようだった。
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