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何故か、ここにもケダモノがいます
大事にするから
しおりを挟む「大事にするから、明日実」
と言いながら、ゴージャスなソファの上で勝手に上になってくる貴継に、明日実は言った。
「大事にするからとか、最初はみんなそう言うんですよっ」
そう反論してみたのだが、
「お前、なんの経験もないくせに……」
と笑われる。
し、しまった。
この人にはなにかも知られてるからな、と思った。
慌てて、
「って、テレビで言ってましたっ」
と叫んで、なお笑われる。
「大丈夫だ。
俺はずっと言い続けるよ」
どきりとしていた。
磨かれていない曇った窓のせいで、やわらかく変化した夕暮れの光が自分を見つめる貴継の顔を照らしている。
びっくりするくらい綺麗な、この顔にどきりとしたのだろうか。
いや、たぶん。
穏やかに自分を見つめてくるその表情に。
貴継がゆっくり口づけてくる。
なんだろう。
抵抗しづらい。
だが、そう思ったとき、携帯が鳴り出した。
「……うるさい、切れ」
と貴継が明日実の鞄を見る。
「あ、でも」
会社からかも、とまたすぐ却下されそうな言い訳をして、出ようとしたが、貴継に止められた。
「待て。
嫌な予感がする」
俺が切る、と貴継が横から携帯を取る。
着信画面を見た貴継は、渋い顔をし、
「着信拒否するの、忘れてたな」
と呟いていた。
ひょいと横から覗くと、それは、顕人からの着信だった。
貴継が勝手に、ただいま、電話に出られませんにしてしまう。
「待ってください。
おにいさまは出ないと何度でもかけてこられますっ」
「ストーカーかっ」
メッセージは流れているが、幸いまだ電話は切れていなかった。
「もっ、もしもしおにいさまっ。
すみませんっ」
と慌てて明日実は携帯に出た。
「ちょっと手が滑って。
はい。
……はい、元気です」
と言っている明日実をひょいと抱え、貴継は自分の膝に座らせる。
「きゃっ」
もう~、と睨みながら、
「すみません。
なんでもないですっ。
よろめいちゃって」
と言うと、電話の向こうの顕人は、明日実は相変わらずだなあ、と言って笑っていた。
うう。
また、おにいさまに嘘をついてしまった、と思いながら、少し話したあとで、
「おにいさま。
今、外なので。
はい。
そうですね。
ご出発までに、またぜひ」
と早々に話を閉めて、電話を切る。
貴継が不満げに言ってきた。
「何故、婚約者といちゃついてるので出られませんと言わん」
「言えませんっ。
あの~、やっぱり帰りませんか?」
私、簡易トイレとか嫌です、とソファに座り直して言うと、貴継は舌打ちをし、
「余計な電話で正気に返ったな」
と言ったが、自分も此処に泊まる気は失せていたのか、立ち上がり、大きく伸びをしていた。
「ついでに温泉にでも入って帰るか」
と言う貴継に、
「混浴は嫌ですよ」
と言うと、
「大丈夫だ。
家族風呂だ」
と言われる。
いや……全然大丈夫じゃないですよね、それ。
温泉も遠慮しようと、荷物を手に帰ろうとしたが、
「待て、明日実」
と呼び止められる。
立ち上がろうとした肩を押さえられ、
「さっき買ってやったの貸せ」
と言われる。
水族館のマークの入ったビニール袋から、イルカを出して渡すと、貴継は、阿呆か、と言い、同じ袋から、イルカのリングを出してきた。
ソファに座ると、それを明日実の手にはめ、キスしてくる。
「行こう」
と貴継は立ち上がった。
明日実は、せっかく買い込んだのに使わなかったランプ等を袋に詰め込んでいる貴継の背を見ながら思っていた。
まったくときめかなかったと言ったら嘘になる。
でも……。
指にはまったイルカのリングを見たとき、明日実はあの夢を思い出していた。
『ははははははは。
かかったな、明日実っ』
……なにかこう、どんどん罠にはまっていっている気がするんだが、気のせいだろうか。
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