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ケダモノは、やはりケダモノでした
怖い話をしてやろう
しおりを挟むなんとか温泉には入らずに、家へと逃げ帰った。
「でも、もったいなかったですね、このランプ」
と見ようによっては、お洒落な緑色のランプをリビングで掲げ持つと。
「三つ買ったんだ。
百物語でもするか」
と貴継は言い出す。
「……意味がわかりませんが」
「せっかく買ったのにもったいないじゃないか。
各部屋にひとつずつ置いて、話し終わったら、消しに行くんだ」
「いや、それ、怖いじゃないですか~」
と言うと、
「怖くなかったら、百物語じゃないだろ?」
と言う。
「でも、三つしかないですよ、ランプ。
百物語じゃないですよ。
そして、三つありますよ。
二人なのに。
最後の一個は誰が消すんですか」
「霊だろう」
すみません。
しれっと言わないでください。
「大丈夫だ。
此処でやったって出るわけないだろ。
普段霊とか見たこともないのに」
うちの家なら出たろうがな、と言ってくる。
そりゃ、座敷牢があるくらいですからね、と思った。
「あの家なら、実は誰かこの世ならざるものが住んでいるって言われても驚かないですよ」
そんなことを言っているうちに、貴継はランプに火を灯し、ひとつは今居るリビングに。
ひとつはドアを開けた明日実の部屋に。
ひとつはやはりドアを開けた自分の部屋に置いていた。
「よーし、明日実。
灯りを消せ」
「なんかやけに生き生きしてますね」
と言いながら、リビングの電気を消し、出来るだけ、ランプの灯りに寄っていく。
まるで蛾みたいだな、と自分で思いながら。
「よし。
じゃあ、俺の怖い話をしよう。
……待て。
話す前から耳を押さえるな」
と明日実の両手首をつかみ、耳から引き離す。
そのままの体勢で話し出した。
「今日行ったうちの屋敷だが――」
「あっ、あの家の話はやめてくださいっ」
と言うと、なんでだ? と言う。
「リアルに出そうだからです」
「いや、だから出るぞ」
当たり前だろ、という顔で貴継は言い出した。
「実はあの屋敷にひとつだけ和室があるんだが。
そこで寝ると自分の身体の横に……」
ひゃー、と声を上げ、貴継につかまれていた手を片方ふりほどくと、ランプの火を消した。
「こらっ。
まだ話してないだろうがっ」
「もう充分怖かったですっ」
「いや、待て。
そうか。
わかったぞ。
お前、早く俺と暗い場所で二人きりになりたかったんだな」
と貴継は明日実の腰に手を回し、抱き寄せる。
「はっ、離してくださいっ。
趣旨が変わってきてますよっ」
逃げようと悪あがきをしながら、明日実が言うと、
「莫迦だな、明日実。
男が怪談話をしようと言ったら、そういうことだ。
趣旨は最初からなにも変わってない」
と明日実を抱いたまま、ろくでもない主張を始める。
そのとき、奥の方から、ことり……と音がした。
「でっ、出ましたよっ」
明日実は今、逃げようとしていたはずの貴継の胸にすがりつく。
「出るわけないだろ。
まだひとつも話してない」
そんな筋の通らない怪談話があるか、とよくわからないことを言ってくる。
「よし。
明日実、見てこい」
「なんで私が……っ」
意外と頼りにならないな、と思っていると、
「お前が見に行くだろ。
枯れ尾花を霊だと思って、ひゃーっ、とマヌケに騒ぐだろ。
そこへ、どうした? と俺が颯爽と助けに行くから行ってこい」
と言う。
「行きませんよっ」
そんな説明を受けて行く人間が居るものか。
だが、貴継は何故か、
「行ってやれ」
と言い出した。
行ってやれ……?
「霊が待ってるから」
ほら、とランプにもう一度、火をつけ、渡された。
なんなんだ、もう、と思ったが、貴継が言い出したら聞かないのを知っているので、仕方なく覚悟を決め、立ち上がった。
貴継を振り返りつつ、廊下を進む。
少し遅れて貴継が立ち上がり、真後ろまで来た。
「なんで私の方が先なんですか」
「さっき言ったろ?
お前が怯えないと意味ないからだ。
飛びつきやすいように後ろに来てやったんだ」
まったくもう、と思いながら、明日実は、そうっと自分の部屋を覗いた。
奥の方で、ランプの灯りが風もないのに揺れている。
怖いよう……。
「気をつけて行けよ。
驚かないように」
なにに……?
と思いながら、足音をひそませ、ランプに近づく。
そうしておいて、なにに対して、気配を悟らせまいとしてるんだろうな、と自分で疑問に思う。
やはり、霊だろうか?
と思っていると、
「よし、明日実。
火を消せ」
と貴継が言ってきた。
えーっ、と言いながらも、手にも灯りを持っているので、まあ、いいかと思い、部屋のランプを消して、廊下に戻る。
貴継の側まで来ると、人の熱を感じて、ほっとした。
「も、もういいですか?」
と言ってみたが、貴継は無情にも、
「もう一個あるだろ」
と言い、おのれの使っている部屋を指差した。
貴継の部屋は、開けておいたはずなのに、何故か半分ドアが閉じている。
半開きとか怖すぎだ、と明日実は固まった。
開くか閉じるか、どっちかにしてっ、と悲鳴を上げそうになる。
「そうっと覗け」
と言われて、空いている方の手で貴継の腕をつかみ、ドアの隙間から、そうっと中を覗く。
また、ランプの灯りが、部屋の隅で揺れていた。
自分のランプで部屋の中を照らそうとしたとき、その隅に置かれていたはずのランプが、ふうっと上に持ち上がった。
明日実は、
ひゃーっ!
と脳天を突き抜けるような悲鳴を上げる。
「……警察に通報されそうだな」
と貴継が呑気に呟いていた。
明日実は貴継にしがみつき、叫んだ。
「おばけですーっ」
「俺も見てる。
そして、この家には霊は出ない。
そう言ったろ?」
え? と明日実は顔を上げ、貴継を間近に見上げた。
「タネも仕掛けもあるに決まってるだろ」
「な、なんだ。
貴継さんのマジックだったんですか。
いつの間に……」
仕掛けたんですか、という言葉は最後まで出なかった。
再び、盛大な悲鳴を上げてしまう。
ランプを持って、人が立っているのに気づいたからだ。
「よく見ろ。
お前の大好きなおにいさまだ、明日実」
……え?
罰が悪そうな顔で、ランプを手に、顕人が現れた。
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