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ケダモノは、やはりケダモノでした
親が勝手に決めたことだ
しおりを挟む「間一髪だった」
とあとで、カップを下げながら、小声で明日実に言うと、
「なにがですか?」
とやはり小声で訊き返してくる。
明日実にイルカの安いものとは言え、指輪をはめさせておいてよかったと思っていた。
明日実が顕人のくれた指輪ではなく、自分のやったものをはめていることで、なんとなく彼女が自分を選んだような雰囲気になる。
明日実はピンと来ていないようだが。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。
何事もなくてよかった」
と顕人が立ち上がる。
「貴継くん、明日実をよろしく」
「送りますよ」
と言うと、
「……君は帰らないの?」
と訊いてくる。
今、あの部屋を貴継が使っていることに気づいているだろうに。
「此処にご厄介になってるんですよ、ずっと。
そのうち、家賃でも入れますよ」
と言うと、
「いや、いいだろう。
此処は、おばあさまの持ち物だし。
君は明日実の婚約者だ。
誰も気にしない」
と言われ、あんた以外はな、と思う。
玄関を出た貴継は顕人に言った。
「あの指輪、相当したろう。
明日実は金銭感覚がおかしいのか、よくわかっていないようだが。
就職祝いにポンとやるようなものではないようだが」
顕人は黙っている。
「結婚相手への指輪のついでにあれを買ったんじゃなくて、逆じゃないのか?
明日実の指輪を買うついでに、そりゃ、結婚相手にも買わなきゃなって感じだったんじゃないのか?」
「……彼女への指輪は買っていない。
婚約指輪も結婚指輪も母親と二人が見に行って決めたそうだ。
俺は金を振り込んだだけだよ」
と顕人は言う。
「あんた、なんで、明日実になにも言わずに、他の女と結婚するんだ?」
あの指輪を見てから、ずっと疑問に思っていたことを訊いてみた。
「結婚は親が勝手に決めたことだ。
逆らわなかったのは……
俺は明日実の、実の兄だからだ」
「今、なんか言ったか?」
聞き違いか? と一瞬思った。
「俺は明日実の兄なんだ。
……たぶん」
明日実は知らない、黙っとけ、と言って顕人はエレべーターに向かい、歩いて行った。
「お帰りなさい。
おにいさまは帰られましたか?」
いろいろ考えていた貴継だが、明日実と目を合わせた瞬間には笑っていた。
「……なんですか?」
と明日実が赤くなる。
「いや……。
いいもんだな、お帰りって言われるの」
やっぱり、此処が俺の家だ、と明日実の腰をつかまえ、抱き上げる。
「ひゃっ。
もうっ。
なんなんですかっ」
と言う明日実に、
「一緒に風呂に入るか」
と言うと、
「嫌ですよっ。
家で一緒に入るくらいなら、まだ、温泉の方がまだよかったです」
大自然の中の混浴とかなら、まだ、と言ってきた。
「どんな露出狂だ。
他の男に見せたいとか」
「貴方が混浴って言ったんですよ」
「家族風呂だ」
「同じです」
「同じじゃない。
お前が見せていいのは、俺だけだ」
そこで、
「まさか、『おにいさま』には見せてないだろうな」
と言うと、
「えっ、なっ、なにをですかっ?」
と動揺する。
「裸だよ」
「それは見せてますよ」
おいっ、と思ったが、
「だって、小さな頃から一緒ですから」
とケロッとした顔で言ってくる。
「お前にとってのおにいさまってなんだ?」
明日実は少し考え、
「大好きな方です。
大事な方です。
いつも私を守ってくださって。
幸せになって欲しいと思います」
と微笑む。
難儀なもんだな、と思っていた。
明日実は妹だと言ったときの顕人の顔を思い出していた。
あの男はいつ、それを知ったんだろうな、と思うと、ちょっと同情してしまうが。
「愛してるよ、明日実」
とその頬にキスをする。
明日実は赤くなっていたが、前程抵抗はしてこなかった。
ふふふ。
しめしめ。
段々、鈍くなってきたな、と思う。
毎日やってるうちに、それが当たり前になってくるに違いない。
「よし、じゃあ、一緒に風呂に入ろう」
調子に乗って言ってみたが、
「……一人で入ってくださいよ」
と睨まれた。
ベッドに腰掛けた明日実は暗がりで、棚の指輪を見ていた。
イルカの指輪は枕許に外し、目を閉じる。
時折、マンションの下を走る車の音を聞きながら、明日実は眠りに落ちた。
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