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ケダモノは、やはりケダモノでした
おい、明日実
しおりを挟む「おい、明日実」
貴継がドアを開けたとき、明日実は、すやすやと眠っていた。
まだ早い時間だが、疲れたのだろう。
近づくと、その枕許には、自分のあげたイルカの指輪があった。
明日実はあどけない顔で眠っている。
……………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………
……………………………………寝かしといてやるか。
貴継が部屋を去りかけたとき、明日実が机に置いていた携帯が鳴った。
今、鳴るな。
明日実が起きるじゃないか、と思い、つい、
「はい」
と出ると、
『あんた、誰?』
と女の声がした。
「あんたこそ、誰だ」
『これ、明日実の携帯じゃないの?』
「俺は明日実の婚約者だ」
と言うとあら、そう、と女は言う。
『じゃ、いいわ。
ちょっと気をつけてって言おうと思ってたことがあるんだけど。
夜も一人じゃないんなら、大丈夫ね。
あんた、誰だか知らないけど、明日実をちゃんと守りなさいよ。
じゃ』
と電話は切れた。
だから、誰なんだお前は。
っていうか、俺に名を名乗れとも言わなかったな、と思いながら、表示を見ると、『鏡花さん』と登録してある番号だった。
鏡花。
聞いた名前だな、と思う。
もう鳴らないよう電源切っといてやる、と思ったが、
『もう~っ。
勝手なことしないでくださいーっ』
とすねる明日実の顔が頭に浮かんだので、とりあえず、電源は切らずに、リビングに運んでおいた。
日曜日。
朝起きた明日実は、あのイルカの指輪をはめようかどうしようか迷っていた。
結局、はめずに、
「おはようございます」
とリビングに行くと、ソファで新聞は読んでいた貴継がすぐに、
「何故、指輪をやってない」
と言う。
その眼光の鋭さに、すぐさま部屋に取って返した明日実は指輪をはめてきた。
「おはようございます」
と頭を下げると、
「……お前は長生きするタイプだな」
と言われた。
貴方に言われるとは思いませんでしたよ、と思ったが、まあ、調子良さそうに見えて、こだわるところはこだわるのかな、と思っていた。
あの屋敷のこととか。
去り際、蜘蛛の巣の張ったシャンデリアを見上げ、
『人から取り上げておいて放置か』
と呟いていた貴継の顔を思い出す。
「おにいさまにいただいた指輪はしなくていいのか?」
と新聞を読みながら貴継が言ってきたので、
「え? しましょうか?」
と言うと、
「いや、つけたら、手を焼くか切断してやろうかと思ってたんだが」
と何処に持っていたのか、バーナーを出してくる。
ひっ、と逃げかけると、
「冗談だ。
昨日買ったバーナーだ。
料理に使おうと思って買って来た」
と火をつけて見せる。
「さては、なんでも道具から入る人ですね。
自分の家持たないのに、荷物増やさないでくださいよ」
と言うと、
「まあ、此処を出て行くとき処分するさ」
と言い出したので、どきりとしてしまう。
出て行って欲しいと願っていたはずなのに。
「……出て行くんですか?」
と問うと、
「行くとも。
お前と一緒に」
とクレームブリュレとか炙りサーモンとか作るのに良さそうなバーナーを手に、貴継は言う。
は?
「お前と結婚するとき、家を建てることにした」
「あのー、家は持たないというポリシーをお持ちなんじゃなかったんですか?」
「だから、俺の願いが叶ったとき、お前と所帯を持って、家も持つことにした」
「所帯って、古臭い言い方ですね」
とぽろりと言ってしまうと、貴継は、ソファの後ろに居た明日実の手をつかみ、
「じゃあ、もっと熱烈にプロポーズしてやろうか」
今すぐに、と言い出す。
「けけけけ、結構ですっ。
そうだ。
買い物行きましょうか、買い物っ。
今日はお休みなんですよねっ」
と話題を変えると、そうだな、と貴継は手を離してくれた。
「ベッドとパジャマを買いに行こう」
よかった。
パジャマ着てくれるんだな、と、ほっとする。
いや、今までも着てくれてはいたのだが、基本、着たくないとか、阿呆なことを抜かしていたし。
「それから、このバーナーを使えるような料理の材料を買いに行こう」
いや、使えるような料理って……。
まず、なんの料理を作るか考えてから、道具を買ってくださいよ、と思っていた。
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