ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノは、やはりケダモノでした

おい、明日実

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「おい、明日実」

 貴継がドアを開けたとき、明日実は、すやすやと眠っていた。

 まだ早い時間だが、疲れたのだろう。

 近づくと、その枕許には、自分のあげたイルカの指輪があった。

 明日実はあどけない顔で眠っている。



 ……………………………………………………………………………


 ……………………………………………………………………………
 

 ……………………………………寝かしといてやるか。




 貴継が部屋を去りかけたとき、明日実が机に置いていた携帯が鳴った。

 今、鳴るな。
 明日実が起きるじゃないか、と思い、つい、

「はい」
と出ると、

『あんた、誰?』
と女の声がした。

「あんたこそ、誰だ」

『これ、明日実の携帯じゃないの?』

「俺は明日実の婚約者だ」
と言うとあら、そう、と女は言う。

『じゃ、いいわ。
 ちょっと気をつけてって言おうと思ってたことがあるんだけど。

 夜も一人じゃないんなら、大丈夫ね。

 あんた、誰だか知らないけど、明日実をちゃんと守りなさいよ。

 じゃ』
と電話は切れた。

 だから、誰なんだお前は。

 っていうか、俺に名を名乗れとも言わなかったな、と思いながら、表示を見ると、『鏡花きょうかさん』と登録してある番号だった。

 鏡花。

 聞いた名前だな、と思う。

 もう鳴らないよう電源切っといてやる、と思ったが、
『もう~っ。
 勝手なことしないでくださいーっ』
とすねる明日実の顔が頭に浮かんだので、とりあえず、電源は切らずに、リビングに運んでおいた。



 日曜日。

 朝起きた明日実は、あのイルカの指輪をはめようかどうしようか迷っていた。

 結局、はめずに、
「おはようございます」
とリビングに行くと、ソファで新聞は読んでいた貴継がすぐに、

「何故、指輪をやってない」
と言う。
 
 その眼光の鋭さに、すぐさま部屋に取って返した明日実は指輪をはめてきた。

「おはようございます」
と頭を下げると、

「……お前は長生きするタイプだな」
と言われた。

 貴方に言われるとは思いませんでしたよ、と思ったが、まあ、調子良さそうに見えて、こだわるところはこだわるのかな、と思っていた。

 あの屋敷のこととか。

 去り際、蜘蛛の巣の張ったシャンデリアを見上げ、
『人から取り上げておいて放置か』
と呟いていた貴継の顔を思い出す。

「おにいさまにいただいた指輪はしなくていいのか?」
と新聞を読みながら貴継が言ってきたので、

「え? しましょうか?」
と言うと、

「いや、つけたら、手を焼くか切断してやろうかと思ってたんだが」
と何処に持っていたのか、バーナーを出してくる。

 ひっ、と逃げかけると、
「冗談だ。
 昨日買ったバーナーだ。

 料理に使おうと思って買って来た」
と火をつけて見せる。

「さては、なんでも道具から入る人ですね。
 自分の家持たないのに、荷物増やさないでくださいよ」
と言うと、

「まあ、此処を出て行くとき処分するさ」
と言い出したので、どきりとしてしまう。

 出て行って欲しいと願っていたはずなのに。

「……出て行くんですか?」
と問うと、

「行くとも。
 お前と一緒に」
とクレームブリュレとか炙りサーモンとか作るのに良さそうなバーナーを手に、貴継は言う。

 は?

「お前と結婚するとき、家を建てることにした」

「あのー、家は持たないというポリシーをお持ちなんじゃなかったんですか?」

「だから、俺の願いが叶ったとき、お前と所帯を持って、家も持つことにした」

「所帯って、古臭い言い方ですね」
とぽろりと言ってしまうと、貴継は、ソファの後ろに居た明日実の手をつかみ、

「じゃあ、もっと熱烈にプロポーズしてやろうか」
 今すぐに、と言い出す。

「けけけけ、結構ですっ。

 そうだ。
 買い物行きましょうか、買い物っ。

 今日はお休みなんですよねっ」
と話題を変えると、そうだな、と貴継は手を離してくれた。

「ベッドとパジャマを買いに行こう」

 よかった。
 パジャマ着てくれるんだな、と、ほっとする。

 いや、今までも着てくれてはいたのだが、基本、着たくないとか、阿呆なことを抜かしていたし。

「それから、このバーナーを使えるような料理の材料を買いに行こう」

 いや、使えるような料理って……。

 まず、なんの料理を作るか考えてから、道具を買ってくださいよ、と思っていた。


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