ケダモノ、148円ナリ

菱沼あゆ

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ケダモノは、やはりケダモノでした

ケチはつけられないらしい……

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 明日実が貴継と買い物に行き、家具屋で、
「新婚なので、キングサイズのベッドを探している」
と言い張る貴継を必死で止めている頃、顕人は、従姉の鏡花に呼ばれ、彼女の家に食事に行っていた。

「今日はゆっくりして行きなさいよー。
 引っ越しの準備も一段落してるんでしょー」
とキッチンから鏡花が言ってくる。

「ああ」
と言いながら、此処に居ても、ゆっくりはならないような、と苦笑いしていた。

 鏡花の子どもたちが背中に頭にと駆け上って、遊ぼう遊ぼうと責めてくるからだ。

 だが、心地の良いわずらわしさだった。

 こういう家庭が作りたかったな、と思う。

 子どもを育てるのに良さそうな、落ち着いた和風モダンの家。

 日当りのいい片付いたキッチンに鏡花が居る。

 その姿に、明日実を重ねていた。

 明日実とこんな家で、こんな風に暮らせたら。

 ……まあ、兄妹でも一緒に暮らせなくもないが、それは、自分が望んでいる家族の形態とはちょっと違うから。
 


「美味しい?」

 鏡花と、その物静かな夫や子どもたちと食卓を囲む。

 鏡花は、美味しい? と訊いてくるが、美味しくない、という答えは許さない女だった。

 昔、りずに何度か言って、ひどい目にあったことがある。

「美味しいよ。
 ちょっと味が濃いけど」
と昔の癖で、つい付け足すと、鏡花の夫、孝司こうじが、ぷっと笑う。

 彼も内心はそう思っているのかもしれないと思った。

 ……結婚して何年も経つ夫でもケチつけられないのか。

 鏡花と結婚しなくて良かった、と心底思っていた。

「お嫁さんになる人は料理上手なの?」

「知らないけど。
 あんまり自分で作るような感じじゃないかな」

「会ってないの?」

「なんかいつも忙しそうなんだよ。
 お義母さんと二人で、ドレス見に行ったり、向こうで使う家具とか手配したり」

「あんたと結婚したいって言うより、結婚っていうものをしてみたいから、するって感じね」
と言う鏡花の言葉に、まさにその通りだな、と思ったとき、子どもたちが、ジュース、ジュースと騒ぎ出した。

「食べてからよ」

「もう食べたよ。
 喉乾いたー」

 ……味つけが濃いからでは、と思っていると、鏡花は振り返り、茶碗をさげていた夫に、
「あなた、まなぶたちにジュース」
と命令していた。

 はいはい、と孝司は文句を言うでもなく、それに従っている。

 子どもたちがそっちに行くと、鏡花がぼそりと言ってきた。

「つまんない女と結婚したら許さないと言っておいたはずなのに、なんでこうなるのよ」

「しょうがないだろ。
 俺の意志なんて入る余地なかったんだから」

 食事が終わったあと、顕人が持ってきたケーキをみんなでテレビの前のローテーブルで食べた。

 痴情のもつれに寄る事件を見ながら、
「……殺人か」
と呟いた顕人を、ビクついた顔で鏡花が見る。

 完全に警戒している顔だった。

 そんなに今の自分はまずいだろうかな、と思う。

 まあ、勝手に明日実の部屋に入り込んだ時点でかなりだとは思うが。

 それにしても……

 なんであっさり、あんな男を見つけてくるのやら。

 いつから付き合っていたんだろうか。

 全然気づかなかった。

 あいつ、明日実の会社の人事部長だよな。

 会社の面接で出会ったとか?

 ニュースを見ながら、渋い顔をしていたら、ちょうど世界情勢についてやっていたらしく、その手の話の好きな孝司が乗って話してきた。

 それに付き合っているうちに、なんとなく気が紛れてはいた。

 心配して、此処に呼んでくれた鏡花に、ちょっと感謝する。
 


 帰りは、玄関まで鏡花が送ってきてくれた。

 子どもたちは犬の散歩ついでに、一緒に駅まで行くと言って準備している。

 それを微笑ましく見ていると、鏡花が小声で言ってきた。

「心配しなくても、どっちもあんたの子どもじゃないからね」

 わかってるよ、と苦笑する。

「顕人。
 幸せは何処から転がり込んでくるからわからないもんよ。

 私たちだって、見合いだったし。

 最初はおとなしくてつまらなさそうな人だなあって思ってたけど。

 今では上手くいってるし。

 この人で良かったって思ってるわ。

 ねえ、あなた」
と鏡花は後ろを見る。

 ……い、いつから居ましたか、と思ったのだが、孝司は笑顔で頷いていた。

 怖いな、女って。
 っていうか、度胸が据わってるっていうか。

 明日実も変なところで、肝が太いしな、と間の抜けた、もしかしたら、妹かもしれない女を思い出し、ちょっと笑った。



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