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ケダモノは、やはりケダモノでした
ケダモノな婚約者
しおりを挟むあれは、大学生のとき、明日実がうちに遊びに来たときのことだった。
庭で仔犬に襲われている明日実を微笑ましく眺めていたら、父親が言ってきた。
「お前、明日実を好きなのか?」
あれはやめときなさい、と父は言う。
抜けていて、お前の嫁に相応しくないから、という言葉を薄情にも想像していた。
そういう言葉であって欲しいと願っていたから。
だが、父の答えは違っていた。
「あれは、お前の妹かもしれないから」
父は、あっさりと、そんな死刑宣告にも似た言葉を言ってくる。
仔犬から逃れて、しゃがんだと思ったら、喜んで駆け寄った母犬に頭突きをされている明日実を見ながら顕人は言った。
「……大丈夫です。
知ってましたから、お父さん」
本当に勝手な人たちだ、と溜息をつきながら。
まあ、今のところ大丈夫かな。
顕人を見送ったあと、鏡花は携帯を手にする。
夫も子どもたちについて行ってしまった。
昨日は、明日実の婚約者とやらと話しただけで終わってしまったから、一応、明日実本人にも少し警告しておかねば、と思っていた。
何故、顕人が、明日実になにも言わなかったのか知らない。
ずっと明日実が好きだったくせに、何故、自分と付き合っていたのかも知らない。
結局、自分が勝手に見合いして結婚してしまったことで、顕人とは終わってしまったが。
あのとき、彼はちょっとほっとしていたように見えた。
最初は勢いでしてしまった結婚でも、上手く転がることもあるのよ、顕人。
早まらないでよ、と思う。
なにか今の顕人は危なっかしい感じがして、しょうがない。
特に、明日実を思い切ったつもりになっているのが、よろしくないと思っていた。
いっそ、告白してみればいいのに。
明日実は、バッサリ振ってくれることだろう。
その方が吹っ切れるだろうに。
明日実は顕人の告白を断ると思う。
いつの間にか婚約者とやらが居たせいではない。
自分で気づいているかは知らないが、あの子は最初から、顕人を兄のようにしか見てはいなかったから。
携帯を何度から鳴らすと、明日実が出た。
「あ、明日……」
実、まで言葉は出なかった。
『本当ですってばっ。
電話ですってばっ。
離してください。
警察を呼びますよーっ』
……なにをやってるんだ、この子は、と思いながら面白いので聞いていると、明日実が、
『あっ、鏡花さん、なんですかっ?
すみませんっ。
ちょっと後ろにケダモノがっ』
……ケダモノ。
夕べのあれか、と思う。
確かに、なにかこう、ケダモノっぽい。
理屈が通じなさそうというか、本能だけで突っ込んできそうというか。
「……なにやってんの?」
とずっと騒がしい電話の向こうに言ったが、まだ騒ぎは収まらない。
電話越しに聞いているうちに、ちょっと笑ってしまった。
なんだかよくわからないが、このコンビなら、大丈夫そうだ、と思う。
「いや、今度遊びに来なさいよ、と思って。
そのケダモノな婚約者と一緒に」
「もう~っ。
婚約者じゃないですっ、こんな人ーっっ」
と往生際悪く、明日実はわめていていた。
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